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40 コーヒーブレイク

 あの後桐崎をサンドバッグにした後にサッカー部の面々がやってきたので、蓮を連れて急いで学校を出た。見られた挙句戻れと懇願されると少々めんどくさくなってくるし、仕方が無い。

 駅に着く前に蓮が『あっそうだ』と呟いてから俺に提案をしてきた。


「悠真〜、例の喫茶店行こうよ」

「ん? あー、コーヒー美味しいって噂のあの? でも俺コーヒー飲めねえけど」

「なんかコーヒー以外も普通に美味しいらしいからさ〜?」


 最近よくSNSや学校内でも度々話題に上がる喫茶店が学校の最寄り駅から二駅後の駅の近くにあるらしく、蓮が前々から行きたいと言っていた。しかしその喫茶店の営業時間は特殊で、完全に店長の独断で店を開けて閉めるらしく、そのせいで予定と営業時間が合わずずっと行けていなかった。

 しかし今日は開いていると蓮が情報をキャッチしたらしいので、行くことに。電車に乗り込み二駅後の駅に到着してから喫茶店に向けて歩き始める。およそ10分程度で着くらしい。


「それにしても悠真、抜けるようになってから生き生きしてたね」

「そりゃ……一年振りくらいに対人で突破できたんだししゃあねえだろ」

「まぁねぇ……僕初めて悠真がドリブル突破してるの見たよ。上手すぎない?」


 そういえば蓮は初めて俺の真面目なプレーを見たんだったと改めて思った。蓮とサッカーは遊び程度で軽くなら何回もやっていたが、トラウマのおかげでドリブル突破なんて出来た試しがなかったので当然と言えば当然だが。


「あんなバコバコ股抜きとかって成功するものなんだ」

「桐崎の足元が緩すぎるんだよ」

「またまた〜。緩過ぎるんじゃなくて、緩くさせたんでしょ?」


 やはり蓮には誤魔化しは効かない。確かに俺はボール捌きで桐崎の足を徐々に開かせてから股を抜いていた。もちろん桐崎の足元が緩いのは事実だが、しっかり三回目以降は注意して硬くなっていた。だからしっかり開かせて抜いたという経緯だ。しっかり見抜くあたり流石と言うべきか。


「雄司、部活前なのに死ぬほど疲れてたねぇ」

「まぁあれくらいでちょうどいいだろ。あいつスタミナ無さ過ぎ」

「確かに。ゼェゼェ言ってたもんね」

「あ、ついた。ここだよここ」


 そんなことを言っていると、目的地についた。手書きの黒板式の看板が一つと、ドアには開店中の文字が書いてある板が出されている。こじんまりとしているが、逆にそれがどこかいいお店感を引き立てている。

 ドアを開けると、カランコロンと音が鳴る。カウンターの向こうで椅子に座っていた店長らしき人がこちらというか、俺を一目見るとすぐ頬を少し綻ばせてから喋りかけてきた。


「やぁ天崎くん。今日はどんな惚気だい?」

「え? 悠真来たことあるの?」

「いや無い」

「ん? あ、よく見れば確かに天崎くんに似ているけれどどこか違うね。前に話してくれていた弟くんかな」


 店長さんは自分で勝手に話を解決してしまった。どうやら俺の兄の天崎悠楽と関わりがあるらしい。好きなところに座って良いと言われたので、カウンター席に腰をかける。蓮も隣によいしょと座り込む。店長さんがお冷を出しつつ、話を続けた。


「天崎くん……君のお兄さんはよく来てくれるんだよ。盗聴か盗撮でもされてるんじゃないかって疑いたくなるくらいの頻度でね」

「そういや兄貴、最近コーヒーの匂いよくしてたな」

「僕のコーヒーがよっぽど気に入ったようで。嬉しい限りだよ」

「店長さん〜。僕コーヒーで」


 隣の蓮が注文すると店長さんは微笑みながらコーヒーを淹れ始めた。


「兄貴、そんなに俺の話してたんですか?」

「そうだね……よく話してくれるよ。瑠衣くんの話の次に」

「やっぱり瑠衣の話の次かよ……」


 最近家でも兄貴は瑠衣の話ばかりしてくる。付き合い始めたのは聞いていたが、瑠衣側からそんなメッセージ一向に来ないし兄貴がサラッと言いだしたせいで半分嘘と思い込んでいた。しかし明らかに瑠衣の話題が増えたのと、内容がほぼ惚気なことで嘘の可能性は限りなく低くなったと言うのがここ数週間で起きた流れだ。

 しかしここで何一つ知らない蓮が疑問を抱いたようで、俺に質問してきた。


「ん? 瑠衣って誰?」

「兄貴の恋人であり創作仲間でありファン第一号。いい奴だけど兄貴のこと好き過ぎ」

「あまさ……悠楽くんと瑠衣くん、互いに互いが好き過ぎて少々怖いからね……」

「悠真と華奈もおんなじようなもんでしょ〜」

「そうそう。悠真と華奈とおんなじようなもんだよ」


 俺の左隣から聞き覚えがあり過ぎる声が聞こえてきた。蓮の方向を向いていた顔を180度曲げてみると、そこには今話題の中心となっていた兄貴がいた。


「……いつからいた」

「さっきよさっき。『兄貴、そんなに俺の話してたんですか?』くらいから」

「ほぼ最初からじゃねえかよ」


 店長さんの小さな笑いと、蓮の軽めの笑い声が隠れ家のような喫茶店の店内に転がった。兄貴のせいで、コーヒーブレイクも取れ無さそうだ。俺はコーヒーを飲めないけれど。

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