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4 色々万能な分中々変人気質な兄貴がいると生活が退屈しない

「ただいま」

「おーかえりっ悠真」

「兄貴、今日は早かったな」

「おうよ〜」


 ドアを開けて玄関に入ると、リビングから兄の声が聞こえて来た。今日はバイトが早く終わったらしい。

 俺はゆったりした歩様でリビングまで向かう。リビングに入ると、キッチンで悩んだ顔をした兄がいた。


「なぁ弟よ」

「なに……」

「鶏白湯と豚骨、どっちがいい?」


 どうやら兄はもう4月に入るというのに、鍋をやりたいらしい。そしてその鍋の味で悩んでいるようだ。

 鶏白湯か豚骨と言われても、もうあったかくなって来ているのになぜ鍋なんだという疑問が押し寄せてくる。

 しかし『こういう』兄ということは、もう痛いほど知っているので今更驚かない。まぁ二個あるということは後一回は鍋があるという事だが。


「今日は豚骨で」

「よーしきた! んじゃ鶏白湯は来週だな〜!」


 やはり来週もう一回鍋の日があるらしい。ここ最近は、気温も最高15度以上というのに、兄は呑気だ。

 俺の兄、天崎悠楽(あまさきゆら)。父さんと母さんが事故で死んだ後、大学を一回生の時に自主退学し1人で頑張って家計を支えてくれている尊敬すべき人。

 ただ絶望的なまでに食べ物の季節感が無い。少し前の話をすれば、二月に急に冷やし中華を食べ始めた事もあるくらいだ。


「兄貴ってほんと、季節気にしないよな」

「んえ? 別にどの季節にどんなもの食べても一緒じゃね?」

「いや旬とかあるだろ……」

「いーんだよ細かいことは。鍋だって、一回でたくさん野菜食えるから有能なんだぞ?」


 言っていることはわかる。野菜を食べることは大切なのも分かるのだが、やはりどこかズレているとしか思えないのは自分だけなのだろうか。

 そんな話をしつつ鍋が煮えるのを待つ。兄はおしゃべりだから、率先的に喋りかけてくる。それに俺が軽く返すというのがいつもの会話だ。


「んで、新しいクラスはどーよ」

「別に。蓮がいるくらい」

「おっいいな。蓮いるなら、お前もぼっちじゃないな」

「まぁ」


 兄はまだ21歳だ。若いし年も近い。高校時代の兄貴も、俺ほどでは無いにしろかなり暗めではあったので通ずるところがある。感覚的にも俺たち2人はかなり似ている兄弟だと思う。

 それに俺が1人な事を異様に気にするところがあるので、蓮と一緒という事を告げると途端にホッとした表情になった。


「華奈は?」

「……まぁ、一緒」

「そうか。嬉しいか?」

「別にどうでも……」


 唯一敬愛すべき兄の苦手なところがあるとするのならば、華奈をよく話題に振ってくるところだ。

 でも華奈と付き合っていた頃に兄と華奈は俺の話題で意気投合して、すごく仲良くなっていた。だからどうしても気になるのだろう。

 ただ兄はあまり深くは考えず質問してきているのか、意識がもう鍋に向いている。俺の苦しい所も把握しているからの配慮なのか、単なる単細胞なのかは分からない。


「おっ、煮えてきた〜」

「兄貴、白菜はクタクタがいいって言ってるだろ」

「俺はシャキシャキのが好きだからこのまま食う」

「ダメだ。こないだの鍋の時もシャキシャキで食った」

「じゃあ来週! 来週はクタクタで食うから!」


 兄と鍋を囲みながら、そんな軽口を言い合う。これも、食べ物の好みだけは全く揃わない俺たち兄弟の日常だ。


「鍋うめぇ……」

「うまっ。兄貴って鍋だけは天才的に作るの上手いよな」


 兄の相変わらずの鍋奉行ぷりに舌を巻いていると、兄は不服そうに反論してきた。


「は? 他の料理も、トッピングは上手いだろ」

「トッピングだけじゃねえか」

「でも最近は、店長とかに料理教えてもらうし? 上手くなってるだろ」

「卵焼きを焦がさないで美味しく作って欲しい」

「焦げても美味いからいいだろ」


 トッピングが上手いと豪語する男の発言とは思えない言葉が飛んできた。

 しかし焦がしても美味しい卵焼きが作れるのは謎の才能だ。兄はそういう変な所に優れていがちだ。

 失敗した料理が美味しかったり、スポーツで偶然起こした出来事が凄いことだったり、偶に競馬で大勝ちして帰ってきたり。とどのつまりラッキーマンなのだ。

 ただ女運だけ本当に無い。中学の頃に顔はとても美人だったが、性格が悪い女に騙されかけたことがある男が俺の兄だ。

 だから俺の彼女だった華奈を異常に気にするのだろうか。自分が恋人を作れる可能性が無いから俺に期待してるのかもしれない。


「兄貴運はいいのに女運は無いよな」

「お前口達者になったなぁ……一年前は『おにいちゃんすきー!』みたいな感じだったのに」

「それは小3の頃だろ。昔の記憶を混在させて去年の記憶を捏造するな」


 やはり兄は変だ。しかしこんなでももう俺のたった1人だけの家族だ。嫌いになんて一生なれない。


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