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36 別れた理由が流石に自虐的過ぎて遂に元カノにブチギレられた

 素直に言うべきなのだろうかと頭を悩ませる。別れた理由なんて蓮や早乙女には再三行っていることだが、俺が華奈の隣に並ぶなんて相応しくないからだ。だから自ら隣の席を立ったのだが、それを華奈にはずっと伝えずにここまでなぁなぁにしてきてしまっていた。

 俺は華奈に対しては何故か別れた理由を言いたく無いのか、頑なにそれを避け続けてきた。しかし今遂に向き合わなければならない機会が来たのかもしれないと思っているのに、心が弱いから顔を背けてしまう。


「悠真のそういうところやだな」

「どういうところだよ」


 急に華奈がジト目を向けてそんなことを言ってきた。少しだけ視線を華奈に移す。


「私に対してだけずっと隠し事してたり、私のこと見てくれなかったり」

「それは……」

「分かってるけどさ……悠真が私を好きじゃ無いの。それでもそんな対応されたら流石に……」


 声が震えていて、鼻を啜る音がすぐ隣から誰もいない空き教室にこだました。すぐに顔を上げると華奈が目を潤ませて、泣くのを必死に堪えているような表情をしていた。それでも目線は俺をずっと捉えていて、離さないようにしている。

 しかも華奈は俺が華奈を好きじゃ無いと思ってしまっている。しかし仕方が無い。そう思われるような対応を取り続けた俺が悪い。


「……悠真、教えて? なんで私と別れたのか……」

「……華奈は……悪く無いんだよ……」

「……え……?」


 今まで話そうとしても一向に喋らなかった言葉が、喉のつっかえから解放されて一気に吐き出されていく。華奈は悪く無いと言えたからか、そこからは一気に傾れ込むようにずっと奥にしまっていた言葉が押し寄せてきた。


「華奈の隣にいるには……膝を怪我して何も無くなった俺じゃダメだと思って……それで頑張ってサッカーも復帰しようと思って……でも無理で……」

「……心が折れたの?」


 そう言われて俺は、首を縦に振りながら肯定の意を示しつつ、さらに言葉を続ける。


「……恥ずかしながら。それで俺じゃもう無理なんだって思っちまって……」

「私に別れようって言ったんだ」

「まぁ……そんな感じだ」

「……悠真、顔出して」

「ん……?なんだ……」


 瞬間、頬に思い切り平手が飛んできて乾いた音が一気に身体中から部屋全体に響いた。

 混乱しつつも妙にスッキリした頭で現状を再度纏めて、目線を華奈に向け直す。さっきまでの泣きそうな顔とは一転して、静かな怒りが滲んだ表情に切り替わっていた。


「悠真さ……私そんなこと一言も言ってないよね……? 私がいつ悠真は私に相応しく無いとか言ったの?」

「言ってねえけど……俺が判断した」

「悠真さ……私のことどう思ってんの……? 今まで私の行動とかどう感じてたの? そんな理由で別れて無理やり突き放されてさ……私……」


 普段ならば絶対にしない張り手とその言葉で、また頭の霧が少し晴れた気がした。思えば別れたのも俺の勝手、その後突き放して言葉も交わそうとしなかったのも俺の勝手で、華奈の意思や想いをずっと無下にしていた。友達になんとか戻ってからの華奈の明るい接し方にも、かなり暗めに対応していたし、むしろ迷惑とすら思っていた時期もあった。

 でもそんな対応を好きな人にされたら、どれだけ苦しいだろう。しかも無理に別れを告げられただけならまだしも、ずっと避けられていたのだから。


「悠真……蓮がいなかったら今も絶対私のこと避けてるよね……? 絶対友達に戻れてないし、絶対私の好意も伝えられないし……」

「か、華奈……?」

「私がどれだけ……どれだけ悠真の事が好きか知らないじゃんか……! 悠真が好きな理由は無いけど、悠真の好きなところなんて沢山あるよ! サッカーが出来ないなんて知らない! 悠真だから好きなの! 悠真じゃ無いと私は嫌なの!」


 華奈の普段絶対見せない苦しそうな表情に共鳴するように荒くなる声色。必死に顔を真っ赤にしてそう伝えてくる華奈の姿にまた俺は俯いてしまう。

 改めて感じてしまう俺には勿体無い人だという感覚。こんなにも人を愛せて、人を好きでいられる人に自分じゃダメだと思ってしまう。そんな事を思わせるために華奈が言っているわけじゃ無いことも理解しているのに。


「……悠真はどーなのさ……私が好き? それとももう私なんて知らない? もう星來の方が好き?」

「いやそれは無い」

「いやあるじゃん。二人でウォータースライダー滑っただけじゃ飽き足らず、デートまでしてさ。私と二人でデートとか別れてから一度だってしてないのに」

「そりゃ……距離感があるだろ……?」

「星來と私は同じ『友達』なのに、星來との距離感は全く守られてないじゃん」


 なんとか逃げようとしても、丁寧に囲まれて逃げ道を塞がれる。どうにかしないといけないのだが、頭が晴れすぎていて思考するのにラグが生じてしまう。いつもいつも考え込んでいるのに、こんな時に思考できないなんてポンコツすぎる。


「早乙女は……! 言っても聞かねえし……」

「じゃあ私ももっと攻めるけど。言っても聞かないよ? いいの? 星來が許されるなら私も許されるよね?」

「いやダメだそれは絶対やめろ。早乙女と華奈とじゃ勝手が違いすぎる」


 朝の空き教室での舌戦はまだしばらく収まりそうになかった。そして収まりそうに無かったからか、俺も華奈も金髪の女の影に全く気づけていなかった。

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