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33 親友がモデルとデートしてるかもしれないので天変地異を恐れておく

 『好きだ』


 あまりにも唐突に、そしてあまりにも簡単に出た言葉。別れてからもう9ヶ月程にしてそこから今の今まで頑なに言わんという姿勢を見せていたのに、口から出たら割とすんなりしていた。

 なのにその言葉は華奈の耳には届いておらず、まさかの不発であった。


「ねぇ〜悠真〜。花火綺麗だったねぇ」

「おう。まぁまぁだったな」

「またまた〜」


 正直花火とかどうでもよく、花火を眺めている華奈の顔をずっと見ていたので綺麗かどうかなんで全く知りもしないのだが、華奈の顔はその花火よりも多分綺麗だったと思う。

 自覚が芽生えて感情が蓋から溢れてしまっては、もはや吹っ切れるしか無い。今までの攻防は一体なんだったんだと言われるかもしれないが、仕方ない。

 

「ん?」

「あれ?」


 ふと前を見ると、なにやら見覚えのある後ろ姿があった。それも隣にはついこの間知り合ったやつの背中も見えていた。


「あれってさ、悠楽さんだよね?」

「だな」

「隣の人って……まさか!」

「いやまだ分からん」


 確かにその姿は兄貴と、その兄貴となにやらただならぬ関係にある瑠衣だった。あの二人が付き合っているのかどうかは未だ知らないのだが、最近此間よりもお金に対して強欲になってきている兄貴の姿を見ていると、確実に何かはあったんだろうなとその日に察した。

 華奈がキラキラした目で話しかけたいという欲望と、あの二人の空間を邪魔してはいけないという理性で戦っているようだった。そんな華奈を見ていると、兄貴がふと振り返って俺を見てきた。でも兄貴は特に俺に何を言うでもなく、アイコンタクトで『やっとかよ』とだけ送ってきた。なにがやっとだよと俺もアイコンタクトを送ると、兄貴はフッと少しだけ笑って前を向き直った。

 そんな兄貴の背中を眺めつつ、華奈を諭して別方向に転換する。兄貴は兄貴の時間があるし干渉は不要だろう。兄貴も俺と華奈が付き合っていた時から別れて今に至るまでずっと俺たちに過干渉してこなかったし、お返しだ。


「つか蓮はどこ行ったんだ」

「さっきお迎えする人がいるってメールで言ってたけど」


 蓮のことだし絶対に適当な嘘だろうが、誰かを取り敢えず聞いておく。


「誰だ」

「多分……結衣かなぁ」

「……は? 黒田結衣? なんで?」

「え? あ、そっか悠真はプールの日途中で帰ったから知らないんだっけ」


 華奈はそう言うと、俺が帰った後のあの日のプールでのことを話し始めた。


「実は悠真が帰ってから結衣が途中で来たんだよね。で、結衣を迎えに行ったの結局誰だったのって話になって」

「それが蓮だったと?」

「うん。なんか蓮が独断で迎えに行ってたらしいよ」


 相変わらず行動が読めないというか、あいつは面白いと判断した相手や事象に対しては訳のわからないレベルで干渉してくるし、まぁ蓮っぽいといえば蓮っぽいとも思う。


「それでその日は結衣にずっと蓮がつきっきりでさ」

「あーもう色々見えたわこっからの展開」

「そうだよねぇ……蓮ってほんと人たらしだよねって再認識したよ……」

「で、今日は黒田結衣とデートと……」

「まぁ確実に。そのついでに私のところまで悠真を連れてきてって言ったの」


 あいつのことを舐めていたかもしれない。自分のことを捌きつつも、自分が干渉したい相手にもしっかり干渉してくるあたりに、もはや一種の執念すら感じる。

 しかし黒田結衣と成宮蓮が二人で並ぶと考えると、あまりにも顔面の指標が強すぎて世界のバランスがおかしくなるのではと危惧する。


「蓮ってモデルと並んでもキラキラしてそうだよな」

「分かる。むしろ相乗効果で二人合わせてさらにキラキラしてそう」

「……蓮に恋人ってあんま想像つかないな」

「私も〜。蓮、女の子に興味なさげだしなぁ」


 蓮はもちろんモテる。去年のバレンタインなんて、毎分チョコをもらっていると錯覚するレベルだったし、学校を並んで歩いていても成宮さんだとキャーキャーされている。

 でもいくら告白されても絶対付き合わないし、『恋愛はやるより見る派だから』とか言うスポーツでしか聞かない文面の言葉を言い放ったこともあった。

 そんな蓮がデートしているかもしれないなんて、天変地異かもしれない。


「明日槍降るかもな……」

「だねぇ……」


 そんなことを言い合いつつも、俺も学年で人気な華奈とナチュラルにデートしてるんだよなと今更思い返して、若干顔が赤くなった。

 

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