31 親友が俺を夏祭りに連れ出した
夏休みも中盤に差し掛かる時期、俺は頭の中が早乙女と華奈でいっぱいいっぱいになっていた。
早乙女の俺のことを好きになった理由も、華奈が俺を好きになった理由もどちらも理解できる。理解できるからなのか、はたまた気持ちの入り様なのかは定かでは無いが俺は早乙女の気持ちに答えられないかもしれないと思ってしまった。
でも華奈の時はそんなこと一切無かった。むしろ、その『好きになるのに理由は要らない』という言葉が心に深く刺さって一気に華奈に寄せていた好意が爆発したのをよく覚えている。
「……もしかすると……な」
ベットからむくりと起き上がって、胡座をかきながら腕を組む。
俺は華奈と別れてから今までずっと華奈のことはもう好きでは無いと言う前提で華奈と友人関係でいた。逃げているとわかっていながら、ずっとずっとそのマインドを崩していなかった。
でも早乙女とのことがあって再び俺の心に蓋をした感情が湧き上がっている感覚を覚えた。早乙女のことが刺さらないの、手が触れてドキドキしないのも、あんなに近くにいても何も思わないのも多分、そういう事なんだろうと思わざるを得ない状況に陥っている気がする。
「……もう逃げれないかもな」
そうポツリと一言漏れた。俺自身が自覚していなかったことと、もう違うと顔を背け続けて蓋を閉めていた感情がまた湧き出て止まらなくなっているのを密かに感じたからだ。
そんなことを考えていると、ピンポンと家のベルが鳴った。玄関に行き出てみると、そこには久しぶりに見た親友の姿があった。
「や、悠真」
「よう。久々だな」
「なんで連絡してくれないのさ〜? 寂しいじゃんか」
「別にしなくていいだろこうやって勝手に家に来るんだし」
「えへへ」
蓮はニコッと微笑みなつつも、俺のことをよく眺めてからふぅんといった様子で感嘆したような声をあげ始めた。
「なんだよ」
「いや……もうそろそろかなって」
「何がだ」
「んー? こっちの話っ。それで今日来た要件なんだけど〜」
そう言いながら本題にうまいこと話をすり替える蓮に怪訝な目を向けつつ、頭を本題へ切り替える。
「今日花火大会あるじゃん〜? いこーよ」
「……野郎二人でか?」
「そーそー。行く相手もいないでしょどうせ」
「一人で行けよ」
「やだー」
俺の手を引っ張って行くぞという意思表示を見せる蓮と、ひたすら嫌だと応戦する俺という構図。玄関前で勃発しているので他人から変な目で見られそうだなという思考が頭に過ってしまい、俺から折れることにした。
「わぁったよ……軽く着替えるから待っててくれ」
「はーいっ」
扉を一旦閉めて、ズボンを着替えてから薄手の上着を羽織って再び玄関の扉を開ける。そして蓮と並んで花火大会の会場まで歩く。
「つかお前花火見たいとか言うキャラだっけ」
「んー? まぁ諸々の理由でね」
「はぁ?」
「後で分かるよ」
不気味だ。こういう時の蓮は確実に何かを企んでいる時の蓮ということを俺は嫌というほど知っている。
そもそもこの夏休み連絡は取っていても直接会いは一度もしなかった蓮がいきなり家に来たのも不可解だ。確実に何かがある。
そんなことを考えていたらすぐに会場まで着いた。おおよそ15分ほど歩いたのかと思っていると、蓮が俺の手を引いてとある場所まで歩いて行く。
「おい蓮? なんなんだよ」
「……はいっ、悠真」
「んだよ」
「悠真はここから真っ直ぐ歩いて行ってね。僕はトイレに行ってくるから」
「は?」言う前に蓮はそそくさとトイレの方へ向かって行った。意図が全く見えないがとりあえず指令に従って真っ直ぐ進む。
真っ直ぐ真っ直ぐ歩いていくと、よく見慣れた少し癖毛な黒髪が見えた。
「……」
「あ、悠真……!」
「……蓮の野郎……」
蓮に怒りが湧いてきたが、華奈の笑顔とその姿を見ると途端に萎んでいってしまった。
今日は多分何かが変わる日になる。そう漠然と思った。




