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3 顔面優勝の親友と相変わらずな元カノとの雑な日々

 電車に揺られるというのは案外悪く無い。満員電車でも朝のモヤがかかった思考が冴えていくので、俺からすれば割と好印象だ。

 ただ熱い。蒸れるし、中は人口密度がとんでも無いことになっているので、体温がどんどん上がる。

 だから電車から降りてすぐ向かうのはコンビニ。そしてそこで大好物のアイスを買う。これが普段のルーティーン。


「今日はパピコっと」


 シェアするべき相手はいないが1人で2本も食べられると考えれば、何だかお得な気がするアイス。

 今日はシンプルにコーヒー味を買った。コンビニを出て、すぐに一本口につける。


「んー……うま」


 満員電車の中で火照った体を一気に冷やしてくれるアイスは偉大だ。

 アイスはずっと大好きだが、去年一時期アイスを食べ過ぎてお腹を盛大に壊したことがあったのがトラウマで、しばらくは朝にアイスを買い食いしなくなっていた。

 最近はもうそのトラウマも無くなったから、また食べるようになった。相変わらず美味しい。パピコならお腹を壊しても無限に食べれてしまうかもしれない。


「ん? 兄貴からなんか来てる」


 パピコを食べながら学校へ向かっている途中にふとスマホを見てみると、兄からメッセージが飛んできていた。

 内容は『今日の晩飯は自由に食ってていい』というものだった。兄はいつも夜遅くまでバイトを入れているので、早く帰ることは少ない。ただ晩飯を作れないくらい遅く帰ってくる時は、こういうメールを入れてくる。

 律儀な兄だと思いながら、パピコを吸う口を止めずに、メッセージを返す。


「了解っと。パピコもう無くなっちった」


 夢中で吸い過ぎているといつもパピコが消えている。袋の中に空になった残骸を戻して2本目を手に取ったところで、横からドンッと肩をぶつけられた。このヤンキーみたいな絡み方を俺にしてくるやつは1人しかいない。


「はぁ、華奈……」

「ざぁんねんっ。僕でしたっ」

「蓮かよ」


 絡んできたのは予想していた奴ではなく、俺を確実にイジろうとする気満々の顔をした親友だった。


「露骨に残念がらないでよ〜傷つくなぁ」

「残念がってない」

「パピコちょーだいっ」

「やらない」

「ケチんぼ〜」


 蓮は口を尖らせながらいつもの調子で絡んでくる。俺も全く遠慮してこないこいつの絡み方がありがたいと思う反面、少しウザいと思う事もある。

 ただウザいと口にすると何故かこいつはもっとウザくなるので、言わないようにしている。蓮には何を言っても無駄だ。


「つか蓮はなんでいつもより遅いんだ」

「んー? なんとなく? というか、昨日のスキャンダル見た?」

「いつもの事だが、話題がカス過ぎる」


 蓮は他人の恋愛が大の好物だ。純愛は勿論、芸能人のスキャンダル等のドロドロしたものも含んで。週刊誌を読み漁っては芸能人のスキャンダルで笑い転げている悪魔みたいな性格をしている。

 今日の話題は『有名な読モが高校生男子と夜の密会を行なっていた』というものだ。いかにも蓮が喜びそうな題目。


「その読モね〜? こないだのテレビで『私は絶対に恋人は作らないです〜』とかニコニコ言ってたんだ。笑っちゃうよね」

「マジでお前いい性格してるわ」

「だってさ〜恋愛っておもしろくない? いっときの熱を帯びた感情で、人生がめっちゃくちゃになっちゃうの」

「……まぁな」


 その蓮の一言が何だか俺のことを刺してきているようにも聞こえた気がした。でも多分、勘違いだろう。


「ふふっ、あははっ……! 悠真何その顔っ……」

「は?」

「今の顔、あはっ……!」

「人の顔見て爆笑とはいい身分だな?ぶん殴ってやる」


 俺の辛気臭い顔を見て急に爆笑し始めた蓮。多分蓮の感性で見たら相当面白い顔をしていたのだろう。

 それはそれとして普通に腹が立つ。顔を見て笑われるのは正直苛立って仕方が無い。


「自分の顔がいいからって、他人の顔で笑うんだなお前は」

「そーそーそーっ。その顔だよ悠真。そういう感情籠った顔のが、悠真っぽい」

「…………」

「にひっ」


 やっぱり蓮には敵わないと思った。対応しにくいし、何より感情をどんなに偽っても見抜かれてしまう。

 感情が抜けてる表情でも、俺の心の底を見抜いてくるような男だ。流石としか言いようがない。


「だよねぇ華奈」

「は?」

「うんうんっ! 今の悠真、すっごい感情出てた! 久しぶりに!」

「……パピコやろうと思ったけど、やめた」

「なんで!? ちょーだいよ!!」


 急に真横からヌッと出てきた華奈が、ウザったい顔をしながら俺の顔を覗き込んできた。

 その行為が何か気に食わなくて、胸の中がザワザワした気がした。だから照れ隠しみたいに、雑な対応をするのが精一杯だった。

 ニ年生になった俺の日常。ストレスは溜まりそうだが、それ以上に気楽でありがたい好きな日常だ。

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