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24 ギャルの攻撃力は高い

 待ち合わせ場所で女子軍を待っている間も、ひたすら周りの桐崎を筆頭とするアホ五人に筋肉を触らせろと言われる。今日は異様に人の視線も感じるし、上着くらい羽織ってくればよかったかと今更ながら後悔する。


「はぁー……俺も運動してんのに」

「俺だって鍛えてるつもりなのに自信無くすわ」

「僕は食事制限だけだけど……この肉体は憧れちゃうなぁ」

「天崎ってなんか元々やってた?」


 答えようとしたら、横の桐崎がいきなりシュバってきた。


「悠真はサッカーやってんだよ! な!」

「まぁ……お前が言う必要ある?」

「おう!」

「まぁ確かに雄司がドヤる意味はわからんな」


 そんな話をしていると、向こうから女子陣がやって来るのが見えた。知ってるやつはほぼいないものの、この際割り切って楽しむ方向にシフトしてもいいのかもしれないと、周りの男共のお陰で少し思い始めた。

 そして先ほどの桐崎みたいな反応をしてきた奴が一人。


「わぁ!? 天っち何その身体!?」

「何と言われても……」

「わぁ……触りたーい……」

「やめろ」


 桐崎と全く同じことを早乙女に言われると、また少し意味合いが変わってくるのではと思ってしまう。実際周りにいたさっきまで楽しげに話してきてくれた男子達が血涙でも流してるような目で俺の方を見てくる。


「えー? あたしに触られたく無い?」

「いやそうじゃなくて……普通に触る意味無いだろ」

「でも華奈には触らせるでしょ」

「触らせねえ。あと近い」


 今日の早乙女は中々距離が近い。意図的かはたまた何も考えずに近づいているのかは分からないが、肌が触れ合ってムズムズする。

 ふと前を見てみると、華奈がジトーッとした目を俺と早乙女……というか俺にだけ向けてきていた。

 まるで『何鼻の下伸ばしてるの』とでも言いたげな目だが、何も伸ばしていないのでそんな目を向けられる筋合いは無い。


「葛葉、助けろ」

「え? 私は遠慮するよ? だってめんどくさいもん。よーしみんなー泳ぐよー」


 そう言って葛葉が早乙女と俺を除く全員を先導してプールの方に向かって行った。

 恐ろしく気まずい。いつもの制服ですら割と着崩している早乙女でも、流石に水着姿となると訳も違う。


「ねぇ天っち〜?」

「あん」

「水着どう? 似合う?」


 そう言ってくるんっと軽く回転して見せる早乙女。

 シンプルな黒の水着なのだが、前の宣言通りのビキニなので目のやりどころに困る。変なところを見てしまわないようにするあまり、早乙女がそれを察してきたのか、ニヤーっとした笑みを浮かべながらにじり寄ってきた。


「天っち〜? 水着見てくれないと似合ってるか判断できなくなーい?」

「いや似合ってるから……変なとこ見ないようにしてんだよ」

「変なとこってどこよ〜?」


 なんの容赦も無しに頬を指で突っついてくる早乙女。うざったいと思いながらも、どうやってこの状況を掻い潜ればいいのかも分からないのでただこの早乙女の攻撃を受け入れるしかない現状がとても嫌になってくる。


「ねー天っちー? あれやりたーい」

「あれ……?」


 早乙女が指差したところを追うと、デカいウォータースライダーが。


「めちゃくちゃ並びそうだが……」

「いーのいーのー! いくぞー!」

「えぇ……ってうおぉっ!? 引っ張るな!」


 俺の答えを聞くことなく、有無を言わさず俺の腕を掴んでズルズルとウォータースライダーの方向へ引っ張っていく早乙女。

 そして案の定、ウォータースライダーは割と並んでいた。階段を少し登ったところで列に参加。


「いやぁ何分待つのかなぁ」

「さぁな……つか一人で乗りたいなら俺着いてくる意味あったか?」

「え、何言ってるの天っち?」


 一段上にいる早乙女がこてんと首を傾げた後に、俺の耳の辺りまで頭を持ってきて囁き声で一言つぶやいた。


「天っちと一緒に乗りたいんじゃん」


 背中がゾワッとした。熱を帯びていて吐息が混じっている甘い声が耳を貫通して脳みそに響いてくる。

 ついこの前までの早乙女は、どちらかと言うと俺と華奈をくっつけるために四苦八苦していたはずだ。でも今の早乙女はまるで違う。勘違い男みたいで嫌な思考ではあるが、早乙女がこんなにも分かりやすいアプローチを仕掛けてくるのであれば察せざるを得ない。


「……それ、どういう意味だよ」

「んー? どう言う意味だろーねぇー?」

「てか一緒に乗るってどう乗るんだよ」


 そう聞くとまたこてんと首を傾げてから、ニマーッとした笑みを浮かべて俺の太ももを指差して一言。


「天っちの太ももにあたしが乗って一緒に滑るんだよっ」

「……ふざけてるか?」

「大真面目」


 俺はここで死ぬかもしれないと思った。

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