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23 プール回の本題に入るまでの繋ぎのムズムズ感

 半ば無理やり行くことになったプール。しかも行くやつが学年のカースト最上位の集いらしい。

 何故俺が参加するのかなんて、華奈と早乙女のゴリ押しに決まっている。葛葉がそう言ってたのだから。

 憂鬱な気分でジリジリと太陽が照りつけて暑い道路を、重い足取りで歩く。駅までの道がとても長く感じる。

 最寄りまで行き、電車に乗り込む。満員だったので本当に言葉にできないくらい暑かった。駅に着いてからすぐに電車を出て、集合場所に向かう。

  

「いた……」


 もう見るだけで嫌になってくるくらいうるさい。声のボリュームはものすごく健常なのだが、雰囲気がもううるさい。

 まさしくみたいな感じだし、男が割といることに何故か異様にムカついてくる。華奈の水着を見られるからなのかと思うが、そんな事はないと無理やりその思考を退かす。


「鬱だ……」

「なにが?」

「葛葉か……いやあの空間に飛び込むのが鬱だ」

「まぁ天崎くんからすればあれは苦行か……でも安心し。今日はなんと結衣も来る」

「……あー。六組のモデルの」


 六組にはモデルを生業としている人がいると聞いたことがある。華奈と双璧を成すもう一人の高嶺の花だってクラスで男子が馬鹿騒ぎしていたのを覚えている。

 実物を見た事はないが、モデルをやるくらいなのだから綺麗なのだろう。噂によれば『透き通るような黒髪』やら『プロポーションがとてつもない』やらなんやら言われている。


「で? その実物は?」

「なんか誰かが迎えに行ってるらしいんよ。でもあそこのみんな誰も抜けてないって言うから謎が深まってる」

「ふーん……」

「興味ないん? あ、天崎くんは華奈にしか興味ないか」


 うるさいなと睨むが、全く気にしていない様子でグループの方に歩いて行く葛葉。その後ろをトボトボと歩いていく。できるだけ目立たないようにするのが今日の目標だ。


「よすー」

「透ーもう行く?」

「結衣は誰かが連れてくるでしょ」

「そーそ。俺らは一足先に行っておこうぜ」

「じゃあそーしよかぁ」


 そう言ってみんな歩き出した。俺も後ろをトボトボ着いていく。前の奴らが楽しそうに話しているのをひたすら後ろから眺めるのみ。華奈も楽しそうに周りと話しているし、早乙女も男子が周りにたくさんいる。

 そして俺の隣には……


「悠真ってこう言う集まりに来るキャラなんだな」

「桐崎。お前優しくね」

「え、なんで?」


 桐崎がいる。クラスも違うし俺から積極的に絡みにもいかないのに、毎回会えば話しかけてくるしこう言う時にもいつもの輪に入らず俺に気をかけてくれるところはかなり好感が持てるし、普通に安心する。


「華奈に対して異様に変じゃなけりゃ蓮にも対抗できる人間だと思うんだがな……」

「成宮には勝てない。何しても勝てる気がしない」

「お前でそう思うなら誰も勝てねえだろ」


 蓮という男のブランドとしての強さと、男としての格の違いを改めて認識した。桐崎はイケメンだし性格も良いし、華奈にのみ異様にキモくなること以外は蓮にも負けていない気がするのだが、それでも無理らしい。


「はぁ〜……白石さん可愛い……」

「……優しいって言ったの取り消そうかな」


 そんなことを言い合っていると、目的地に着いた。

 かなりデカめの市民プール。流れるやつもあればウォータースライダーもあるまさしく夏という感じ。

 更衣室前で男女に分かれ、再度集合することとなった。


「はぁ〜……黒田さん来ねえのかなぁ」

「いいだろ結衣さんいなくても白石さんとか星來いるんだから」

「そーそー」

(黒田……あぁ結衣って人の苗字か)


 カースト上位勢がこぞりにこぞってみんな名前を呼んでいる黒田結衣(くろだゆい)というブランドは、やはり凄まじい。学校から飛び出て、世間でも推されているらしいから当然と言えば当然だが。

 黙って着替えていると、隣にいる桐崎が大声で叫んだ。なんだと思ってそっちを見れば俺の身体を見て目をひん剥いている桐崎が。


「……んだよ」

「おまっ……お……! なにその腹筋!? なにその肉体!?」

「何って言われても……筋トレしてるし」

「いやいや! バッッキバキ過ぎだろ!」


 その桐崎の言葉を聞いたのか後ろにいた男子達が寄ってきた。


「おー? おおお!?」

「いや想像以上に!」

「お前すげえな……ってか、体育祭でクソやばかった奴じゃん!」

「そーだ! 雄司がボコボコにされた!」

「いやうるせえよ!」


 俺を囲んで俺の身体で盛り上がられている。

 語弊しかないが、事実なのでこれ以上どう説明してもこれ以上分かりやすい説明が無い。

 

「なぁ腹筋触らせろよ」

「いや……無理」

「俺は良いよな悠真。なにせ友達だし」

「桐崎は……なんか嫌だ」

「は?」


 そんな会話を挟みつつ水着に着替えて、待ち合わせ場所まで向かう。基本相手が話してきてそれを俺が簡単に返すという会話のラリーではあったが、全員いい奴だったのでそれでも面白い面白いと笑ってくれた。


「天崎って割と面白いな」

「ほんとほんと。クラス一緒ならなぁ」

「雄司も一緒じゃ無いんだもんな? 誰が誘ったんだ」

「あー……誘ったのは葛葉で、推薦かなんかしたのが早乙女と華奈らしい」


 それを言うと桐崎含んだ五人が全員凍った。

 なんだと思って五人を順番に見ると、桐崎が俺の肩を掴んで一言だけ言い放った。


「悠真……今日は大変だぞ」

「……は?」

「とにかく星來に気をつけろ」


 言葉の意図がすぐには理解できなかったが、その瞬間夏に入ったというのに、異様な寒気が俺を襲った気がした。

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