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22 兄貴のバイト先に行ったら兄貴がレジで女とイチャイチャしてた時の弟の対応

 そんなこんなで早乙女の強襲をなんとか退けて、帰路に着く。ただ今日は少し本屋に寄りたい事情があって、兄貴がバイトしている本屋まで行くことにした。 学校へ行く時と同じ路線の電車に乗って、二駅で着く場所に隣接されているショッピングモール内の本屋で兄貴はバイトしている。

 あまり行く機会も無いが、兄貴が働いている姿を見学しに行く、もとい茶化しに行くのは割と好きだ。なにせいつもふにゃふにゃしている兄貴が真剣な顔をしているのだから。

 ただ今日は行くべきではなかったと、店の出入り口を通った時に思った。


「いらっしゃ……い」

「ん? ん!? ユラユラにめちゃくちゃ顔似てる! 誰!?」

「……何してんだ……兄貴……」


 兄貴が、ワンオペとはいえ店のレジで堂々と女と喋っていた。それも見るからな俺と同じくらいの歳の女と。

 兄貴は21歳、俺は16歳実に五歳の歳の差。つまりあの女が俺と同い年の場合、兄貴は普通にアウトだ。


「あー……兄貴、説明」

「分かった。説明するから。瑠……Jewelは取り敢えず本とか見てて」

「了解」


 Jewelと呼ばれたその人は、俺に一つ軽く会釈をしてから、本棚に消えていった。

 そして俺は、レジに肘をついて兄貴に詰め寄る。兄貴が女運皆無なのは百も承知だ。あの女も言いたくないが外れかもしれないという不安と、もし本当に俺と同い年ならやばいぞという圧をかける。

 しかし普段から超マイペース、他人の意見は自分の意見を喋ってから聞く、鍋の〆のラーメンを最初に入れる等やっている兄貴にそんな圧が効くはずもなく、普通に喋り始めた。


「あー……あれJewel。俺のネトモ兼ファン一号」

「てことはネット小説読んでくれてる人なのか」

「そうそう。あいつも投稿してる」

「てことはJewelはPN(ペンネーム)か」

「そゆこと」


 兄貴は『ユラユラ』というペンネームでネットに小説を投稿している。筆の速さとストーリーの面白さで割と人気らしい。前調べてみたらフォロワーがすごくたくさんいた。


「で? あの人とはどういう関係で?」

「たーだーの友達だっつーの。別に付き合っても無い」

「ふーん」


 ジトっとした睨みを向けると、兄貴は少しだけ顔を背けた。

 こういう時の兄貴は変に分かりやすい。おそらく兄貴はあの人が好きなのかもしれない。

 しかしこの男の女運の無さを知っている為に、嫌でも警戒してしまう。


「でも兄貴、女運無いしやめとけよ」

「あ〜……それは大丈夫。あいつは違うから」


 一瞬言葉の意味が理解できず首を傾げたが、兄貴が察しろという目を向けてきてすぐに分かった。


「なるほど。"そういう"やつか」

「そうそう」

「なら安心だわ。ちょっと話してくる」


 そう言い残した後、レジを離れて本棚の方に向かう。Jewelさんが向かったのは、確かライトノベルのコーナーだったはず。


「ん? あ、悠楽にめちゃくちゃ似てる人」

「そんなに似てるか?」

「似てる。なんか雰囲気とか顔とか色々」

「この前髪を掻い潜って顔が見えるのか」

「俺すげーだろ」


 ふんすと胸を張り腰に手を当てる仕草は、少し可愛らしい。でも言葉遣いやら所々の所作に一人称は『俺』と、男っぽい部分もしっかりある。

 おそらくは身体が女で心は男とかそんな感じだろう。それなら兄貴にもおあつらえ向けの素晴らしい人だなと心の中で静かに納得する。


「まぁな……俺悠真な名前」

「悠真か! 俺宝谷瑠衣(ほうたにるい)

「瑠衣ね」

「てか悠真と悠楽っていいな」


 急に変なことを言い出した。突拍子の無いことを急に言い出すところまで兄貴と似ているのは、もうお揃いカップルになれと神様が言っているのではと思ってしまう。


「なんか兄弟って感じじゃん? 名前の最初が同じ漢字って。俺一人っ子だからそういうシンパシー無いんだよ〜」

「……まぁ、確かに」

「だろ」


 そう言ってニカッと笑う瑠衣が、何故かとてもかっこよく見えた。

 自分を持っていて、自分の意見があってそれをしっかり伝えられるのは才能だろう。まぁネットで作家をやっているからなのもあるのかもしれないが。


「瑠衣」

「ん?」

「連絡先教えとく。兄貴のことでなんか知りたかったら連絡しろ」

「マジ!? よっしゃ!!」


 身体と見た目、声音が女でも仕草や声色だけでここまで男に見えるのかと感嘆する。

 こいつなら女運皆無の兄貴でも安心できるなと、弟心に思った。

 そしてお目当ての本を持って兄貴が鎮座するレジまで戻る。


「ほらさっさとレジ打てよ」

「店員に対する態度じゃねえな」


 そんな軽口を言った後、兄貴がバーコードリーダーに本を通す。


「兄貴」

「なんだー?」

「瑠衣とは犯罪にならない程度にな」

「は?」


 俺の言ってることが理解できないような顔をした兄貴を放っておいて店を出る。

 なんだか、両親が死んでからずっと俺に構ってばかりで一人の時間や、好きな人一人作らなかった兄貴にあーいう人が現れてくれたのが、今はとても嬉しかった。

 まぁ兄貴が犯罪者にならないことを祈るしか無いが。

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