幕間 私がまた貴方で満たされる毎日をもう一度
私には好きな人がいる。
春に付き合い始めて、文化祭の日に別れた人。他人には優しすぎるくらい優しくて、自分には厳しすぎるくらい厳しい。
私は何も気にしないのに、自分が私に見合うほどの価値があるのかをずっと悩んでいて、どれだけ言っても聞く耳を持ってくれない。
何を言っても、『俺はお前の横にいるべきじゃ無い』の一点張り。なんでそんなことを言うのと聞いても何も答えてくれない。悲しかった。私は貴方がいいから、私は貴方が好きだから貴方に告白したのに。
何故そんなことを言うの。
「……悠真」
悠真は今日は病院らしい。学校に来れるくらい膝は回復したけれど、定期的に病院に行かなければならないようだ。
八月に膝を大怪我して、そこからすごい回復力で十月までに治して学校に来て走れるまでになった。でも、サッカーはもう出来ないらしい。詳細に言えば、出来なくなった。シュート、ドリブル、クロスと一通りの動作は問題無く出来るけれど、人を抜くとなると怪我を負わされた時がフラッシュバックして抜けないようだ。致命的なトラウマを植え付けられた結果、彼はサッカー部を辞めた。そして私の彼氏も辞めた。
「私はさ……もっと一緒がいいよ……」
「あ、いた」
私を探していたような声が聞こえて前を向くと、そこにはこの世のものとは思えないほど美形な男子がいた。薄い金色の髪を結っていて、顔のパーツ一つ一つが神様が厳選したみたいな完璧具合。立ち居振る舞いや雰囲気全てに品がある。
この人が噂の成宮くんかなと、思い当たる名前を思い浮かべる。友人が興奮気味に語っていたのを思い出した。特徴も一致する。
「白石さんだね。噂通り可愛いね」
「……ナンパ?」
「違うね。僕は別に二人の仲を引き裂く気も無いしね」
「……え?」
私と悠真が付き合っていたのは、今ではもはや知る人がほぼいない。そもそもみんなに秘密にしていたので知る人の数が少ないのはあるけれど。
じゃあなんでこの人が知っているのだろう。
「あー、悠真と白石さんが付き合ってたのをなんで知ってるか分からないよね」
「うん」
「まぁ簡単に言うと、本人から聞いたんだよね」
「え? ゆ、悠真が話したの?」
「そうだよ。僕が聞き出したが正しいかも」
成宮くんは人たらしと聞いたけれど、まさかあんなにも暗くて近寄りがたい雰囲気を出している悠真にすら臆さず突貫して、あまつさえ絆して私との関係を聞き出したのかと感嘆する。
「悠真、強情だったでしょ?」
「本当だよ〜。最初はそもそも話してくれないし、近づくだけで舌打ちされたし……」
「よく挫けないよね……」
「だってさ〜? 面白そうだったんだもん」
目の前の天使と間違えそうなほど綺麗な顔をふにゃ〜っと緩ませて、そう言う成宮くん。
成宮くんにしてみれば、立場とか人の目とかそういうのは全く関係ないんだろうなと思うと胸が痛む。私のこの、自分で望んでなったわけじゃ無い『高嶺の花』、『学年のマドンナ』という立場のせいで、悠真が自ら離れていってしまったのと、それを止められなかった私の弱さに悔しさと怒りが昇ってくる。
「……僕がなんの計画も無しに君に話しかけると思う?」
「え? 話しかけないの?」
「話しかけないよ。そもそも僕、白石さんに興味無かったもん。でも悠真から話聞いてだいぶ印象変わったからね。あとはまぁ……」
「?」
成宮くんは少し目閉じて考えるような素振りを見せたあと、私の方をしっかりと見てニコッと笑って予想もしていなかった事を言い出した。
「僕が悠真と白石さんの恋人関係、もっと見たくなっちゃったからかな」
「……ええ!?」
とんでもない事を言ってきた。というか悠真から別れを切り出してきたのに、復縁とか視野にも入れてなかった。それどころか考えるのが辛かったから考えないようにしていた。
「いや〜僕って他人の恋愛好きなんだよねぇ。二人の関係、割と面白そうだし悠真も未練すごそうだしどうせならって」
「え!? 悠真未練あるの!? 悠真からフッてきたのに!?」
「あの様子からすれば……めちゃめちゃあると思うよ」
「え……嬉しい」
「ただ悠真は頑固だろうし、復縁は長い道になると思うよ」
そう言われて少し日和気味になる。確かに悠真は、意固地だし頑固だし自己評価低いしで難敵だ。
でもそんな悠真だから好きになったし、そんな悠真も包んであげたい。お互いに未練があるのなら、尚のことだ。
「成宮くん……いや蓮! 手伝って!」
「勿論だよ華奈」
そうして私と蓮の、悠真復縁連合が作られた。
ここから悠真と距離を少しずつ少しずつ縮めて、なんとかして『友達』に戻ったのはまた別の話。




