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モノクローム・シャトヤンシー(3)

 案内された一室で紅茶を口に含みながら、自分はこちらの方が口に合うのになと……モーリスはぼんやりと考える。きっと、彼の方には気に入らない記憶が残っているのだろう。ラウールは継父の名前を聞く以上に、紅茶を毛嫌いしているフシがあって……頑なにブラックコーヒーを偏愛している。そのクセ、辛いものが苦手なところは()()()()にそっくりで……そんな不器用さに可愛げがあると思えば、“紅茶締め出し令”くらいは許してやってもいいのかもしれない。


「ほよ? モリちゃん、どうした? なんだか嬉しそうじゃが、気になる事でもあったのかの?」

「あぁ、すみません。別に大した事ではないのですが……少々、楽しかった事を思い出してしまいまして。つい」

「そうなの? それ……もしかして、テオのこと? それとも、ラウちゃんのこと? ……どっちにしても楽しい事なら是非、話して欲しいの〜」

「もちろん、いいですよ。ただ……ラウールには内緒にしておいてください。あいつは未だに、楽しかった事も含めて……父さんと向き合えていないみたいですから」


***

「……あなたに誕生日を祝ってもらう必要はありません」

「でも、もう買ってきてしまったのだし……折角だから、お祝いしようよ。だから、少しは楽しそうにしてくれないかな。モーリスはケーキ、食べるよね?」

「……僕はケーキ、食べたいです……」

「だろう? ほら、ラウールもそんなところで突っ立っていないで! こっちにおいでよ」

「……」


 ()()されてから、数ヶ月。常々テオの世話を()()()()()上に、双子の躾についても煩く口出し始めたヴィクトワールから離れるため……テオはとうとう王位継承権さえも捨てて、一市民として宝飾店を営んでいた。もちろん、店自体は()()の隠蓑ではあったが、その暮らしぶりは元王族のそれにしては、質素極まりない。

 そんな限られた生活費の中で、ケーキは確実に高級品だろう。それでも、彼らの誕生日をしっかり覚えていたテオが買ってきてくれたケーキは、どこか誇らしげにイチゴを乗せていて……いかにも美味しそうな姿をしていた。


「モーリス、美味しい?」

「うん、とっても……美味しいです……」

「そう、それはよかった。ほら、遠慮しないでラウールもお食べ」

「これを食べたら、何かしなければいけないんですよね? あなたは……俺に何をさせるつもりなのですか?」

「別に……何もさせたりしないよ。ただ、これからも一緒に母さんの所にお見舞いに行ければいいなと思うだけさ」


 警戒心が未だに抜けずに、頑なにフォークを手に取ろうとしないラウールの横で、モーリスのケーキがみるみるうちになくなっていく。そうして、自分の分をペロリと平らげると……恨めしげに隣の皿を見つめ始めた。


「……ラウールは食べないの?」

「べ、別に……ケーキなんか……いらないし……」

「そう? それじゃぁ、それ……僕が貰ってもいい?」

「えっ?」


 きっと本当は食べたくて仕方がないのに、素直になれずに我慢していただけなのだろう。いよいよ兄がイチゴを横取りにしようとしたところで、慌ててケーキを食べ始める弟。そんなラウールがようやく見せた子供らしい反応に……継父が確かに嬉しそうにしていたのを、モーリスは決して忘れることはなかった。


***

「そんなことがあったの。そうかそうか……ラウちゃんは相変わらず、素直じゃないの〜」

「えぇ、本当に。でも……父さんったら、メインのチキン選びは失敗してましてね。自分も苦手なはずなのに、辛い味付けの物を買ってきてしまったみたいで、2人揃って辛いだの、食べられないだのと……同じような顔をしながら、文句を言うのですから。それがとても、可笑しくて。そして……“彗星のカケラ”だなんて境遇さえなければ、本当の家族になれたんじゃないかと……思うことがあるのです」

「……そうじゃな。未だに数名しか見つかっておらぬが……イヴのカケラを取り込んでいる()()が全体数でどのくらいいるのかは、見当も付かぬ。こればかりは地道に探す他ないのじゃろうが……なんだかの。遣る瀬ないのぅ……」


 “彗星のカケラ”……それはモーリスとラウールを確かに産み落とした奇跡のカケラ(イレギュラー種)、個体名・イヴそのものを指す言葉であり、それが転じて……彼女が砕け散った際に飛散した核石を示す暗喩でもある。

 彼女の核石は悪い事に、無作為に宿主を見つけては、中途半端なカケラを量産するという悲劇を引き起こしていた。一方で、彼女と同じ核石を持つラウールが()()()姿()であり続けるには、定期的にそれに近しい原理を持つ核石を取り込む必要があり……そして、それを繰り返せば()()()()()になれると、信じてもいた。それがただの「現状維持」でしかないことは、イヤというほど分かっている。それでも……かつてそんな風に母親が夢を見ていたのと同様に、ラウールもまた、同じ夢を追いかけているに過ぎなかった。

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