ヒースフォート城のモルガナイト(11)
お嬢様方に捕まらないようにと、開放時間直後を目掛けて資料室に出かけてみると。その時間帯の来客が珍しいのか、資料の管理人だという初老の紳士がわざわざ出迎えてくれた。聞けば、彼はこのヒースフォートの学芸員だという。そんな願ってもない最高の話し相手との遭遇に、心躍らせるラウール。ここに来て、少しは運も上向いてきたらしい。
「おやおや、お若いのに……ここまで熱心に、この城の事を勉強してくださるとは。ホッホ。そんな方とお話しできるなんて、こうして学芸員をしている甲斐もあったという物でしょう」
「まぁ、俺の方はリゾートの方に興味がなさすぎるだけなのですけど。……折角、こうして立派な城が残っているのに、そちらを無視するのは勿体ないでしょう?」
そんな事を言いながら、肩を竦めて見せるラウールを殊の外、気に入ったらしい。ニックと名乗った紳士はラウールの質問に次々と的確に答え……彼が語った内容に、少しばかり複雑な事情が見えてくる。どうやら、ジェイが人嫌いだったのは、紛れもない事実だったようだ。
「ジェイの生涯には2人程、愛していた女性がいたようです。しかし、どちらとも結ばれずに、晩年のジェイはそれまでの空騒ぎを後悔するかのように人を避けるようになって……最終的には、偏屈な人物として知られるようになってしまいました。そして、2人の女性の片方はベリスと呼ばれていたようですが……おそらく、こちらの女性の方がジェイの傷心の原因になった人物と思われます。ベリス嬢はジェイの母方の遠縁にあたるようですが、随分と派手好きな女性だったようでして。……若かりしジェイが毎晩夜会を開いたのには、彼女を振り向かせたかったから、という理由があったようですな」
傷心の原因になった女性。ということは、おそらくジェイはベリス嬢には結局、振り向いてもらえなかったのだろう。その結果に人嫌いになった……ということだろうか?
(だとしたら……あのハイデという女性は誰なのだろう?)
まだ、何かが足りない……ラウールはジェイの人嫌いの原因が、そこまで単純ではなさそうだと思いを巡らす。
彼女を振り向かせるために、夜会仕様に城を改築したのも、まだ分かる。そして、恋破れた結果……失恋の傷を隠すために、痕跡を取り払いたかったのも、まだ理解できる。だが……それならば、どうして全てを駆逐しなかったのだろう? どうして……エリカをすぐに根絶やしにしなかったのだろうか。
そこまで考えて、今まさに最高の情報源が目の前にいるのだから、更に質問をしようとしていた矢先に……愛とは無縁のお嬢様方の声が聞こえてくる。きっと、1人ではラウールを囲い切れないと判断したのだろう。見事なスクラムを組んだ3名の壁が、資料室の出口に聳える頃には……逃げ遅れたのだという現状を、イヤと言う程に突き付けられる。
(仕方ありません。この際ですから、少しお話に参加して……ちょっとした条件を出しましょうか)
「……すみません、ニックさん。そろそろ、時間みたいです。機会があったら、またお話を聞かせてくださると嬉しいです」
「えぇ、もちろんですよ。それにしても……ホッホ。なるほど。どうやらあなたは追う側ではなく、追われる側みたいですね?」
「そうみたいですね。常々こんな状況だから、疲れてしまいます」
最後にもう1度肩を竦めて見せて、皮肉まじりでそんな事を言ってみる。追われる側なのは、遊んでいる時だけでいいのだが。今の自分がゲームの獲物認定されている以上、今更嘆いても仕方がないのかもしれない。




