全ての宝石達に愛を込めて(15)
三日月もそろそろ、明るくなり始めた空の向こうに降板する時間らしい。ようよう白みつつある空を一足早く照らしているのは、熱暴走の大詰めを迎えたらしい1つの矮小な太陽。しかし、その光源を遮るように抱えていた紫の魔竜が突如、獰猛に唸り始める。
【ラウールはイッタイ、どうしたんだ⁉︎】
【アレハ、拙イ! 超新星ヲ抑エキレテオラヌ。コノママデハ、エリザベートト同ジヨウニ……!】
周囲を巻き込んで、大爆発を起こしかねない。フランシスがの妹の悲劇を思い起こして、呻いていると……いよいよ、父親もどきの窮地に我慢ならぬとイノセントが飛び出そうとする。しかし……。
【イノセントチャン、行ッチャ駄目ダ!】
【だけど、ヴァン! このままじゃ、ラウールが……ラウールが!】
【ルサンシー様!】
【ウン、分カッテル! イノセントチャン、ココハ堪エテ! 君ガ行ッタトコロデ、何モデキナイ!】
【ハナせ、ハナせってば!】
1人で苦しみ始めたラウールを放って置けないのは分かるが、ルサンシーのいう通り、イノセントが出て行ったところで彼女にできることは何もない。そうして、ルサンシーとヴァンの2人掛かりで押さえ込まれて、イノセントが悔しさに咆哮を上げる。
【クソォッ‼︎ ラウール……このままシんだら、タダじゃおかないんだからなッ!】
【イヤ、待テ。アレハ……ラウール君ハ、一体何ヲスルツモリカネ……?】
【えっ?】
【私ニハ、ラウール君ガ何カヲ咥エテイルヨウニ、見エルノダガ……?】
【あれは……コウソクジュウ……? ま、まさか……!】
竜の口に咥えられているのは、彼が普段愛用している拘束銃である。そして、何を血迷ったか……ラウールは自分に向けて、拘束銃を打ち込み始めた。
【チョ、チョット待ッテ! 何ヲシテルノ! ラウール君ハ、無理心中デモスルツモリナノカ⁉︎】
無理心中……確かに、彼らの頭上で起ころうとしていることは、それに近い。だが、ラウールはビリビリと自身を締め上げる拘束に耐えながらも、アルティメットの熱暴走そのものも抑え込もうとしている様子。最終段階まで入った同胞を諌めるのはハーモナイズの本能であろうが、熱暴走を食い止めるのは拘束銃……否、保護者の本懐。
【大丈夫……マダ、間ニ合イマス……! タッタ一度ノ熱暴走デ砕ケル程、ダイヤモンドハヤワデハナイハズデスカラ……!】
自分の体には、同胞を諌めるための雷鳴の血が流れている。この自殺行為はその血筋を持つが故に、ただただ拘束銃を打ち込むよりは、自らを導雷針に見立てた方が圧倒的に収束速度も早いだろうと考えての暴挙だった。
【(今ノ俺ハマルデ、アノ時ノライトニングクォーツミタイデスネ……! ルトサンモ、コンナ苦痛ヲ受ケテイタノデショウカ……)】
しかしながら、かの時のライトニングクォーツと同様、粉々に砕ける訳にはいかない。そうして、ギリリと苦し紛れに牙を食いしばっては、もう一踏ん張りと必死に神経を保つが……。
【クッ……! マダ、足リマセンカ……! コウナレバ、モウ一度……!】
【ラウール君、ソレ以上ハ無理ダヨ……! クソッ! コウナッタラ、僕ガ行ク! ダイヤモンドノ僕デアレバ、漏レテイル分ハカバーデキルカモ……!】
ルサンシーが焦るのも、鮮烈な光漏を見つめれば無理もないというもの。そう、どこをどう見ても……光源に対して、包み込む側の大きさが明らかに足りていないのだ。ラウールがいくら翼を広げ、手足を投げ出し、尻尾を精一杯伸ばしても。到底、アルティメットの表面をカバーできていない。
そうして、その場にいる中で一番可能性があるルサンシーが加勢に入ろうと翼を広げた、次の瞬間。先程まではいなかったはずの1人の竜神が、不足分を補おうとラウールの反対側からアルティメットを押さえ込んでいるではないか。
【アレハ……アダムズ?】
突然の乱入に、ヘナヘナと先ほどまでの決意を萎ませては、ルサンシーはハハと乾いた笑いを漏らしてしまう。まさか、あれ程までに高みの見物を決め込んでいた彼が……こんな所で飛び込み参加をしてくるなんて。
【マッタク……ナンですか、このテイタラクは。これではオチオチ、カンソクにシュウチュウできないではないですか】
【アナタナンゾニ、ソンナ事ヲ言ワレル筋合イハ、アリマセン……!】
【……ツヨがりを。とにかく、オマエはこれをオさえコむのではなく、イカスコトにしたのだな。だったら……テツダってやらんコトもない】
だからこそ、ギリギリの状況で拘束銃に頼ったのだろう? ……と、ラウールと同じ閃光の鎖の渦中に飛び込んでも、余裕の表情を浮かべては怪人らしき魔竜が醜悪に微笑む。
【ドウイウ風ノ吹キ回シ、デスカ?】
【これといったリユウはないが……アえてイえば、かつてのキュウユウにコバカにされたのが、ガマンならなかっただけだ。……フン。まぁ、タカみのケンブツがスきなのは、マチガいないが】
覆われていなかった表面積もカバーされたことにより……いよいよ、満遍なく閃光の鎖が彼らをがんじがらめにし始める。縦横無尽に刺激を纏いながら、確実にまとめて沈静化をするつもりらしい拘束に……ラウールは意識を保つ意味でも、父の手紙の一節を咄嗟に思い出していた。
“……どんな状態になっても、母さんやお前達を人として抱きしめてやるんだって”
……人として、か。確かに、抱きしめられた体温に人かカケラかの区別なんて、なかったように思う。かつての家族の中で、人間だったのは彼だけだが……だからこそ、渋々ながらもテオに抱き上げられた時の温かさは、却って印象に残ってもいる。
【(抱キシメルコトガ、ソノママ愛シテイルコトニハナラナイノデショウガ……ナンデショウネ。伝達手段トシテハ、最モ有効に思エマス……)】
今まさに、自分は赤の他人……ならぬ、同じ鉱物グループでもない、ダイヤモンドを諌めようと、彼を抱き締めている状況なのだが。腕の中で有り余る熱さえも、記憶の中に残る余熱に置き換え、与えられた分の何かを返すのは今なのだろうと、無理やり理由を見つけて。もう少しで賭けに勝てそうだと、ラウールは牙を更に食いしばった。




