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全ての宝石達に愛を込めて(13)

 生まれた時から、孤独だった。最初から、望まれざる存在だった。

 他の同胞達と同様に、恒星の原石から生み出されたものの。欠陥だらけで太陽になることを諦めざるを得ず、果てに「失敗作」とラベリングされて保管されるだけの境遇。しかも、他の来訪者達とは異なり……究極の彗星(アルティメット)は「取扱注意」とレッテルを貼られた挙句に、創造主である古代天竜人達の手で、力と同時に心臓を削られさえもした。

 彼は最初から最後まで、ありとあらゆる時代において「失敗作」だと……危険で凶暴な彗星だと、認識され続けてきたのだ。本人の意思や、本人の所業とは関係なく。


 コールドスリープ状態で発掘されてからも、試験槽で保管されるようになってからも。アルティメットの審判者としての()()を求めた者は誰1人として、いなかった。

 生み出した責任を誰1人、取る事もない。生まれた理由を誰1人、教えてくれる事もない。そして……アルティメットに新しい生き方を提示する者も、存在していなかった。


《(ようやく、目覚められたと言うのに……ようやく、必要とされると思っていたのに……!)》


 しかし……目覚めてみたところで、世界にはさも当たり前と、彼の居場所は用意されていなかった。だからこそ、利用されるだけの立場に甘んじながらも、自身こそが輝ける機会を待ち続けた。そして、自分の真価を()()()()()した愚か者の手によって、ようよう封印を解かれたと言うのに。夜空に這い出てみれば、待ち構えていたのは自分の降誕を讃える領民達ではなく、自分をはたき落とそうとする無慈悲な同類達。だからこそ、アルティメットは全てを焼き尽くす事にしたのだ。

 ……自分を必要としない世界こそが、失敗作だ。だから、本来の役目を果たし、悲願でもある恒星へと退化する。それが、アルティメットに残された唯一の自己表現の方法。しかし……。


《(どうして、朕が嫌われなければならないのだ……? どうして、誰も朕を認めてくれないのだ……?)》


 感覚さえ蕩けていくような灼熱の中で、かすかに残った神経が啜り泣く。完成形でもあるはずの彼には、涙の機能は備わっていないが……それでも、アルティメットの心は熱暴走を自主的に迎えようとしている最中で、精神世界で確かに泣いていた。

 結局、失敗作は失敗作のままだった。自ら進んで、熱暴走を迎えようとしてはいるが……果たして、そこに幸せは残るのだろうか。来訪者やカケラ達の超新星(スーパーノヴァ)は、新しい命の原料となるための究極の自己犠牲と定義される。だが、望むべくもない存在の、望むべくもない自己犠牲の果てに、新しい命が芽吹いたとて……誰も喜ばないし、誰も幸せになれない。


《(だが……それでも、朕にはこれしかないのだ……!)》


 啖呵を切ってしまった以上、後には引けない。それに今更、仲良くして頂戴とお願いしても、受け入れてもらえないかもしれないし……そもそも、プライドが許さない。何よりも孤高であり、何よりも孤独であったダイヤモンドは独断しか持ち得ない。故に彼には二言も、勇退も、あり得ないのだった。


「全く……こんな所で泣くのでしたら、最初から大人しくしていればいいではないですか……」

《だ、誰ぞ⁉︎》

「おや、この顔に見覚えが……って、あぁ。今は()()()()姿()で見えているのですね。失敬、失敬。……俺はアレキサンドライトのカケラでして。融和の彗星(ハーモナイズ)の代役として、あなたの最後を貰い受けに参りました」


 1人寂しく、恒星への昇華を迎えるはずの最終章。孤独しかないと思われていた真っ白な舞台(精神世界)に、忽然と姿を表したのは正装姿の青年。アレキサンドライトと言えば……さっきのメンバーのうち、1番弱い紫の奴だったか。


《(こいつは朕の熱暴走を取り込もうとしているのだな。それで、本来の融和の彗星(ハーモナイズ)の役目としては……)》


 来訪者クラスの超新星(スーパーノヴァ)を押さえ込むと同時に、彼らの役目を引き継ぎ、自らが散る時は共に銀河へと帰還する。来訪者達にとって、役目を全うして銀河へと帰還すること、そして、果てに星となって輝くことこそが、最高の栄誉である。だが、志半ばで朽ちる者も多いだろうし……むしろ、きちんと最後まで来訪者としていられた者の方が少ないだろう。


「来訪者相手にこの状況に陥るのは、2回目ですが……はぁぁ。前回の暴君(ワンダー・ロード)といい、今回の暴君(アルティメット)といい。どうしてそうも、自分で超新星の引き金を引いてしまうんでしょうねぇ……。まぁ、貴方はまだ言葉が通じる分、マシでしょうか。浄化の彗星(プリフィケーション)の時は、最後の交渉さえできませんでしたから」

《交渉だと?》


 精神世界では、暴力による交渉は意味を成さない。互いに実体のない精神体での対話である以上、物理的な攻撃は無駄である。だからこそ、最弱であるはずのアレキサンドライトは妙に気取った格好で、余裕を保っていられるのだろう。


「……もし間に合うのであれば、アレン様を返していただきたいのです」

《アレン……あぁ、朕に身を差し出した()()()のことか?》

「アレン様の境遇を見て、果報者(幸せ者)だなんて言えてしまう神経に、不安がありますけど。……まぁ、それはさておき。アレン様にはご家族がおいでです。大切な秘蔵の品を預けられている弟君や、アレン様をお慕いになっている妹君に……きっと、祖父様もご心配召されているでしょうね」

《そんな事、朕には関係ないことぞ! これ以上、戯言を申すのなら……》

「俺も喰らいますか? それとも、俺を乗っ取るとでも?」

《それも一興ぞ。どうせ、朕はこのまま焼滅する身。輝ける太陽の共にしてやるから、お前の方こそ、身を差し出したらどうなんだ》

「それこそ、御免ですね。曲がりなりにも、俺にも家族がいるのです。彼女達の所に帰らなければなりません」


 家族、家族、家族……! どいつもこいつも、親しげに「家族」というキーワードを口にしては、目的達成のために底知れない原動力を捻出してみせる。自分はこんなにも孤独なのに、見せつけるように家族の存在をチラつかせなくてもいいではないか……とアルティメットは腹立たしく感じると同時に、一抹の興味も抱き始めていた。


“ただ、僕を愛してくれる人を守るだけの強さが欲しかっただけ”


《(アレンとやらも、そんな事を申していたな。そんなにも、愛されることは心地よいものなのか……?)》


 「世界の強制リセット」という、大量の犠牲を前提にした能力を持たされたことによって……生み出された瞬間から忌避されてきたアルティメットに、「愛される経験」は皆無である。だが、つくづく考えてみれば……アレンも、そして、今目の前にいるアレキサンドライトも。……家族とやらのために愛を傾けては、自身を捨てることさえ覚悟している様子。愛を知らないアルティメットには、そんな彼らの「自己犠牲」は理解できないと同時に……最後の最後で理解してみたい事象に映った。

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