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牙研ぐダイヤモンド(28)

 これが何か、分かるかしら?

 不敵に微笑むニュアジュの手には、見慣れたくもないコントローラーが握られている。「誰の操り板なのか?」はそれこそ、愚問だろう。このメンバーの中で、スペクトロライトの淑女に良いようにされていたのは、ヴァンその人以外にあり得ない。だが……。


「えぇと……僕自身は初めて見るけど。多分、これのコントローラー……ですよね?」


 しかしながら、当のヴァンは余裕も残した表情で、戯けたように首をトントンと小突く。そうして、負けじとやや挑発するような態度で、首を傾げて見せた。


「分かっていて、その余裕……ですか? まぁ、良いでしょう。あなたの()()()()()()は今に始まったことでもないでしょうし。そうそう、アレン様」

「うん? 何かな、ニュアジュ」

「私はこの裏切り者に罰を与えなければなりませんので、しばらくアルティメット様のお相手をお願いできますか?」

「あぁ、そうなるの? ……どうしようかな?」


 口先では渋るアレンだが、口元は好奇心と野心とで醜く歪んでいる。きっと、彼はニュアジュがリード(拘束銃)だけではなく、特注の拘束具(アディショナル)も用意してきたことを見抜いたのだろう。嬉しそうに彼女から()()()()()()()を受け取っては、今も尚、背後で苦しむアルティメットの元へ踵を返す。


(あれの主導権がミュレットの手元にあるよりも、アレン様の手元にある方がまだ、()()()()……でしょうかね?)


 一方で一連の寸劇の「観客」に急遽成り下がったグリードは、アルティメットに対する()()()があることに、()()()()()安堵していた。それでなくても、グリードはヴァンの余裕の原因も知っている。これは窮地と見せかけて……またとない事態の好転だろうと、判断する。


「それに……ふふ。そっちの坊やはヴァンのお手伝いで差し上げていましたが。まぁ、ここまでの性能を発揮するとなると、核石の大きさもそれなりの物が見込めそうね。あぁ、そうだ。でしたら……坊や、ちょっと取引しませんこと?」

「……何でしょうか?」

「もぅ、そんなに怖い顔をしないの。私には水晶よりも、月長石が必要なのです。だから、このコントローラー……つまりヴァンの自由と引き換えに、私の所に来る気はございませんか?」


 しかし……それが名案だと思っているのは、非常に残念なことにご本人様だけ。ここまで見事に上滑りしているとなると、滑稽すぎて笑いを堪えるのも、一苦労。そうして、グリードは別の意味での腹痛を堪えているが。ここは一応、迫真の演技でお芝居に混ぜてもらおうかと、()()()()()拘束銃を構える。


「まぁ! ラウール君は相変わらず、反抗心も旺盛なのですね? あなただって、これが何か分かっているでしょうに」

「えぇ、もちろん存じていますよ。ですが、ヴァン様とルナール君は俺達の素敵な隣人ですので。今更、あなた如きの踏み台にさせるつもりはありません」

「なんて、生意気な! 年長者には従うのが、道理ではなくて?」

「ほぉ? だったら、この場では私が一番年長者だろうよ。であれば、私の言う事を聞くのが()()になりそうだが?」


 グリードの見掛け倒しの牽制(拘束銃を構えるフリ)に、更に乗っかる形でハールがフフンと胸を張る。見た目はどこまでも子供ながら、ニュアジュとて彼女が何者なのかはよくよく知ってもいる。だが、自身の()()を覆すなどあり得ないと、フンと小さく鼻を膨らませた。


「来訪者とカケラとを同じ物差しで考えてはいけませんよ、オーバーロード。私はあくまで、同類と話をしているのです。あなたはお呼びではありませんわ」

「随分と都合のいい詭弁を垂れ流すのだな、貴様は。……なぁ、グリード。これ、本当にお前の教師だったのか?」

「えぇ、残念なことに。宝石鑑定の知識があれば、ヴランヴェルトで副学園長をやっている分には問題なかったのでしょう。それに……教える側が非常識であろうとも、生徒側に常識があれば鑑定士は真っ当に育つものなのですよ」


 そうして、自分は当然ながら「常識のある生徒側」であると、グリードは胸を張って見せるが。彼の()()()()は突っ込まなくてもいいか……と、彼の背後でクリムゾンは額に手を遣っていた。とりあえず、今はお説教をするべき場面でもないだろう。


「ふ、ふん……! まぁ、いいでしょう。さ、どうするの、坊や。こっちに来るの、来ないの?」

「ヴァン兄……僕、どうすればいい?」

「あぁ、もちろん……答えは()()NOですよ、レディ・ニュアジュ。……僕は自由を諦めるつもりもないし、弟分を差し出すつもりもない。僕は今のまま、平和に生きていられればそれでいいんです。それに、この子を差し出したら寂しすぎて……遅かれ早かれ、核石に飲み込まれてしまいますしね」


 不安そうなルナールの頭を撫でつつ、ヴァンが尚も戯けたように肩を竦める。彼のふざけた態度に交渉決裂と、ニュアジュは醜悪な笑みを浮かべては、カチッと手元のコントローラーのスイッチを入れるが。


「……あら? まさか、故障? そんな、馬鹿な……! スイッチは入っているわよね……?」


 はてさて、無情かな。ブブブと僅かに悶える手元のコントローラーは、きちんと稼働中だと自己主張しているが。実際の効果は休眠状態のまま、ヴァンの自由を取り上げようともしない。


「クククク……アッハハハハ! 本当に、あなたという人は最初から、最後まで間抜けですよねぇ! クククク……お腹が痛くて、たまらないや!」

「なっ……! 今のはどういうことですの、ラウール! 私への失言は万死に値しますわ!」

「おぉ、怖い怖い。しかし……そんなガラクタだけで俺達に敵うとでも、思っていたのですか? 性能も中途半端な、あなた如きが? 俺達に? それなのに、万死に値するとは……! クククッ……俺だったら、その発言自体が恥ずかし過ぎて、死にたくなりますね!」

「……グリード様。楽しいのはいいのですけど、少し笑いすぎですわ。もう少し、()()()()()()はできませんの? それと、相手を必要以上に小馬鹿にしてはいけません」

「うぐっ……クリムゾン、ここは一緒に笑ってくれる場面なのでは……?」


 これだから、常識的らしい旦那様のズレを矯正するのは骨が折れる。常々、皮肉まみれで嫌味っぽい。その上、笑顔は悪魔と見まごう邪悪さと来たらば。他の観客達が冷めに冷めるのも、当然である。

 そんな周囲の冷たい視線を浴びて、ようやく冷静になるグリードだったが。今更ながら、()()()でいようと途端に黙り込むのは、滑稽でもあった。

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