ヒースフォート城のモルガナイト(2)
大通りに面する仰々しい正門の更に先の先には、今度こそ歴史の重みが感じられる大庭園が……と思っていたが。観光地というのは、どこまでも俗なものらしい。きっと、元々は庭園を埋め尽くしていたはずのエリカの花は隅でひっそりと咲くのみで、中庭の殆どは青いタイル張りの豪奢なプールに作り替えられていた。あまりにファンシーな非日常的光景に、どうやら今回の宿泊先そのものが、あの王城だということに気づく。
まだ日も高いというのに、プールサイドでは既に酒を酌み交わしながら、余暇を楽しんでいるらしい有閑貴族達がご歓談の真っ最中。よくもまぁ、人目を憚らずに大胆に肌を晒せるものだと……ラウールが辟易していると。隣でソーニャがフフンと豊かな胸を張りつつ、兄弟2人に恐ろしい宣言をし始める。
「フフフ……大丈夫ですよ? お2人の分もしっかり水着、用意していますから」
「……ソーニャ。今……何て、言いました?」
「ですから! 水着ですよ、み・ず・ぎ! 大体モーリス様も、ラウール様も真夏だというのに……なんですか、その色気のない格好は!」
「いや……普段通りですけど。多少着崩すにしても、シャツにジレは最低限の装いというものでしょう。……俺達が色気を出す必要性もありませんし」
「僕もラウールに同感。……いくら暑くても、外出するからには、だらしのない格好はできないよ」
「まぁ! 2人とも融通が利かないんですから。いいですか? 今回の滞在先は、あのヒースフォートですよ? 憧れのリゾート地で旅行を楽しむのなら、水着を用意するのは当たり前でしょう! グルメにレジャーに、ショッピング! とにかく丸ごと楽しまないと、損じゃないですかぁ!」
「リゾート地? ……兄さんはそれ、知っていましたか?」
「い、いいや……ヒースフォートがリゾート地だなんて、知らなかったよ……」
予想外の展開に、いよいよ2人揃ってまごつき始めるモーリスとラウール。にも関わらず、彼らが完全に付いて来ていないのもお構いなしに、いつの間にか調達したらしいパンフレットを彼らに強引に押し付けつつ……そのままヒースフォート滞在の心得を熱弁し始めるソーニャ。彼女の舌鋒に気圧されて仕方なしに、手渡されたパンフレットに目を落とすと……彼らの逃げ場を塞がんばかりに、そこには彼女の主張と寸分違わぬ内容がつらつらと記載されていた。しかし、そんな楽しい楽しいリゾート地の由来に、気になる一文を見つけて……ソーニャとは別の方向に乗り気になり始めるラウール。
(……高嶺のモルガナイト、ですか。リゾートには興味ありませんが……この城を探索をするのは、面白そうです)
ここにやって来る観光客の興味を引く内容ではないのだろう。パンフレットの最後には、申し訳程度にかつてこの城に眠っていたとされる財宝の紹介文が記載されている。その内容を鵜呑みにすれば、どうやらこの城のとある場所で行方知れずになってしまった、ということらしい。ヒースフォートの滞在期間は6泊7日。その間は……楽しいリゾート地で宝探しと洒落込むのも、オツだろう。




