黒真珠の鍵(13)
自慢の瞳を頼りに、黒い石が示す道を逆戻りして、坑道の外に飛び出す。そうして見上げた夜空は、視界の向こうがぼんやりと滲んでおり……もうすぐ夜明けが来ようかという表情をしていた。
「はい、お疲れ様でした。……もう、そろそろ泣くのはおよしなさい。あなたには、これからするべき事があります。折角、あなたを助けようと、手を尽くした侯爵のためにも……顔を上げて」
「主人が……私を……?」
「……全く。欲に目を眩ませるから、こんな事になるんです。最初っから、侯爵はあなたに贈り物を残していたじゃ、ありませんか。……まぁ、いいか。話の続きはあなたのお屋敷……例の金庫の前で、にしましょう。とにかくココの後始末は後で考えるとして、最後に1つ種明かしをしてあげましょうね。さ、しっかり掴まっていて下さい!」
「えっ……あっ⁉︎」
そんな事を無邪気に言いながら、まるで大空を飛ぶようにあっという間に山の麓に降り立つと、屋根という屋根を疾走して……今は馭者すらもいないまま、待っていた馬車に戻ると彼女を押し込んで馬を走らせる。こんな陰気な場所は2度と御免だと、内心で後味の悪い気分を振り払うように。今はとにかく普通の世界に戻りたいと……その時ばかりは、流石のグリードも思わずにはいられなかった。
***
「素晴らしい! これが……夢にまで見た、永久機関……!」
「あぁ、これこそが、技術の粋を集めた天空人の遺産……! ようやく手に入れたぞ! これで……俺達、大金持ちだなエルメル!」
「おうよ! これさえあれば、何もかもが思うがままだ!」
眩いばかりの世界の最奥に鎮座していたのは……ポッカリと開いた深淵を思わせる、どこまでも深い深い縦穴の空中に浮かぶ、恒星と見まごうまでの美しい完全球体。それは時折、表面をジリリと焦がしながら、それでも尚……穏やかな熱を発し続けていた。
彼らの目の前に浮かぶのは、伝説の天空島から飛来したと言われる、巨大な軍艦のエネルギー源。そして彼らが今いるのは、遥か昔に墜落したという天空人の軍艦の内部で……かの扉はかつての軍艦の出入り口に過ぎなかった。
「フン……! ロンディーネの奴……こんな物がここに埋まっていると分かってから、怯えに怯えおって。しかも例の怪盗も怪盗だ。炭素14等と付け焼き刃の知識で、それらしく講釈を垂れおってからに。……既に加工済みのこれであれば、そんな心配もいらないのにな」
「本当にな。なーにが、何もかもを探し出して盗み出す天下の怪盗紳士なんだか。ただの間抜けの臆病者じゃないか、なぁ⁉︎」
「全くだ!」
そこまで2人の臆病者を罵りながら笑い合うと、燦然と輝く光景を名残惜しそうにしながらも、艦内を隈なく探索し始める。この場所に埋もれているであろう、夢のエネルギー源の活用方法も探し出さなければ……それこそ、宝の持ち腐れ。いくらどんなに素晴らしい資源でも、利用方法が分からないのでは、意味がない。
「しかし……本当に後は何もないな。研究資料もこの中にあるんじゃなかったのか?」
「そのはずだったのだが……まぁ、とりあえず今回はこの位にしておこうか。こうして無事に見つけられたのだから、残りの事はこいつを引き上げてから、改めて考えてもいいだろう」
「それもそうだな。……いくらお宝の側でも、流石にそろそろ息苦しい」
めいめいそんな事を気楽に言いながら、整然とした廊下を戻り始めるモーズリーとエルメル。しかし……彼らは間抜けな怪盗がしっかり残した忠告の真意に気付けなかった事が、最後の最後で命取りになることなど……考えも及ばなかった。




