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和風異世界いかがですか  作者: 真打
第七章 味方を求めて
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7.7.ヤガニ衆


 とんでもない異形が仲間になった。

 まさか彼らが大昔に継矢家に仕えていた異形たちだったとは……。

 そういえば落水は水の異形人だし……それも何か関係があるのかも?

 いや、それは考えすぎかもしれない。


 しかしこれは予想外過ぎた。

 彼らと継矢家の関係が事実であればとんでもなく長生きをしていることになるが……異形に老いというのはほぼ無縁なのだろうか?

 ま、まぁそれは関係ないか。


「凄い戦力増強だな……」

「ですね!」


 月芽も笑顔で喜んでいる。

 黒細も満足そうに頷いており、近くに居たケムジャロも腕を組んで頷いていた。

 まだまだ戦力としては心許ないかもしれないが、彼らの経験は私たちにとって大きな助けになるだろう。


 強い異形とは聞いていたが……生き残りであればそりゃ強いに決まっている。

 これからが非常に楽しみだ。


 さて……戦力を増やしたはいいが、このままではまだ人間たちの領地に攻め込むことはできない。

 あの萩間という人物は……凄く強そうだった。

 ああいう人が沢山いるとなれば戦いは困難になるし、富表神社まで向かうのは難しい。

 それに妖怪たちの脅威もある。

 東に人間、西に妖怪と私たち異形陣営は挟まれているので、これを打開する方法も考えなければならなかった。


 やること多いな。

 でもやらなければならない優先順位は明白だ。

 妖怪に叩かれる前に、異形たちを集めて抵抗できるだけの力を付けなければならない。


 私が真剣に考えている姿を見て、側にいる異形たちは静かに待ってくれていたようだ。

 はっと気づけばヤガニ衆のリーダーが槍を掲げる。


「旅籠様。我ら海低槍は対人間特化の部隊として運用されておりました」

「そうなの!?」

「水辺付近のみでの活動となりますので防衛で真価を発揮します。他にも防御特化の海底岩(かいていがん)、捨て身遠距離攻撃を得意とする海底投(かいていとう)の三部隊からヤガニ衆は構成されておりますよ」

「本当の部隊だな……」

「ですが、我らヤガニ衆は分身です」

「……え?」


 よく分からない言葉が聞こえた。

 分身とはどういう意味なのかを問うてみると、彼は自信満々に槍を掲げる。


「我らヤガニ衆はガガニ様から作り出された分身なのです! ガガニ様は当時の継矢家当主様より名を授かり、御身の三割程度の力を持つ分身を作ることが出来るのですよ! これは異形たちの中でも相当珍しい力になります!」

「い、一体で軍を作れるってことでやすか!?」

「はい! その通りです!」

「す、凄いです……! 分身に制限はあるのでしょうか?」

「一千までは容易いかと」

「「千!!」」

「とんでもない味方を付けてしまったな……」


 ほぼ無尽蔵に湧いて出る軍団……。

 これは大変心強いが、それと同時に残念であると言わざるを得ない。

 水辺だけでしか本来の力を発揮できないのだから。

 まぁ強そうだから文句は言わないけどね!


 だけど……そういう力を持つ異形もいるってことを知れたのは良かった。

 石や岩の異形たちも何かしら強い力を持ってくれるといいな……!


 期待に胸を膨らませていると、ヤガニ衆のリーダーが急にしょんもりとして槍を下ろす。

 先ほどの威勢のよさはどこへやら。

 月芽と黒細が急に心配し出したので、私もそちらに目をやった。


「ど、どうしたでやすか?」

「実は……ヤガニ衆は妖術に弱いのです……。対人間特化として戦っておりましたが、妖にだけは手も足も出ず……! ガガニ様をお守りするだけで精一杯だったのです……」

「うーん、強みに比べて欠点と弱点もはっきりしてるってことかぁ」


 私は彼らの姿をよく見てみる。

 機動力は高いわけではなさそうだし、恐らく彼らの強みは“待ち”。

 向かってくる敵を返り討ちにする戦法を得意としていることがよく分かる身体の構造だ。


 ちょっと気になるな、彼らの戦い方。


「黒細。少し戦ってみてくれない?」

「え!? あっしがでやすか!?」

「硬いから傷も付かないだろうし、大丈夫だよ」

「それはあっしが言う台詞じゃありゃんせんか……? ま、まぁいいでさよ」


 黒細が少し距離を取る間に、ヤガニ衆は陣形を整える。

 久しぶりに戦える、となんだか意気込んでいる様にも感じるが……その姿を見せてくれるのであれば何でもいい。

 しかしヤガニ衆の陣形は少し面白かった。


 長方形の陣形を二列作ったのはいいが、槍はすべて地面に下ろしている。

 横十列と縦三列からなる陣形で、横列にはヤドカリの異形が一列入るだけの空間が空けられていた。

 これは何を意味するのだろうかと思っていると、黒細が腕を鋭くして急速に飛んでくる。


 速い。

 以前とは比べ物にならない程の速度に目を見開いていると、黒細は救い上げる様にして陣形を突破しようと腕を伸ばした。

 その瞬間、前列の陣形が槍を持ち上げる。


「おおっと!?」


 黒細の動きが止まった。

 それと同時に後ろの陣形が一気に前に出て、前列と後列の陣形が合体する。

 後列のヤドカリの異形たちは槍を素早く突き出して黒細に攻撃を与えた。


「いてててて!」

「おおー! すげぇ!!」

「凄いですね! 前列は足止めとしての役割! 後列が攻撃の要となっています! 体が小さいからこそできる技ですよ!」

「これが千の軍になったら……人間は苦戦するだろうな。的小さいし」

「ですね!」

「結構痛かったでさよぉ!?」


 黒細は本当に硬いのだろうか?

 なんだかそんな疑念が湧いたのでコンコンッと叩いてみると、柔らかそうな白い肌をしているのに石をノックしているような感覚が伝わって来た。

 しっかり硬ぇ。


「耐久性が高いのかな?」

「知りゃんせんよ……。んで、どうするんでさ? ヤガニ衆は連れていけやせん。水を得意とする妖怪が来るかもしれやせんが……」

「あ、それならご安心を!」


 リーダーがぴょんぴょんと跳ねて槍を振る。


「継矢家に仕えていた異形は我らだけではありません! とはいえ……陸を得意とする異形の大半は狩られてしまいましたが……水の中は健在です! あの海坊主を退けるんですよ!」

「「「……え?」」」


 ……え?


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