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和風異世界いかがですか  作者: 真打
第七章 味方を求めて
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7.6.波返村


 移動は本当に一瞬だ。

 月芽が地面に継ぎ接ぎを伸ばしてガバリと開き、そこに全員が飛び込めば目的地へと到着する。

 ただ、今回は月芽が知らない場所だったので何度かイワクニに道を聞いては継ぎ接ぎを伸ばすを繰り返した。

 これだけ連続で使用したのは初めてだったので私は月芽を心配したが、全然疲労した様子はなく元気いっぱいだ。

 本当に心強い。


 月芽の異術はそこまで体力を消耗しないようだ。

 妖力とか聞いたりするが、異形にそういった概念は存在しないのだろうか……?

 また覚えていたらシュコンに聞いてみようと思う。


 そして到着した波返村。

 水中に住んでいる異形が多いとのことなので、陸には建造物も何もない。

 だだっ広い砂浜に岩礁がいくらか点在しており、その足元らへんになにかがバシャバシャと跳ねている。

 あれが水の異形たちだろうか……?


「ここであってる?」

「アア」

「風が強いでさねぇ~! 油断してると飛ばされそうでさ」

「飛ばされないでくださいね……?」

「言葉のあやでさよぉ」


 黒細はふよふよと移動して周囲の状況を確認しに向かってくれた。

 確かに飛ばされそうなのでちょっと不安だったが……黒細はいったいどういう構造をしているんだろう?


 イワクニたち石の異形は、一旦後ろのほうで待機してもらうことにした。

 護衛は布房と五昇、他数十名の異形たちに担当してもらうこととなったので心配はいらないだろう。

 水の異形たちに会いに行くのは私と月芽、黒細にケムジャロだ。


 ケムジャロにもそろそろ漢字をあてがいたいなぁーと思ったが、当て字にしかならなさそう。

 こいつには名前を与えてあげたいので、今後の活躍を期待することにする。

 どんな感じになるか結構気になってるんだよなぁ。


 浜辺から程近い岩礁へ近づいてみれば、やはり異形たちがそこに集まっていた。

 ぱっと見る限り彼らはヤドカリの異形であり……貝の先端についている大きな目玉がこちらを覗く。


 海に生息しているということもあって貝には藻やフジツボがびっしりとへばりついており、少々触りがたい。

 そして彼らの足は触手のようで、手には槍のようなものを持っていた。


「こんにちは」

「「「「……人間様だ!」」」」


 いや声たっけぇな。

 ちょっと笑いそうになったが何とか耐え、咳払いをして誤魔化した。


「ん゛んッ……。えーと、君たち異形だよね?」

「そうですよ! 人間様がお会いに来られるとは珍しい! 珍しい! ……さしずめ、人間様……いや、旅籠様のお考えは理解しているつもりです」

「……え?」


 何故名前を知っているのだろうか、という疑問が浮上する。

 まだ自己紹介もしていないはずだが……この異形たちは既に私の事を知っているようだった。


 私は月芽を見る。

 しかし彼女もよく分かっていないようで、首を小さく横に振った。

 すると黒細がケタケタ笑う。

 

「な、どうしたん……?」

「ナハハハ! 月芽は元人間で本物の異形にしか感じ取れんものもあるらしいでさね!」

「そ、そうなの……?」

「あ、いや……。正確には“力を持つ異形”のみが感じ取れることでさ」


 黒細の言葉にヤドカリの異形たちも頷く。

 力を持つ異形のみが感じ取れること……?

 確かに黒細は私が名付けをしたことによって力をつけてはいるのだけど……それが何か関係があるのか?


 さっぱり意味が分からないので早く説明して欲しい。

 少し目を細めると、黒細はすぐに教えてくれた。


「共有でさよ」

「共有?」

「旅籠様は名付けをしたことであっしらとの繋がりが強くなってやすね?」

「らしいね。実感は湧かないけど」

「繋がりが強くなったことであっしらは旅籠様の考えていることがなんとなーく分かるようになってるでさ。強い気持ち程強く伝わってくる。今は……そうでさねぇ……」


 枝のように細い指を口元に当て、しばらく考える素振りをする。

 暫くそうしていると、黒細はニタッと笑って口を開いた。


「魂の帰還でさね。あと、神様ってのを随分恨んでやすねぇ」

「おお、正解正解! へぇ~! ってなんかちょっと恥ずかしいな」

「細かいことまでは伝わりやせんのでご安心を。つまるところ、波返村の異形たちはあっしらみたいに旅籠様の考えを読み取ってくれたんでやす。彼らは既に仲間でさよ」


 黒細がそう言うと、その場に居たヤドカリの異形たちはハサミで持っている槍を地面に突き、ザッと音を立てて整列した。

 訓練し続けて洗練されたその動きには一切の無駄がない。

 自分のくるぶしほどの大きさしかないのに、その一体感から強大な存在に感じられた。


 隊列の中から一匹が前に出る。

 他の個体と比べて少しばかり大きめの殻を持っており、槍が禍々しい。

 どうやらこのヤドカリの異形がリーダーである様だ。


「我ら異形・ヤガニ衆海低槍(かいていそう)。今より旅籠様の配下となり、御身の矛となりましょう」

「心強い味方だ……! でも活動範囲は海辺だけかな?」

「川辺でも活動できます。最悪水があれば……」

「落水さんと相性がよさそうだね」


 彼らの実力は見てのお楽しみになりそうだ。

 でもさっき見た軍隊みたいな動きは本当に格好よかった。

 結構期待できるんじゃないかな。


 ……あれ?

 なんでここに居る異形たちは力を持ってるんだろう?

 話には聞いていたけど、黒細みたいに私の考えを理解できるってことは、黒細とほぼ同格ってことになるんじゃないか?

 それに持っている槍。

 明らかに海で確保したものじゃなくて……鉄だ。


「え? どういうこと?」

「旅籠様、旅籠様。私分かっちゃいました」

「え、すご。何どういうことなの?」

「過去に異形たちを従えていた人間様が要るって事、お忘れですか?」

「……継矢家……。だったよね?」

「旅籠様ぁ~。まだ分かんないんでやすか~?」

「んぁーなんだよぉー! 教えてよ!」

「生き残りですよ!」


 生き残り……?

 月芽を見た後、ヤガニ衆を見る。

 次にもう一度継目を見て気付くことが出来た。


「!? え、ええ!? や、ヤガニ衆の皆って……継矢家に仕えてた異形たちって事!?」

「「「「ハッ!」」」」

「んまじでぇ!?」


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