7.5.次の村
石積村の異形たちを治療し、村の火災も全て鎮火した。
無事だった異形は少なく、更に村はもう使い物にならないほどの有り様だった。
ここに残るくらいなら別のところに行く方がましなくらいだ。
だが、ここで過ごした時は長い。
犠牲となった異形たちは全員この地に埋葬することが決まった。
強くなった異形たちがあっという間に地面を掘り、そこに遺体を埋葬していく。
蛇髪が以前やってくれたようにお経を読んでくれた。
それを聞いている間は誰もが沈黙を守り、手を合わせて拝んだ。
簡易的な葬式が終わると、やはり誰もがそっとその場を離れる。
あの時もそうだったが誰も涙を零す異形はいなかった。
彼らはこの世から去った異形たちを称える。
そこに涙は必要ないのだ。
「さて……」
私は異形たちの重鎮を集めた。
蛇髪、月芽、黒細、そしてケムジャロと布房、五昇。
そして石積村の村長。
石積村の村長は岩で構築された蛇で、名前をクニイワという。
頭部は推三角形で口があり、ガコガコと音を鳴らしていた。
体には関節が幾もあり、岩ではあるが蛇のような動きをすることを可能としている。
一見、竜の鱗のような体をしているので強そうに見えた。
名前を与えたら化けそうな気がするな……。
彼はぺこりと頭を下げた。
「カンシャ」
「どういたしまして」
「イシツミノタミ、キデン、ツカエル」
「……ええーっと……」
カタコトであると同時に声がとても聴きとりにくいので何を言っているか理解できなかった。
困っていると、すぐに五昇が通訳してくれる。
「石積村の民は旅籠様に仕える、と申しておりますよ」
「ああ、なるほどね! 私たちは仲間を増やすために異形の村を探しているんだ。何か知らないかな」
「ヨッツ、シッテイル」
「おっ!」
把握していない村が少なくとも一つ増えた。
早速黒細の知っている村と照らし合わせてみたところ、残念ながら三つは被った。
とはいえ候補が一つ増えたのは大きい。
ここで村の位置関係を再確認することにした。
二口の山城の近辺にある“渡村”。
異端村から西に向かったところにある“崩落村”。
異端村から南に向かったところにある孤島、“孤立島”。
そして石積村から南に行ったところにある“波返村”。
黒細が知らなかったのは波返村だった。
異形でも把握していない村があるくらいだ。
妖ともなればもっと知らないかもしれない。
「距離的には波返村が近いのかな?」
「ソウダ」
「じゃあ一旦目的地はそっちに設定するか~」
その提案に全員が頷いた。
しかし渡村は妖に知られている可能性が高い村だ。
そこには今すぐにでも増援を送った方がいいのではないだろうか、と考える。
とはいえ……二口が渡り者を献上していた妖は相当強そうだ。
この中で戦えそうな異形は……いるのか?
「正直……そこは諦めた方がいいかもしれませんな」
「ううん……」
「確実な所から行くのが最もよろしいかと。今、この戦力を分散させるのは得策ではないですな」
「まぁそうだよなぁ……。ううん、やっぱ取捨選択は必要か……」
ここに居る異形たちでも、強い異形の数はまだ少ない。
今いるメンバーであれば、全員で移動しなければ返り討ちに遭うのは必然だろう。
私は腕を組んだ。
救いたい気持ちはあるが……妖に発見されている村ならば後回しにした方がいい。
生存している可能性は限りなく低いのだから。
目的地を波返村に設定したあと、その道中の確認をする。
クニイワが道を説明してくれるが……聞き取りにくいので五昇に全て通訳してもらった。
「波返村は海の近くにあるようですね。しかし五山を越えなければならないので時間がかかるかもしれません」
「まぁそこは大丈夫。ね」
「お任せください!」
月芽がピシッと手を上げる。
彼女がいれば移動は本当に楽になるのだ。
落水の前だとなかなか使わせてくれそうにないが、鬼の居ぬ間になんとやら、だ。
今は急ぎの用事でもあるし、短縮できるところは短縮していこう。
移動手段は問題ない。
あとは村付近の様子なのだが……。
「何か近くにある?」
「ナイ」
「ないんかぁ~い。あ、じゃあどんな異形がいるの?」
「ナミガエシノタミ、ミズトクイトス。ドーコーデキヌケネンアリ。タクマシイセンシナレド……」
「駄目だ分らん。五昇助けて」
彼女の助けを求めると、小さく笑ってからすぐに翻訳してくれた。
「どうやら波返村の異形は水中を得意としているようです。陸を歩く私たちについて来ることは難しいかもしれない、と申しております」
「ああ! 水中特化の異形なのね!」
「因みに普通の異形よりも力を持っているらしいです。さすがに私たちには劣るでしょうが、旅籠様が良くしていただければ心強い味方になるかと」
「活躍してもらわないと褒美とか与えられないんだけどなぁ……」
異端村から付いてきている異形たちは、ずっと私を支えてくれたから軽々と褒美を与えることが出来た。
あれが褒美といって良い物かは微妙なラインだが、彼らは納得しているので問題ないのだろう。
異形を強くする方法は、何かしらの褒美を与えることにある。
名前は最も特別で最高級の褒美。
それをまだなにも成していない異形たちにほいほいあげちゃったら、今まで頑張ってくれた異形に申し訳ない。
とはいえ強くなってもらわなければならないので、何かしら仕事を考えておかなければならないだろう。
この石積村の異形たちも例外ではない。
まぁ……今は仲間を集めることを優先しよう。
水中を移動することが出来る異形が増えるならば、何かしら活動の役に立つはずだ。
「……ん? 待って?」
「どうされましたか?」
「水中って……魚居るよね……」
「? ええ、もちろん居りますよ。鯵、鯛、鮃に鰯。川であれば鮎や虹鱒などが──」
それを聞いて、私がガバッと立ち上がった。
「旅籠様……?」
「月芽! 行くぞ波返村に!!」
「ひょえ!? あ、はいっ!!」
魚が!!
魚が食べられるかもしれない!!
まともな! 食事が! 摂れるかもしれない!!




