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和風異世界いかがですか  作者: 真打
第七章 味方を求めて
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7.3.石積村

 忍び寄るように進んでみると、そこには確かに村があった。

 だが家屋は轟々と燃えており、時折叫び声のような声も聞こえる。

 それだけで何が起こっているか瞬時に理解した。


 異形の村が襲撃されている。

 恐らく妖の仕業だろう。

 九つ山の妖が死に、力が削がれてしまった原因を今のうちに潰しておこうという算段だ。

 あといくつ異形の村があるか把握できていないのは痛手になったが、今は目の前の問題を解決しなければならない。


 ふと、振り向くと誰もが武器を構えている。

 今か今かと合図を待っているようでもあった。

 急がなければならない状況ではあるが、敵が分からない以上慎重になる。

 さてどうしようか、と悩んでいると月芽が敵を突き止めた。


狒々(ひひ)の子分ですね。猿ですよ」

「なるほど? じゃあ大丈夫か……。行くぞ!」


 その掛け声が合図となり、全員が飛び出した。

 遠距離武器は使わない。

 流れ弾で味方を攻撃してしまうのを避けるためだ。


 各々が旅籠から褒美としてもらった武器を手に、片っ端から見つけた猿を仕留めていく。

 妖ではなくただの獣なので対処は至極簡単だ。

 攻撃されたとしても爪で引っかかれたり噛みつかれたりする程度なので、恐れることはない。


 名付けをしていない異形たちでも、この程度であれば蹂躙できた。

 どこかに狒々がいるかもしれない、と警戒していたが……どうやら子分だけしか居ないようだ。

 大将首がいないことを確認した頃には、猿は全て仕留められて村の消火活動が始まっていた。

 ここに落水はいないので、近くを流れる川から水を汲んで来るしかない。


「……呆気なかったなぁ」

「妖でなければ取るに足らぬ相手。とはいえ、この村にいる異形にとっては脅威でしょうな」

「生存者はどれくらい?」

「今集めておる最中ですじゃ。しばしお待ちを」


 蛇髪がてきぱきと指示を出す。

 どうやら怪我を負った異形が多いようで、彼女の所に多くの異形が集められた。

 石材加工に長けた異形というだけあって見るからに硬そうな材質の体を持つ異形が多い。

 ごつごつとして苔むした石材の異形や灯篭の様な異形もいた。

 動くのはあまり得意ではなさそうだ。


 蛇髪が治療を始めていくと同時に、生存者の数を数えていく。

 彼らからの話を聞いてみると、この村は石積村というらしく百五十体ほどの異形が生活していたのだとか。

 だが見てみる限り……三十程しか残っていなかった。


「これだけか……」

「十分でさよ。こいつらは旅籠様から何も貰ってやせんから、力がないんでさ。なのにこれだけ生き残ったんでやすよ」

「……他の異形の村、大丈夫かな」

「……少なくとも異端村は無事でやす。木夢がいるんでやすから」


 私たちが行動を起こしたことで、他の異形の村が妖たちに狙われている。

 取るに足らない、と放置されているところもあるだろうが……この村の様に脅威とみなされて報復の様に蹂躙されているかもしれない。

 この責任は自分たちにあるだろう。

 だからこそ一刻も早く多くの村を発見し、他の異形たちも救い出さなければならない。


 ううん、落水さんを置いてきたのは失敗だっただろうか。

 いくつか村を知っている様子だったし……情報だけでも聞いておけばよかった。

 黒細はどれだけの異形の村を知っているのだろう?


「どうなの?」

「あっしはあと三つ知ってやす。二口が支配してた村があったはずでさ」

「じゃあそっちに戻らないとなぁ。帰り道にある感じ?」

「二口の所有していた山城から北に行くとありやす。が……」

「嫌だなぁその反応……」


 絶対に何か問題があるに決まっている。

 あまり聞きたくはないがこれは向き合っていかなければならない問題だ。

 一つ息を吐いて黒細が次に口にする言葉に備えた。


 彼はその村がある方向を眺めているようで、笠を摘まんでくいと上げる。


「二口は……渡り者様をとある妖に献上していたんでさ」

「……どんな妖だ?」

「女郎蜘蛛……雪女……濡れ女でさ」

「そいつらに献上する度胸はあったんだアイツら……」


 名前を聞いただけでも厄介な存在だということが分かる。

 二口が死んだことは、恐らく既に把握されているだろう。

 無論黒細が上げた妖怪が二口に興味があった場合に限るのだが……最も最悪な状況を予想しておいた方がいい。


 渡り者の供給先を失った妖怪はどう動くのか……。

 不定期ではあっただろうが、渡り者を提供してくれる二口の存在は大きかったはずだ。

 それで自分たちの力が増すのだから失うのは痛手になる。


 その原因となった私たちをどう思うか……。


「……まぁ~~~~ぶちのめしたいって思うよね~!」

「で~さねぇ~!」


 二人そろってカラカラ笑う。

 妖相手にやってやったと誇らしげに笑う黒細と、なんてこったと笑うしかない旅籠。

 どうせ対峙することになる敵なのだから何を今更気にする事があるのか。


 だが異形たちを殺されては困るっ!!

 それが一番の問題だっ!!


「ぬああああくそおおおお! 私のせいで他の異形が殺されていく!!」

「ちょちょちょちょ、落ち着いてくだせぇ!? それより早く救えばいいだけでやすよ!」

「移動にどれだけかかると思ってんだ!」

「月芽がいるでさよ!」

「そうだけどさああああ! 二口倒して一ヶ月経ったよ!? 九つ山制覇して結構経ったよ!? その間にアクション起こさねぇはずないんだよなぁ!」

「あくそん?」

「アクション! 行動を起こす!」


 旅籠は頭を掻きむしりながら葛藤する。

 この旅が決まった瞬間から、異形たちは常に妖に命を狙われ続けることが決定していた。

 それを今更ながら思い知ったのだ。

 何も考えていなかった自分を呪いたい気分になる。


 二口の山城を落とした時点で火蓋は切られた。

 旅籠たちと異形が対面していたのは九つ山の妖だけではあったが、他の妖たちにも二口が死んだことは伝わっていたはずだ。

 それから一ヵ月。

 何も起こっていないはずがないだろう。


 下僕にしていた異形が奮起して反旗を翻したのだ。

 反乱分子を鎮圧するのは妖にとって至極簡単なはず。

 異端村の異形が裏切ったことで……他の異形の村が襲われる事態になっている。


「……もう、間に合わないんじゃないか……?」

「じゃあなんで石積村の異形は生き残ってるんでやすか?」

「それは……。あれ? どうしてだ?」

「間に合いやすよ」


 自信満々に黒細は細い指で親指を立てた。

 黒い口を吊り上げて高らかに笑う。


「皮肉な話、あっしら異形は興味すら持たれなかったんでさ。異形の村を知り尽くしてる妖はいないってことでさね」

「……なるほど?」

「とはいえ二口みたいに監視をされている村は希望が薄いでやすが……。こっちには怪蟲がいやす。打てる手は……すでに打ってやすよ」


 とても心強い言葉を聞けて、なんだがほっとしてしまう。

 異形たちも……他の仲間を救うために旅籠が知らない所で暗躍している。

 あとは迎えに行くだけなのだ。


「とはいえ、まずはこの村でさ。他の村のことについても聞きやしょう!」

「……そうだね」


 ここで諦めてたら駄目だよな……。

 そうだな……そうだよな!

 今は救うことが出来た異形たちのケアをしなくては……!


 黒細に励まされたことがなんだか癪だったが、軽く笑い飛ばして皆がいる所へ合流しに行ったのだった。

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