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和風異世界いかがですか  作者: 真打
第七章 味方を求めて
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7.2.恩人


「なんだ、どういうことだ小空」

「いやーあははは~……」


 警戒しながら小空の近くに降り立った芦山は、訝しげな眼を向けて睨む。

 今すぐにでも排除しておいた方がいい存在だと彼は思っていた。

 前衛を務める者ならばともかく、明らかに後方支援に長けた異形が天狗の攻撃を止めたのだ。

 いくら本気ではないとは言えど、芦山はそれだけで脅威に足ると感じ取った。


 だが、この数瞬の間に異形が狐に恩を売った。

 一体どういうことなのか。


「管狐……」

「キュ」

「異形たちが回収してくれてたんだ。どこ行ったのかと思ったよ~探したんだから~!」

「キュキュ」


 竹筒に頬ずりをすると、中から管狐が出てきて小空にすり寄った。

 狐同士、やはり安心できるのだろう。


 旅籠はようやく、突如現れた二人の姿を確認した。

 一人は天狗であるが鼻は長くない。

 ありえない程に整った顔立ちでこちらを睨んでいる。

 背中には真っ黒な翼があり、服装は天狗のイメージそのものだ。


 狐耳の生えた少女は明らかに狐が化けた姿だろう。

 耳がそのままということは、変化の術はあまり得意ではないのかもしれない。

 黄色い狐目が暗い空間で少し輝く。

 旅になれていないのか、綺麗だったであろう和服は少し汚れている。

 灰色の袴の足回りはギザギザだ。


 芦山と五昇が戦っている間、小空はいつの間にか地面に降りていてこちらの様子を伺っていたらしい。

 そして月芽が抱えている管狐を見つけ、声を上げながら走ってきた。

 敵意はなさそうだったのと、場に似合わない程の大きな声で駆け寄ってくるものだから誰もが気を抜かれているうちに、小空は月芽から管狐を奪い取ってしまったのだ。


 そして今に至る。


「親元に帰れたから……よし、かな?」

「旅籠様はそれを望んでおられましたよね。狐に帰して欲しい、と」

「ぶっちゃけ狐じゃなくて天狗の可能性もあったけど……。ていうか……あんたら管狐探してたの?」

「そうだよ! いやぁー保護してくれてありがとう! 何処で見つけたの?」

「妖がそいつ利用して霧とか発生させてたけど……」


 そう説明した瞬間、小空の額に青筋が伸びる。

 感情の変化を的確に捉えた管狐は即座に竹筒の中に引っ込んだ。

 その気配は天狗である芦山もびくりと肩を震わせる程であり、もちろん異形たちも数歩引いた。

 だが旅籠だけはなんともない様にそこに立っている。


 彼女はにっこりと笑ったまま、こちらに顔を向けて来る。

 ゆっくり小首を傾げて再確認を取った。


「妖が? この子を? 使ってた?」

「ん? うん。幻術で妖を増やして見せたり、霧使って足止めさせてたりしたのかな? そうだよね五昇」

「……え、ええ……。そ、その通りだと思います……」

「ああ、そう」


 怪しい雰囲気を纏ったまま、小空は踵を返した。

 そのまま歩いて行こうとしたが途中で何かを思い出したかのように立ち止まり、こちらに振り向く。


「ああ、私は小空。人間君の名前は?」

「私か? 旅籠守仲」

「異形を束ねる長だよね。君たちには恩ができたから、また何か協力させてもらうよ。じゃ、ちょっと用事ができたから私は行くね」


 そう言い残して今度こそこの場を去ってしまった。

 だが天狗の芦山だけは小空の背中を見送ったまま固まっている。

 このまま異形たちを放置するという選択を彼女は選んだらしい。


 本当にそれでいいのか、と芦山は悩んだが……。

 結局は小空についていくことにした。

 翼を広げて飛び立とうとしたところで、声を掛けられる。


「あのー」

「……なんだ」


 物怖じするどころか興味深々と言った様子で、旅籠は呼び止める。

 その様子に異形たちには少し引かれてしまった。

 そんなに驚くことだろうか?

 少し視線が気になるが構わず聞きたいことを聞く。


「異形の村って何個あるか知ってますか?」

「異形の村……だと? なにをするつもりか」

「いや普通に……言わなくても分かるでしょう」


 私たちには、戦力が必要だ。

 彼らを救いに向かうのが今の最大の目的である。

 だが異形の村がすべてで幾つあるのか、よく分かっていない。

 異形たちが知らない村もあるかもしれないので、この世界を最もよく知っていそうな空を飛べる天狗に聞いてみたのだ。


 答えてくれるかどうかは分からなかったが、次いつ会えるか分からない。

 無視されたとしても聞いておくべきことだと思って私は声をかけた。


 芦山は眉を寄せてこちらを睨む。

 脅威となりえる存在に対してそのような情報を教えるわけにはいかないのだ。

 踵を返しながら素っ気なく返す。


「知らんな」


 そう言い残し、今度こそ飛んで行ってしまった。

 その背中を見送った旅籠はため息を吐く。


「ん~、まぁそうだよねぇ」

「知っているとは思いやすけどね。教えてくなかったんでさ」

「まぁいいさ。兎にも角にも、まずは分かってる所から行かないとね」

「手遅れになる前に、行かねばなりませぬな」


 蛇髪が月芽の頭を撫でる。

 もうここまで来たなら落水も分からないだろうし、月芽の異術を使って移動するのがいい。

 その意図を読み取ったのか、月芽は大きく頷いて足を踏み込んだ。


「黒細、向こうで良かった?」

「大丈夫でさよ。さぁ行きやしょうか!」


 月芽が開いた継ぎ接ぎに異形たちが飛び込んでいく。

 次に出た場所は森の中だったが、少し先に明かりが見える。

 どうやらあそこが……石材加工を得意とする異形たちがいる、村の様だ。


 すると角が前に出てきた。


「旅籠様、なんか変です」

「空蜘蛛……じゃなくて角か。何か変なのか?」

「この地の異形は、火を使いません」


 角の言葉に誰もが気を引き締めた。

 全員がワタマリを肩に乗せて、忍び寄る様に暗い森の中を進み始める。


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