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和風異世界いかがですか  作者: 真打
第六章 再会・決別
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6.16.Side-萩間-焼け野原


 不落城の火災は翌日の昼にようやく収まった。

 すっかり黒くなった地面が火災の激しさを物語る。

 一言で表すならば焼け野原だ。

 目の前には以前堂々と鎮座していた屋敷がそびえていたが、今は見る影もない。


 少し後ろを見てみれば、そちらは火災の魔の手が伸びてくることはなかったが……怪蟲によって地面をめくられ、倒壊した家屋が積み重なっていた。

 地面は修復不可能なレベルで山と化し、所々で木材などが地面から突き出している。

 最弱の生物だと思っていたが……ここまでの力があるとは予想外だ。

 認識を改める必要がある。


「さて、どうしたものか……」


 古緑は数時間前、早瀬と雪野から旅籠のことを聞いた。

 彼はやはり異形たちと繋がっており、今回の一件で完全にあちら側についてしまった。

 人間の敵になることを自ら選んだのだ。

 あの臆病な渡り者がその選択をしたのだから、彼の中で想うところが明確にあったのだろう。


 早瀬と雪野はここに残って友人を止めることを選んだ。

 彼らだって旅籠と戦いたくなんてないだろうに。

 古緑は心底疲れた様子で、大きく息を吐いた。


「異形に堕ちた渡り者……。それを止める渡り者二人。異形と異形鬼が敵となり、異形人すら相手にいる、か。妖より厄介でなければよいが……そうはなるまいな」


 異形は、長年突破することが出来なかった九つ山の妖のほとんどを仕留めてしまった。

 だからここまで来ることが出来たのだ。

 力を持った異形が、今更妖の言うことを聞くことなどしないだろう。

 長年下僕として苦しめられてきたはずなのだから。


 古緑は一山を見る。

 あそこは制圧されているはずではあるが、まだ人の手が入っていないはずだ。

 早いうちに兵を送って道だけでも整備させておいた方がいいかもしれない。

 そうでなければ……異形が拠点としてしまう。


「いや、もうなっておるか」


 怪蟲がいれば、それが可能になる。

 至極弱い存在として周知されている怪蟲ではあるが、古緑は異形の文献の中に怪蟲を使用した策があった。

 それが……地形破壊だ。


 一つ小突けば死んでしまうほど弱いのに、地面を突き進むほどの力を持っている。

 戦闘能力は著しく低いが使い方によっては部隊を丸々壊滅させてしまう危険な存在だ。


 不落城の一部が怪蟲によって破壊された。

 それはつまり異形たちが怪蟲の使い方を知っているということに他ならない。

 彼らは今……すべてを破壊する力を持っているのだ。


 怪蟲が側にいるなら、一山を守るために隠している可能性がある。

 近づこうものならすぐさま地形を破壊して軍の足元をひっくり返すだろう。

 ここまで来ると人間だけでは勝機は薄い。

 同じ地形破壊を得意とする鬼を待たなければならなさそうだ。


 それに何日かかるか。

 対抗策はあるものの、やはり巫女の力がなければ兵士は脆い。

 今頼ることが出来る巫女は二人だけ。

 なんとも心もとない。


「はぁ……」

「ため息を吐くと、幸が逃げると聞いたことがある」


 そこに響くかのようなドスの利いた声で話しかけられた。

 久しく聞いていない声だったが懐かしみを覚える。


 振り向いてみれば一人の武士が腕を組んで歯を見せながら笑っていた。

 力強い眼光を持つ男だ。

 年齢は古緑よりもずいぶん若く、三十代半ばほどだと感じられた。


 黒い髪はぼさぼさで手入れがされていない。

 真っ黒な和服に身を包み、腰に携えている日本刀も真っ黒だ。

 少しばかり筋肉質な体つき。

 和服越しからでも腕の太さが伺えた。

 彼は神出鬼没な人間で、ふらっと現れはふらりと消えていく。


 だが……この男には何度も救われたことがある。


「山本殿」

「隠居したと聞いたはずだが」

「ひょんなことから戻って来た次第。それより山本殿は何故このような時に」

「不落城の危機だ。遠くからでも分かる程の火災。飛んでくるのは当たり前ではないか」

「まっこと山本殿らしい」


 くつくつと笑いながら山本が側による。

 完全に焼け野原になってしまった城下町を眺めて嘆息した。


「敵は」

「異形」

「……聞き間違いか?」

「異形だ。奴らは九つ山の妖を討ってここまで来た。奴らの力、侮っていては足元を掬われるぞ」

「それは結構なことだ。掬えるものなら掬ってみせい、と言ってやろう」


 どん、と胸を叩いておどけて見せたが、今の状況下では笑えない。

 古緑は首を横に振る。


「それほどの余裕がある者は少ない」

「だろうな。しかし妖は大打撃を被っているだろう? 言わば勝機」

「妖の動きに合わせねばならぬ時が来るとはな」

「ほう、挟撃するつもりか」

「それが最も効果的だろう。今の勢力では……妖どころか異形にも勝てぬ」

「……それほどか」

「それ程なのだ」


 力の強い巫女がもう少しでもいれば……。

 そう思わない日はない。

 風たちは過酷な環境下で戦い続けたために個の力こそ強靭になりつつあるが、妖術には勝てないのだ。

 それは古緑も同じ事。


 早急に巫女を前線に出すことが出来なければ……不落とされていた不落城が陥落する。

 比喩表現でもなんでもなく、現実となる日が近い。


「鬼と巫女を集めねば」

「だが秋は終わる。冬の風が出張って来るぞ」

「冬の颪とは長い付き合いだ。あいつの息子と我が息子は反りが合わぬようだがな」

「どちらも颪の家系だ。何かしら張り合うものがあるのだろう。貴殿もそうではなかったか?」

「然り」


 ふと、自分もそうなっていたのだろうかと耽る。

 だがいなくなった友を嘆くのはやめた。

 目をしかと開き、次を見る。


「山本殿、頼みがある」

「いいだろう」

「私は冬の颪に話を付けてくる。山本殿は不落城城主に話を付けてはくれまいか」

「難儀な方を投げるものだな……。だが久しく会った萩間殿の頼みだ。面白そうだしやってみせよう」

「助かる」


 山本は踵を返して歩み出す。

 それとほぼ同時に古緑も足を動かして目的地へと向かった。


 今から始まるのは戦争の下準備。

 これが整うかどうかで……今後異形に対抗できるか否かが決まる。

 勝てばそれに越したことはない。

 だが負けたのならば……。


 代果城にも魔の手が伸びて来るだろう。


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