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和風異世界いかがですか  作者: 真打
第六章 再会・決別
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6.5.挨拶をしてから


 少しばかり早い朝食を食べて外に出る。

 古緑以外にも孫六がその場に同席しており、馬の手綱を握っていた。

 ここまでの道中で馬の扱い方を少し理解した早瀬にそれを手渡す。


 早瀬が馬にまたがり、その後ろに旅籠が乗る。

 古緑の乗る馬には雪野が乗った。


「父上、お気をつけて」

「急ぎですまぬな」

「いえ、お気になさらず」


 ぱしっと手綱を操って馬を歩かせる。

 流石にここから城下町まではゆっくり歩かせなければならない。

 古緑ははやる気持ちを押さえながらこの場を後にした。


 前線を出て不落城の城下町に入る。

 そこでは朝早くから店の仕込みをする者たちがまばらに歩いていた。

 馬が歩いてきていることに気付いた彼らは一礼して道を開ける。


 旅籠は純和風建築群を忙しなく見渡しており、前にいる早瀬に色々聞いて回った。

 とはいえ早瀬も知らないことの方が多い。

 適当に濁したりしながら馬を操った。


 すると古緑が馬を止める。

 そこは付蔵がいる鍛冶場だ。


「付蔵に断りを入れて来る。頼んだ手前、こればかりは私がせねばな」

「あ、俺は行きます」

「良いだろう」


 早瀬は旅籠に手綱を渡す。

 馬など操ったことがないので最初こそテンパってしまったが、馬が良い性格をしているのでじっとしてくれた。

 大人しくしてくれたことにほっとして首を撫でると、ふるふると頭を振るう。


 馬を降りた二人は少し移動し、付蔵のいる鍛冶場へと入っていった。

 すると炉に火を入れている付蔵の姿が目に入る。

 声をかけるとすぐに気づいたようで、驚いた顔をしながら駆け寄ってきた。


「こんな朝早くにいかがされたのですか!?」

「急な用事ができてしまってな。戻らねばならんくなった」

「ああ~そういうことですか。日本刀はどうしましょう? 打ちますか?」

「お主の為にも打ってもらおうか」

「……! 承知いたしました……!」


 話が早いのが付蔵のいいところだ。

 挨拶もこれだけで終わってしまったらしい。


「付蔵さん、なんかすいません……」

「大丈夫大丈夫! 完成したら萩間様の屋敷に届けさせてもらうよ! それでいいですよね?」

「うむ、構わん」

「焼き入れ時を見てもらえないのは残念だけど、絶対に銘を刻んで見せるから!」

「頑張ってくださいね!」


 ぐっと握り拳を作って応える。

 すると付蔵はすぐに作業に戻ったようで、炉に火を入れていく。

 すぐに職人の顔つきになったので二人はそそくさと作業場を後にした。


「付蔵さん、大丈夫そうですね」

「ああ。あれならば、ようやく良い刀を打てるだろう」


 短いやり取りをしている間に、待っている二人の所に戻って来た。

 どうやら談笑していた様で笑い合っている。

 仲の良いことだ、と古緑は小さく笑った。


 その時だった。

 遠くの方で何かが光ったように見えた。

 次の瞬間風を切る音が聞こえてきたので、即座に地面を蹴って抜刀する。


 ヂィンッ!!

 旅籠に向かって飛んできた矢を切り落とす。


「……え?」

「……この矢は……! なぜこんなに朝早く……!」


 古緑は不落城を睨む。

 飛んできた場所は分からなかったが、明らかに城郭がある方角から飛んできた。

 そしてこの矢には見覚えがある。


「旅籠殿! 逃げよ!」

「え!? はぁ!? うっそ待って!? な、なんで!?」


 馬の扱い方を知らない旅籠は、手綱を振るだけで馬を歩かせられない。

 しかし馬の方が何をしたいかが分かったらしく、とてとてとゆっくり進む。

 それでは遅い。


「ちょ、ちょっと待ってください! どういうことですか!?」

「説明している暇はない!」


 早瀬がそう叫ぶ間に二本の矢が飛んできた。

 それをなんとか叩き落したが、矢の速度が速くなってきている。

 と、いうより矢を放つ人間が一人増えた。

 このままでは守れない。


 とにかく遮蔽物に隠れて欲しいとは思うが、相変わらず馬はマイペースに進んでいた。

 雪野も馬の扱いを知らないので動かせない。

 早瀬はすぐに旅籠の乗っている馬に乗ろうとするが、歩いている馬に乗り込むのは難易度が高かった。


「旅籠! しっかりつかまっとけ!」

「おう!」

「行ってこい!!」


 馬の尻を思いっきり叩くと、急に走り出す。

 旅籠は馬を操れないので少し不安だったが意外と何とかなっているらしい。

 そのまま蹄を鳴らして走っていく。


 古緑は矢を放っている場所がどこなのか見つけることができたので守りやすくなった。

 旅籠を守る様に立ちふさがって矢を放つ人間を睨む。


 早瀬は今までの修行で培った脚力を使って旅籠を追いかける。

 止め方を知らないのだから、誰かが止めてやらなければならない。

 しばらく走れば馬も疲れて速度を落とすはずなので、そこを狙って馬を止めることにした。


 これで大丈夫だ、と誰もがそう思った。

 その瞬間。


「う……?」


 旅籠の逃げている方角から飛んできた矢が心臓を貫く。

 手綱を手放し、地面に体を思いっきり叩きつけてしまった。

 それを目視してしまった早瀬が目を見開く。

 雪野は口元を覆った。


「──!?」

「旅籠さん!!?」


 明らかな致命傷。

 古緑もそれを見て歯を食い縛る。


 馬がそのまま旅籠を置いて走っていってしまった。

 彼は地面に倒れたまま動かない。

 胸からは真っ赤に染まった矢尻が飛び出している。


 早瀬が駆け寄って旅籠に触れる。


「旅籠! 旅籠!!」

「……」

「おい! ……おい……! 目を開けろ旅籠おお!!」

「……」

「え」


 目を開けた旅籠に気づき安堵したのだが、それは一瞬。

 その瞳は虚ろで焦点が合っていないように思えた。

 寝ころんだままゆっくりと腕を動かして突き刺さった矢を握り、力を次第に込めて引き抜く。


 痛みに顔を歪ませないことに早瀬は驚いた。

 そのまま上体を起こすと、目に光が戻る。


「……? あれ?」

「旅籠……? お前、大丈夫……なのか?」

「え? ああ、うん大丈夫……だな?」


 傷口を触ってみたが、いつの間にか塞がっている。

 明らかに一度死んだはずだったが、旅籠は生き返った。

 もう一度傷口を触ってみたがもう痛みなどは感じない。

 ただ穴の空いた服だけが、矢が一度貫通したことを教えてくれた。


 まるで不死身のような力。

 生き返って喜んだ早瀬だったが……なんだか周囲の視線が痛い。

 店の仕込みをするために外で駆け回っていた人々が、こちらを見て恐怖している。


「こ……こっ……! 魂蟲喰らい……!」

「魂蟲喰らいだ! お役人様を呼べ!」

「早くするんだ!」


 急に周囲が騒がしくなり始めた。

 何が起こっているのか分からず困惑していると、騒ぎを聞き付けた秋の風が集まってくる。


 彼らは即座に抜刀して、切っ先を旅籠に向けた。


「……え?」

「下手人を捕らえろ!!」


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