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和風異世界いかがですか  作者: 真打
第六章 再会・決別
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6.1.再会

第六章です。

前回の旅籠視点となります。

六章は全17話で、私がこの作品を書くにあたって一番やりたかったことをねじ込んだ章ですので、お楽しみに。


 真っ暗な森の中を歩くのはやはり慣れない。

 松明などはなく、唯一夜の山を照らしてくれるのは月明かりだけだ。

 それも生い茂る木々に阻まれてほとんど意味をなしていない。


 暗さに慣れた目を頼りに、足元に注意しながら歩いていく。

 前を五昇が歩いているためそれについていけばいいのだが、小さな段差などによく躓いた。


 彼女は超音波を使って地形を把握する。

 なので暗かろうが関係ないのだ。

 濃霧の中を木夢で突っ切った時も、彼女の超音波が使用されていた。


 ここは二山の麓。

 妖という驚異は去り、あとは旅籠が人間と合流するだけとなった。

 別れる時はしっかり見送ろう、とここまで行動を共にした異形たちが全員集まっている。


 先頭を歩いていた五昇が足を止めた。

 仮面を位置を調整しながら振り返る。


「一山を越えたところで人間様が数名集まっているようです」

「そんな遠くまで分かんの!?」

「遠くを知ることだけは得意なので。月芽さん」

「はい!」


 管狐の竹筒を持ったまま、月芽が地面を踏む。

 すると継ぎ接ぎが地面に凄まじい速度で伸びていった。


 彼女の異術で旅籠は移動する予定だ。

 一山を越えて人間がいる場所付近に移動できるように整えた。

 旅籠の足元に継ぎ接ぎが開く。


 ここに入れば、一山を越えて人間と合流できる。


「よし……」


 これが皆の顔を見る最後だと思うと、寂しく思った。

 だからここで一人一人にお礼を言いたい。


 旅籠はまず、月芽を見る。


「月芽。最初から私の面倒を見てくれてありがとう」

「当然のことをしたまでです!」

「蛇髪。最初は怖くて苦手だったけど、すごく助けられた」

「お役に立てたようでなによりですぞ」

「黒細。道案内ご苦労!」

「なんか雑じゃありゃんせんか!?」

「空蜘蛛……じゃなくて(かく)。兄さんによろしくな」

「お任せくだされ!」


 大量の足を踏み鳴らしてそれに応える。

 空蜘蛛の弟にもいろいろ世話になった時があるので、角という名前を与えた。

 すると巨大な多足蜘蛛となって、顔は少し厳つくなった。

 性格と顔が一致していないのが気になるが、些細なことだ。


 因みに兄には(らく)という名前を与えている。

 当の本人はここにはいないが、名前だけ持って帰ってくれたら嬉しいと思ったのでそれを角に託した。


「案山子夜と五昇、布房。あと木夢。三山での活躍は本当にすごかった。君たちのお陰で安全にここまで来られたよ」

「ご期待に添えたようでなによりです」

「カラココッ」

「……」

「木夢……もう少し小さくなれないのですかな……? やれやれ……」


 小さな木材の犬になった木夢。

 どうやら内臓と体を覆っている木材の大きさと質量を変えることができるらしく、戦闘時以外では大型犬ほどの大きさにまで小さくなっていた。

 だからあの惨状の中で見つけられなかったのだ。


 案山子夜が困ったように頬を掻きながら、木夢を撫でる。

 するとカラカラと音がした。


「旅籠様。三山での戦は確かにわてらが活躍致しましたが、その前の戦は他の異形たちも活躍しましたぞ」

「分かってるよ。本当に皆のお陰でここまで来られた。ありがとう!」


 夜であるため声は出さない。

 それぞれが持っている武器を小さく掲げ、地面を突く。


 礼を言いたいのは異形たちの方だったが、ここで一人一人喋っていては旅籠が帰るタイミングを見逃してしまう。

 彼らは口にしたい言葉をぐっと我慢した。


 旅籠は最後に落水に向きなおる。

 落水は数歩こちらに歩み寄って来た。


「旅籠。教えたことは覚えているな?」

「もちろんです。異形との関わりは秘密にすること。妖は一度も見なかったことにすること。……ワタマリは連れて行かないこと……」

「よし」


 人間たちと合流するにあたって、発言には気を付けておいた方がいい。

 異形と人間は、一応敵対関係にある。

 なので異形との関わりはないことにしておくのが一番良い。


 そのため旅籠は二山と一山の間に落ちたということにして、運良く見つけた妖の拠点で服を調達して一山までたどり着き、人間と合流することができたという体で行く。

 その道中異形はもちろん、妖も見なかったということを貫いてもらう。

 これである程度は訝しまれないはずだ。


「可能な限り何も知らない、と貫け」

「二山に落ちたってことなら本当に何も知らなさそうですけどね。よし!」


 旅籠は一歩後ろに下がった。

 全員の目を一度見てから、ぴょいと飛び跳ねる。


「皆、ばいばい!」


 地面に開いた継ぎ接ぎの中に旅籠が落ちていく。

 それと同時にコロリンッと一匹のワタマリが落ちたのだが、旅籠の後ろで落ちたので誰も気づかなかった。


 継ぎ接ぎが閉じる。

 月芽が旅籠を目的地まで運んだあと、その継ぎ接ぎも消えてしまった。


 しん……と静まる異形たち。

 ワタマリが音を食っているわけではない。

 森も、草も、虫すらもこの一瞬だけは音を立てなかった。


 ようやく風が一つ吹き、草木を揺らす。

 帰って来た音を聞いた瞬間……耐えていた異形たちが涙をこぼした。

 短い付き合いではあったが、旅籠は異形たちに革命を起こした人物だったのだ。

 誰もが彼を尊敬し、好いていた。


 いつか来る別れであることは分かっていた。

 分かっていたからこそ旅籠の前では気丈に振舞っていたが、目の前からいなくなって気が緩む。

 ダムが決壊したかのようにわんわんと泣く異形もいれば、静かに涙だけを流す異形もいた。


「旅籠様ぁ……! ううぅ……!」

「月芽には辛い役目でしたな。よく耐えましたぞ」


 管狐の入った竹筒を強く握ったまま月芽は涙を流した。

 それを慰める様に寄り添った案山子夜が、彼女の頭を撫でる。


 五昇は今も旅籠が来た場所を見つめており、黒細は傘を深く被って顔を隠していた。

 蛇髪は静かに目をつぶっていて、布房はその場に座る。

 角と木夢もその場に座って静かにしていた。


 各々が悲しみに耽る中、落水だけは小さく笑って日本刀を差し直す。


「異形共……!」


 ビリッと振動する空気に、誰もが顔を上げた。

 気分が高揚しているのか落水の体からは大量の水があふれている。

 地面がびっしょりと濡れてしまう程に。


 ただならぬ様子に困惑しつつも、蛇髪が聞く。


「お、落水様……? いかがなされたのですかな……?」

「異形共ぉ……!」

「落水様……?」


 彼は一歩前に出た。

 旅籠が向かった一山に向けてまた一歩、また一歩と進んでいく。


 ようやくこの時が来た、と笑っている。

 待ちに待ったこの瞬間をどれだけ待ちわびた事か分からない。

 やっと始まる。

 ようやっと始められるのだ!


「旅籠を救いに行くぞ……!」



 ◆



「ほげええええええ!? ワタマリてめぇええええええ!!」

「ぺしょぺしょ」


 旅籠は今、山を転がり落ちていた。

 月芽に運んでもらって出て来た場所は比較的平たんな場所だったのだが、少し歩けば急な傾斜が待っていた。


 それだけならよかったのだが、いつの間にかついてきていたワタマリが足元にいたのだ。

 一匹だけか、と安堵したのがいけなかった。

 最後に触ろうと思って近づいた瞬間、三つに分裂した内の一匹を踏んづけてしまったのである。


 そのまま盛大に転倒し、急な傾斜を転がり落ちる羽目になった。


「ほっ!? ぐ! ちょちょ……!」


 人間、急な危険に襲われると言葉を発さなくなるものだ。

 凄まじい速度で急勾配の傾斜を滑り落ちていく旅籠は、四肢を駆使して巨木や根っこを巧みに避けることはできていた。

 だが一向に止まる気配がない。


 滑り落ちていった先に低木があった。

 もうあれを使って止まろう。

 半ば投槍になって盛大にその低木に飛び込み、細かい小枝に体を引っ掻かれながら何とか停止する。


「いってぇー……! ワタマリめぇ……急に分裂しなくたっていいだろ……。うわぁ、泥だらけだ……」


 立ち上がって服についた泥を払う。

 すると松明の明かりが見えた。

 あれが五昇の言っていた、一山に集まっている人間だろうか?


 急に明かりが差し込んできて目が痛い。

 松明の明かりを手で遮りながら、草を掻き分けてそちらへと近づく。


「あ、あのー。誰かいますかー? うわ眩し……」

「何者だ!」

「え。えーと……旅籠ですー……。旅籠守仲って言うんですけど……」

「「旅籠!!?」さん!?」

「へ?」


 懐かしい声が聞こえた気がした。

 だがそれはあり得ないことだ。

 ここは異世界であり、元の世界の友人の声が聞こえるはずがない。


 しかし、こちらに走ってきている人物を旅籠はよく知っていた。

 目を瞠って二人の名前を叫ぶ。


「早瀬ぇ!!? 雪野さん!!?」

「お前ええええ!! 心配させやがってマジでもー!!」

「よかったー! 本当によかったぁー!」

「おわっふ!?」


 旅籠は飛びつかれた旧友二人に思いっきり転倒させられたのだった。


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