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和風異世界いかがですか  作者: 真打
第四章 九つ山
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4.20.九つ山・異妖の乱⑤


 四山から三山までは三日かかる。

 旅籠は息を切らしながらようやくたどり着いた三山に腰を下ろし、大きく息を吐いた。

 道中で回収した魂蟲を口に放り込む。


 いやぁ……しかしびっくりした……。

 あんなに姿が変わるとは思っていなかったよ。


 先日、妖を追いかけて倒すためにその場で名付けをした。

 結果としてとんでもない奴が一体出てきてしまったのだ。

 それがカシカモク。


 凄まじい跳躍力を見せていたのと、名前の漢字が宛がいにくいということで、木夢(もくむ)という名前を付けたのだ。

 するとどうしたことか、とんでもなくデカい獣の姿になった。

 体表はすべて木材でできているらしく、毛も木材だ。

 だが内臓があるので妙な感じがしたのを覚えている。


 前までは鹿程度の大きさだったのだが、恐竜レベルの大きさになってしまった。

 これには流石に驚いた。


 木夢だけで対処できそうな感じだったが、念には念をとあと二体に名付けをした。

 それがカカシヤとゴノボリ。


 カカシヤには案山子夜という漢字を宛がい、ゴノボリには五昇という漢字を宛がった。

 すると二体とも話すことができるようになって、とても喜んでくれた。

 そのまま木夢に乗って三山に向かったのであれ以降話せていないが……。

 あれから結局どうなったのだろうか?


 ということで現地に着いたわけだが……。

 ずいぶん暴れ回ったということが分かる。

 山が数箇所抉れており、しっかり足跡が付いていた。

 これは恐らく木夢の仕業だろう。

 あとは矢が幾つか地面に落ちていたりするくらいだ。


 木夢は力の加減ができないのだろうか?

 そうなってくると、とんでもない異形を作り出してしまったことになる。


 一緒にここまで歩いてきた異形たちもその光景を見た。

 感心した様な反応をして、その傷跡を触りに向かう。


「木夢の仕業だね……」

「私もあそこまで大きくなるとは思っていませんでした……。でも居ませんね? どこでしょう?」

「うーん?」


 月芽と共に木夢を探す。

 体がでかいのだからすぐにでも見つかりそうなものだが、どうしたことか見当たらなかった。

 隠れているのだろうか?


 すると、テンテンッと地面を棒で突く音が聞こえてきた。

 それはこちらに近づいて来ている。

 見やれば案山子夜が少し不格好な歩き方で側に寄った。


「旅籠様。妖はすべて仕留めましたぞ」

「お、おお~。やっぱりかっこよくなってんね案山子夜!」

「わてですかな? いやはや、これも旅籠様のお陰ですぞ」


 わさっと揺れる藁の髪の毛。

 案山子らしさが前面に出ている彼の姿は、やはり格好がいい。

 異形と言われてもこれであれば怖くもなんともないのだ。


 その点で言えば五昇も接しやすい。

 口元だけが骨になっているのでそれを隠すために仮面を所望したのは少し驚いた。

 別に良かったと思うのだが、彼女的には嫌なのだろう。


 案山子夜が咳払いをする。


「妖を全滅させたのはよかったのですが……」

「あれ? 何かあった? もしかして木夢が……」

「いや、木夢ではありませんぞ。以前落水様が狐を危惧しておられたではありませぬか」

「あ、うんうん。そうだね」

「妖どもがこのような物を持っておりましてな」


 着こんでいる和服の袂から、一つの竹筒を取り出して手渡された。

 手に持ってみると中に何か入っているようだが、どうにも軽い。

 なんだろう、と思ってひっくり返して中身を出そうとして見るが、中にいる何かに抵抗されて出てこなかった。


「なんかおる!?」

「旅籠様! それ、管狐ですよ!」

「管狐か!」


 管狐。

 竹筒の中に入っている絵をよく見るイタチの様な姿をしている狐だ。

 時々見える小さな顔は確かに狐らしい。

 だが震えているようで、外を怖がって一向に出てくる様子がなかった。


 落水の言う通り、確かに狐がいた。

 これはどういう経緯で妖の手元に渡ってしまったのだろうか?


「……ちょっと待って? 案山子夜。狐って本当にこの一匹だけ……?」

「そうですな。わてと五昇が探しましたが、見つかったのはそれだけですぞ」

「こんなちっさい狐が、あんな幻術を……?」

「……そういえば、わてらが妖を仕留めに行くとき、濃霧が……。五昇のお陰で迷いませんでしたな」


 脅されて無理矢理力を使わされていたのだろうか?

 それにしても妖の偽物を作る幻術だったり、濃霧を発生させたりと意外とできることが多い。

 これがこんなにも小さい狐が使うのだ。


 本当の狐は、一体どれだけ強大な力を持っているのだろうか。

 ……今後、出会わないことを切に願う。


 でもこの管狐、どうしたらいいんだろう。

 怖がって出てこないし、かといって放置しておくわけにもいかない。


「……月芽、頼んだ」

「私でいいんですか?」

「ううーん、私って一山に行ったら多分皆とお別れだからさ。できたら狐のいる場所に返してあげて欲しいな」

「逆に怒られたりしないでしょうか……?」

「話が分かる妖だったら大丈夫でしょ。多分……」

「分かりました」


 若干不安は残るが、帰ってしまう私より他の者に託しておく方がいい。

 月芽に管狐を任せた後、私は一山の方角を見た。


 ここは三山。

 ここから一山まではおおよそ一週間の時間が必要だ。

 あと、一週間。


「もうそろそろか」

「……もう邪魔立てする者はおりませぬぞ、旅籠様。わてら異形は責任を持って旅籠様を人間様とお会いできるよう工面しますぞ!」

「その時は私の力を使って移動して頂きます。大丈夫ですか?」

「……うん、大丈夫。頼んだよ」

「「はい!」」


 異形たちは強くなった。

 これならこの世界でも独立してやっていくことができるだろう。


 あとは、私が帰るだけである。

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