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和風異世界いかがですか  作者: 真打
第四章 九つ山
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4.17.九つ山・異妖の乱②


 群がっていた妖が一斉に地面に倒れる。

 砂かけの持っていた砂が仲間に触れ、毒に侵されてしまう。

 立っている妖は落水の近辺にはおらず、後続として続いていた妖が驚愕の表情を浮かべて硬直した。


 なにが起こったか分からなかった。

 初めて見る異形の異術。

 妖術に近い技だったが、地面の中を移動して飛び出してくる水など、見たことも聞いたこともない。


 大量の血液が大地を濡らす。

 そこから先に踏み入れようものなら、またあの攻撃が来るのではないか、と誰も一歩を踏み出せない。


「立ち止まったら狙いやすいですね」


 ビッと地面に継ぎ接ぎが伸びる。

 妖の足にそれが触れると、体に継ぎ接ぎが伸びた。

 縫合糸を無理やり引きちぎる音を立てながら妖の肉体が切り裂かれる。


 遠距離、中距離、近距離すべてに対応することができる月芽の異術。

 妖の力を削ぐことができる蛇髪の異術。

 そして素の実力と反応ができないほどの攻撃を繰り出す落水の異術。


 妖たちは、この三人には近づくことができないと直感した。


 その後方にいる旅籠は多数の異形とツタマキと木樹に守られており、さらに布房も八本の日本刀を構えて側に待機している。

 少しでも近づいた妖は、攻撃を繰り出すこともできずに布房に殺されるか、弩で蜂の巣になるかのどちらかだった。


 敵の数も異形の総数に近づいてきたように思う。

 まだ兵を隠しているかもしれないが、ここまで兵力を削ることができたのだ。

 今はその結果が目の前に現れているだけで十分である。


 とはいえ、こちらも少なからず死傷者が出ていた。

 厄介だったのは砂かけと垢舐め。

 混乱からの復帰も早く、毒と溶ける唾液は異形たちを多く負傷させた。

 毒は死者すらも出している。


 だがその勢いはもう消えた。

 異形たちは優勢であることに自信を持ち、更に前へ進もうとする。

 しかしそれと落水が止めた。


「待て」

「っ……とと……! な、なんででさ!?」

「妙だ」


 これだけ劣勢になれば、一体くらい逃げ出してもいいようなものだ。

 だが妖にそのような様子はない。


 いくら相手を格下だと思っていても、格の違いを今見せた。

 尚且つ立ち向かってくる度胸は認めるが、妖にそんな人間らしいことをする奴はいない。


「蛇髪。この辺り全てを見てくれ」

「な、難儀な……。致し方ありませぬなぁ」


 ギッと指に力を入れて印を結ぶ。

 指の関節がパキッと鳴ると、辺り一帯にいた口裂けが霧散した。

 残っているのは……垢舐め衆と砂かけ衆だけである。


 術がかき消されて驚いたのは、異形だけではなかった。

 妖たちが周囲を見渡して困惑している。

 今まで一緒に戦っていたはずの口裂けが消え去り、異形の数より人数が少なくなった。


 落水はようやく腑に落ちた。


「狐か」


 狐の妖術だ。

 口裂け衆の幻術を作り出し、数を多く見せていた。

 故に口裂けは弱く、脆かったのだ。

 だが幻覚なので人数は減らない。

 そのため人数有利だと勘違いしていた垢舐め衆と砂かけ衆は、まだ戦えると逃げ出さなかったのだ。


 カラクリが分かればなんとも単純。

 しかし殺した感覚もあるように思えた幻術の精巧さ。


「……なにを味方にした?」

「兄様! 敵が!」


 じりじりと後退していた妖が、一気に踵を返した。

 だがここは四山の中腹。

 彼らの撤退方向は……上り坂だ。


「旅籠!」

「分かっていますよ!」


 旅籠が手を上げると、異形たちが弩を構えた。

 その数はやはり多く、持ってきた弩すべてが妖たちに向けられる。

 今まで戦利品として手に入れた矢は殺傷能力が高く、更によく飛ぶのだ。


 今この状況であれば、敵に有効打を与えることができる。


「放てぇ!」


 矢の雨が逃げていく妖に襲い掛かる。

 命中率は悪かったが、地面に突き刺さった矢は敵の逃走を阻害した。

 慌てて逃げるほど服に引っ掛かってしまう。


 そこを前線で戦っていた異形たちが仕留める。

 碌な反撃を貰うこともなく、四山での戦いは異形たちの勝利となった。

 最後の一体を仕留めると、その首を掲げて『ロウ、ロウ、ロウ』と一体の異形が口にする。

 それが合図となり、全員が同じ言葉を使って勝鬨を上げた。


 勝利することはできたが、落水は浮かない顔をしている。

 喜びながらそちらに駆け寄った旅籠は彼の顔を見て小首を傾げた。


「どうしたんですか?」

「……敵に狐がいる。口裂け衆は幻術で作られていた偽物だった」

「……マ?」


 狐……って妖怪の中でも最強の妖術を使うあの狐さん……!?


「だが上位の存在である狐が下級の妖を味方するはずがない。ましてや我ら異形の為に出張ってくるなど考えられぬ」

「言いすぎでしょ……」


 それだけ力量差がある、ということなのだろうが、なんだか少しショックだった。

 落水からすれば、まだまだ異形たちは弱いらしい。

 私から見れば十分過ぎるほど強いと思うんだけどなぁ……。


 しかし落水の言いたいことはこれではない。

 まず力の強い狐が四山にいること自体おかしな話であり、尚且つ妖の味方をしているのは不可解極まりない。

 だからなにか裏があるはずだ、と落水は読んだのである。


「手の目の策略ですか?」

「分からん。奴らにそんな度胸はない。正直皆目検討も付かぬな」

「狐がいるってことだけは分かりました。これからの作戦に変更はありますか?」


 狐に対して危惧し続ける落水に、次の手のことを聞いてみた。

 このままでは狐がどうして四山の妖の味方についているか、という議論が広がりそうだったので話を戻す。

 これからは狐の妖術に気をつけてなければならない。


 幸いにも蛇髪は狐の妖術を見破ることができる。

 だがそれには相当な体力を消費してしまうようだ。

 連発して使えるような技ではない。


 この辺りも込みで少し話をした方が良さそうだ。

 旅籠はよく話す異形たちを呼んで、会議を開くことにした。


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