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和風異世界いかがですか  作者: 真打
第四章 九つ山
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4.16.九つ山・異妖の乱①


 異形たちの目の前に現れたのは、垢舐め衆、砂かけ衆、口裂け衆の連合軍だ。

 数としては明らかに敵の方が多い。

 こちらは百に満たない戦力なので、これだけでいえば不利になる。


 だが忘れてはいけない。

 ワタマリの能力は未だ健在である。


 妖の連合軍はこちらの存在に未だ気付いていないらしく、勢いそのままに通り過ぎようとした。

 だがそれを見逃す異形たちではない。

 これまでの戦いで躊躇なく妖を殺すことができるようになった彼らは、各々の武器を使って確実に一体を仕留めた。


 そこでワタマリの能力の効果が切れる。


「なっ!? なんだっ!?」

「ごげぇ……」

「こんな所に居やがったか!!」


 混乱している妖連合軍は、即座に体勢を立て直すことができなかった。

 既に混戦状態にもつれ込んでおり、冷静さを失っていない異形たちがその中で暴れまわる。


 形は理想的ではないが、奇襲は成功した。

 ここからが本当のぶつかり合いだ。


 ようやく戦闘態勢に入った妖連合軍。

 その中でも砂かけと垢舐めは瞬時に対応し始めた。


 砂かけが袋の中に詰め込んでいた砂を握り、手の中で属性を変える。

 バッと砂をまき散らせば毒の砂となり触れた異形を蝕んだ。

 しかし異形も瞬時に反撃し、袋を切って砂を地面にまき散らせたり、砂かけに攻撃して戦力を削ぐ。


 これだけであれば砂かけの方が有利だった。

 当たれば勝ちとなる砂の攻撃。

 人間相手にはこれで充分なのではあるが……そこで大きな誤算が発生する。


 カカシヤに砂がまともに掛けられた。

 これで勝負あったと気を緩めた砂かけだったが、カカシヤは特に何事もなく動き回る。


「は!? ごぇ!?」


 一本足と槍を使って瞬時に近づき、見事に串刺しにする。

 そのまま槍を引き抜き、垢舐めの攻撃を回避して舌を切り飛ばした。


 異形の中には、肉体らしい肉体を持たない個体が多い。

 カカシヤはその代表で、体は木材でできているのだ。

 なので毒は効かない。


 地面を滑りながら黒細と合流する。

 化け猫対策で組になっている一体だ。


「カクカクッ」

「やりやすねぇカカシヤ! あれ、カシカモクは?」

「カク」

「上? 高っ!?」


 凄まじい跳躍力を見せて落下してきたカシカモクは、見事に口裂けを踏み潰す。

 カシカモクには内臓がある。

 なので砂かけには攻撃しないことを心掛けている様だ。

 動物の姿に近い異形であるためか危機察知能力が非常に高く、少しでも毒の砂が近づけば地面を自慢の脚力で蹴り飛ばして移動する。

 その余波で若干風圧が起きた。


 負けていられない、と黒細も腕をかち合わせて音を鳴らす。

 亡霊に近い姿である黒細もカカシヤ同様、毒の砂は効かない。

 なので砂かけ衆を優先して攻撃する事にした。


 以前より移動速度が速くなり、敵を翻弄して腕を突き刺す。

 カバーに入った垢舐めの舌がこちらに飛んできたが、カカシヤが見事に切り飛ばした。

 垢舐めの舌は肉体を溶かす唾液が含まれている。

 槍も少し溶けてしまったが、まだ使えるためカカシヤは血振るいの要領で唾液を払い、再び切先を向けた。


 その瞬間にカシカモクが垢舐めの側にやってきて蹴り飛ばす。

 地面を抉りながら転がっていくのを見届けた後、カシカモクはガゥと声を漏らす。


「いいでやすねぇ! カシカモク! 垢舐めはたのんまっせ!」

「ガルルッ」


 妖連合軍は未だに連携は取れていない。

 この間にできる限り戦力を削っておきたいが……やはり数が多かった。


 力の比較的弱い異形が弩を使って応戦している。

 彼らを守るタマエキは肉体に仕舞い込んでいた武器を操って応戦しているが、明らかに無理をしていた。

 助けに行くべきか悩んでいた所で、タマエキの周囲に集まっていた妖の体に継ぎ接ぎが伸びる。


「ぐっ!? な、なんだ……!?」

「動けん!」

「仲間は殺させません」


 遠くで蛇髪と落水と共にいる月芽が、握っていた拳を広げる。

 その瞬間、継ぎ接ぎがベリッと開いて妖の肉体を引きちぎった。

 大量の鮮血が地面にまき散らされる。


 それを見てしまった妖は、一歩引きさがった。


「なっ……!? おい! なんだこいつら! 本当に異形か!?」

「どこをどう見たって異形だろうがよ! だけど……」

「なんで、俺ら……殺されてんだ……」


 ズシャッ……と地面に倒れ伏す口裂け。

 舌を切り飛ばされて悶絶する垢舐めに、何もできずに殺されていく砂かけ。

 数ではこちらが有利なはずなのに、ほとんど異形を倒すことができていない。


 最前線を張る異質な異形が強すぎる。

 とんでもない脚力で妖を吹き飛ばし、周囲にすら被害を与えるカシカモク。

 宙を飛び回りながら槍を振るうカカシヤ。

 地面すれすれを浮遊しながらすれ違いざまに腕を突き刺していく黒細。

 そしてその少し後ろで構えを取る継ぎ接ぎの少女、月芽。


 あの一団を何とかしなければならない、と妖たちは理解する。

 敵意をそちらに向けると、蛇髪が手を上げた。


「術返し」


 ズンッ、と肉体が重くなるのを感じる。

 この感覚を、妖たちは知っている。


「あいつ……! 巫女の力を……!」

「あの蛇を殺せ! あいつだけは絶対殺せ!」


 後続にいた妖たちが、その声を聞いて標的を見据える。

 巫女の力は妖にとって猛毒であり、身体能力はもちろん妖術、能力すらも弱体化させて来る厄介な存在だ。

 その力を振るうことができる蛇髪は、標的の的になる。


「弩、用意!」


 さらに後方で待機していた異形たちが、直刀を抜刀した旅籠の号令を聞いて弩を構える。

 狙うは戦闘が起こっている場所の更に奥……。

 妖連合軍の後続部隊。


「放て!!」


 一斉に矢が放たれる。

 前線を張ってくれている異形が多く、弩を扱う異形は少なかったがそこはツタマキや木樹が弩を多く持ち、矢を放った。

 後続で続いて来た妖たちは矢の雨を被る。

 軽傷で済んだ者もいれば急所に突き刺さったりと程度は様々だが、勢いは完全に削がれた。


 援護射撃は見事成功。

 だが前で戦っていた妖は、蛇髪に向かって突撃していく。


「……紡ぎ流異術」


 日本刀の切っ先から落ちた雫が地面に吸収された。


逆氷柱(さかつらら)


 日本刀の刃をヂャキッと反すと、地面から勢いよく飛び出した水が、接近してきた妖全員を貫いた。


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