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和風異世界いかがですか  作者: 真打
第四章 九つ山
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4.15.四山攻略


 六山を越え、五山の山頂より少し後ろに異形たちは陣を構えた。

 六山は五山よりも背が低いので、四山からは見ることができないはすだ。

 一つ目衆に見つかるなら、五山を越えた瞬間からとなる。


 なので五山を越えない所に、一度拠点を構える。

 拠点といっても荷車を置くだけなので、拠点というより休息の場所だ。

 テントもないので野ざらしである。


「ぜぇ……ぜぇ……」

「……旅籠様、大丈夫ですかの?」

「ぶっ続けで……山越えるとか……思わんじゃん……」


 異形たちが元気なのをいいことに、七山からここまでまともな休息はなかった。

 もちろん夜は寝るために待機するのだが、それ以外は全て移動に使った。

 こんな登山は二度とごめんである。


 だが異形たちは相変わらず元気で、そそくさと戦いの準備を始めていた。

 武器を調整したり、弩の矢を配ったりと、それぞれが分担して作業を行っている。

 ワタマリもその気配に気づいたのか、荷車から飛び降りて異形の肩に飛び乗った。

 もちろん私にも。


 ここに来るまでの間に、作戦は幾つか考えた。

 それぞれの妖を対処する術や、一つ目を探しだす術。

 あとは実戦するだけである。


「ここを越えてからが本番だ。気を引き締めろ」


 落水の言葉を聞いて異形たちが居住まいを正す。

 ざっ……と足を鳴らし、武器を握る拳に力を入れる。


 どうして皆そんなに疲れてないんですか……!


「……ていうか、私……何もしてないな」


 ぼそっと呟いた言葉だったが、それを聞いて異形たちに衝撃が走る。

 全員が大きく息を吸った。

 声を出せない異形は手に持っている武器を一度掲げて地面に叩きつける。


『『そんなことはございません!!』』

「うわびっくりしたぁ!? 大声出すなって!」


 ずいずいと近づいてきた異形たちが旅籠を取り囲む。

 あまりの急変ぶりにワタワタしていると、そこそこ強い口調で言葉を口にする。


「旅籠様が我らを立ち上がらせたのです! その功績たるや、今の我らでは到底及びませぬ!」

「左様! こうして衣服をくださった! 武器もくださった!」

「何より戦えることを教えてくださった!」

「私たち異形を友として見て頂いたのは初めてなのです! それがどれだけ偉大なことか!」

「ましてや名まで……。これは人間様である旅籠様にしか成せぬことにございますぞ」

「でさでさ! 旅籠様の為にあっしらはここにいるんでさ! 今更それを後悔してる奴なんておりゃんせんぜ! なぁ!」

「分かった! 分かったからやめてくれー!」


 ここまで慕われていることを言葉にされるとむず痒い。

 自分の発言に反省し、とりあえず彼らの暴走を止める。

 今後は自分を卑下するような言葉を口にするのは止めようと誓った。


 ワタマリたちが凄まじい勢いで音を喰らっている。

 それだけ大きな声だったようだ。

 これで分裂しなければいいのだが……。


 そんな心配をよそに、月芽が服を掴んで頬を膨らませる。


「旅籠様! もっと私たちを頼ってください! 私たちが旅籠様に返せる恩は、旅籠様を人間様の下へ送ることだけなのですから!」

「分かったって……。じゃあ……」


 コホン、と咳払いをする。

 こんなに慕われているのだから、ここから先は格好悪いところを見せてはならない。

 胸を張り、声を張る。


「妖が拠点とする、四山を攻略する! 頼むぞ皆!」

『『『『ロウッ!!』』』』


 短い掛け声で返事をした異形たちは、ぐるりと回って四山に体を向ける。

 ザッと地面を蹴ると同時に、進軍が開始された。



 ◆



 ぺしょぺしょ、という音のみが響く。

 ワタマリが周囲の音と気配をすべて喰らい、異形たちが安全に進軍できるように配慮する。

 どうやらワタマリも今までの戦いで進化しているらしく、意思疎通が若干できるようになったらしい。

 これに気付いたのは五山に入る手前のことだ。


 異形たちの動きに合わせて音を喰らっていた。

 それに目を付けたカカシヤが、月芽を通して教えてくれたのだ。

 実際に少しワタマリの反応を見てみると、動きで意思表示をしようとしてくれているのが分かった。

 これが分かったことにより、全員が同時に気配を完全に遮断できるようになった。


 だからだろうか。

 今は四山の麓に来ているが、敵がこちらを発見した様子はない。

 だが……こちらは一つ目を発見した。


 鱗に覆われた異形が弩を持ち、狙いを定めて引き金を抜く。

 この異形は比較的人間に近い姿をしており、何をさせるにしても器用だ。

 鱗のびっしり生えた大きな尻尾は魚の尾の様になっている。

 腕と脚は鳥の足の様だがそこにも鱗が生え揃い、遠距離武器を操るのに長けていた。


 攻撃を見事に命中させると、瞬時に再装填する。


「やるな、ゴノボリ」

「ポコッ……」


 落水が褒めると、泡を弾けさせたような音を骨の魚頭から零す。

 すると指を動かし、三ヵ所を指定した。


「そこに一つ目がいるのか」

「ポコッ」

「よし」


 落水はカカシヤと黒細を指名して『仕留めてこい』と指示を出す。

 それに頷いた二体はすぐに移動を開始した。


 ゴノボリは少し特殊な能力を持っているようで、遠くの地形を把握することができるらしい。

 距離には制限があるが、簡単にいえば蝙蝠のようなことができる。

 要するに超音波を使って周囲の状況を把握しているのだ。


 旅籠との長いやり取りで把握することができた能力は、この進軍に大いに役立っている。

 更にゴノボリが遠距離武器を使った攻撃が得意ということもあって、危険性のある敵はこちらが認識する前に倒してしまう。

 今この進軍で最も貢献しているのはこのゴノボリだろう。


 しばらくすると黒細が戻ってきたようだ。

 手についている血を払いながら、一つ目を引きずってきている。

 カカシヤもほぼ同じタイミングでこちらに合流した。


「ワタマリが居れば余裕でさね」

「カクカクッ」


 今のところは順調だ。

 ワタマリで気配を完全に殺しているので、一つ目の監視を全て搔い潜ることができている。

 このまま進んでいくことができれば奇襲を仕掛けられるだろう。


 だが、そう上手くはいかなかった。


 鈴の音が四山に鳴り響く。

 ぎょっとして驚いた異形たち。

 すると四山の木々が一斉に蠢き始めた。

 どうやら……妖たちがこちらの存在を認識し、移動を開始したようだ。


「ポココッ……!」


 ゴノボリが指をさす。

 そちらを見てみれば、四山の山頂に一つ目らしき妖が木の上に登ってこちらを見ていた。

 だが焦点は合っていない。

 どちらかといえば、先ほどカカシヤと黒細が倒した一つ目が居た場所に視線を向けている。


「なるほどな。監視役が殺される可能性を考慮して後方にも監視役を配置したか」

「ゲッ……。あっしら、ヘマしやしたか……?」

「カクッ……」

「相手の方が一枚上手だったな。ワタマリで気配を殺せるのは接触している者のみ。殺された一つ目を見て、あいつは鈴を鳴らした」

「罠でやしたかぁ……」


 恐らく手の目の策だろう。

 犠牲者を出す前提で敵の場所を把握するやり方に、落水は眉をひそめる。

 それだけ脅威と思われているのか、はたまた我が身が可愛いか。


 スッと日本刀に手を掛ける。

 ゴノボリが大慌てで前方を指さした。


「コポポポッ!」

「お前の索敵は優秀だな、ゴノボリ。あとで名を貰うといいぞ」


 大木の先にある木の葉が揺れ、草花が踏み荒らされて大地が揺れる。

 全戦力を投じてきた妖がこちらに向かっているのだ。

 ゴノボリが焦るのもよく分かる。


 これでは攻略どころの話ではなさそうだ。

 単純な力と力のぶつかり合いが始まる。


「手の目衆……。貴様らの知略には過去何度も苦戦を強いられた。だがそれは、人間を相手にしていたからだ。見下している異形を相手取るに、まともな策は必要ないといったところか?」


 落水が笑い、抜刀する。

 それに合わせて全員が武器を手に取り、迫り来るであろう妖に備えた。


「行くぞ月芽」

「はいっ! 兄様!」

「全軍」


 ビッと切っ先を敵へ向ける。

 未だ姿は見えないが、もうすぐ接敵するだろう。

 その前に……号令を出す。


「暴れろ」

『『『『ロウッ!!!!』』』』


 掛け声で大地が揺れ、継ぎ接ぎが伸びる。

 草むらから飛び出してきた妖を目視した瞬間、異形たち全員が踏み込んだ。


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