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和風異世界いかがですか  作者: 真打
第四章 九つ山
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4.12.八山


 九山を出て八山へ向かう。

 一つ一つの山は随分大きく広大だ。

 ほとんど人の手が入っていない自然林のため、歩いていくとなるとなかなか時間がかかる。

 木樹に進軍の邪魔になる大木の根っこを動かしてもらったり、武器を扱うことのできる異形に草花を刈って道を作ってもらったりと、助けてもらいながら山を上り下りした。


 谷や麓といった歩きやすい場所はないのか、と落水や黒細に聞いてみたが、ないと言われてしまった。

 他の妖に見つかる可能性が増えることを避けるのと、そもそも回り道をする理由がないとのこと。

 確かに他の妖に遭遇するのは避けたいところだ。

 更に麓に沿って歩くと二、三ヵ月移動にかかってしまうため直進すると説明された。

 そういえば前にそんなことを言われたことを思い出す。

 そんなに時間はかけたくないので、大人しくこのまま進むことにしよう。


 九山から八山までは四日かかった。

 登山がきついものだとは分かっていたが、これが続くとなると今後体がきつくなりそうだ。

 これで少しでも体が作られていればいいのだが。


 そして……異形たちは猫又衆の拠点を制圧してしまった。

 ほぼ蹂躙という形で、だ。

 妖術が使えなくなると猫又は非常に弱い妖であるらしく、異形の精鋭たちを先頭に猫又を壊滅させた。

 その戦いぶりは安定しており、危なげがなかったように思う。


「やっぱ皆強くない……? 落水さんほどじゃないけど……」

「俺は特殊だからな。基準にしない方がいい」


 数名の怪我人が蛇髪によって治療を施されている。

 すぐに回復するので、猫又の死体を集める作業に取り掛かっていった。

 少しくらい休んでもいいと思うが、彼らが率先してやってくれているのでなんだか休めとも言いにくい。


 そして今回活躍した異形は、やはり落水がスパルタ的に修行をさせていた五体だった。

 中でもカカシヤの動きはとても良かったと思う。

 一本の脚だけでよくあそこまで動けるものだ。

 槍を使って棒高跳びの様に飛び回って戦う姿は見ていてとても感動した。


 できれば名付けしてあげたいところだったが、未だにシュコンの言葉が尾を引いている。

 今回は敵も弱かったということで名付けはしない方向で片付けた。

 その代わり戦利品は多く分け与える。

 少し不安だったがそれでも彼らは喜んでくれた。


 とりあえずひと段落……。

 今日はここで休息したいが……。


「またしばらく滞在しますか?」

「異形共の体力次第だな。聞くまでもなさそうだが」

「元気ですからねぇ……。このまま七山に行けそうな気もします」


 異形たちはとにかくよく働いている。

 ここまで来てから休息を取らずに制圧に踏み切ったのだ。

 それだけの体力が彼らにはある。


 とはいえ私の体力が持ちません……。

 この中で唯一の普通の人間です。

 誰か運んでくれないかな。


 異形たちの様子を見ていると、落水が小さく唸る。

 なにか懸念していることがありそうだ。


「どうしました?」

「次の相手が、少々な」

「七山にいるのは手の目衆でしたよね」

「あいつらは弱い。その次だ」

「てなると六山の化け猫でしたっけ。変化を得意とするとの事でしたけど……。これは妖術とは違うんですよね」

「そうだな」


 ただ変化するだけだ、と付け加えた。

 ということは攻撃的な能力を持っているわけではないのだろう。

 そのため化け猫が得意としているのは……。


「奇襲と情報収集」

「忍者みたいなものですか」

「左様。故に一つ合言葉を作っておくといいだろう」

「ローでいいのでは?」

「ふむ、なるほど」


 これは今いる異形たちが意味をしっかり理解している。

 答えられなければそいつが偽物ということになるはずだ。

 この合言葉は今の内に共有しておいた方がいいだろう。


 早速月芽を呼び、この事を共有する様に頼んだ。

 彼女はすぐに動いてくれて、合言葉の答えを全員に伝えていく。


「そういえば見分ける方法とかないんですか?」

「会話の食い違いを見つけるほかあるまいな。奴らの変化は精巧だ。どれだけ潜んでいても不思議ではないぞ」

「面倒くさそうな相手ですねぇ……。蛇髪とか見分けられないんですかね」

「できるはずだが」

「できるんですかぁ!?」


 そういえば蛇髪の使う術返しは妖術を弾き返す。

 となれば変化だろうが何だろうが、妖の術であれば見抜くことができるらしい。

 しかしそうなると蛇髪に気を張り続けてもらうことになる。

 大丈夫だとは思うが……護衛は付けておいた方がよさそうだ。


 妖術を見分けたり弾き返したりすることができる蛇髪は、おそらく最も狙われやすい。

 なので異形の中でも強い者を護衛に当てたい。

 誰がいいか落水に聞いてみると、すぐに答えが出た。


「月芽だな」

「ですよねぇー」


 本当は落水でもいいのだが、軍事面を担当してくれているので、護衛の方に注力されてしまうと困る。

 彼自身護衛向きの性格ではないと理解しているらしいので、元より自分が護衛を担当することは考えていなかったらしい。


 ううん、任せられる異形が少ない……。

 これを増やすためには名付けが必要になりそうだ。

 あの五体に名付けすれば、任せられることも増えていくだろう。

 その分私が楽をすることができる。


 ……うん、次の活躍次第で名前をつけてあげた方がいいかな。

 人間の領地に近づいているから、私が元の世界に帰る日もそう遠くない。

 だったら私がいなくなっても戦える力をもってもらうため、名付けはした方がいいかも。

 これがやはり、自分ができる唯一のことだ。


 幸い九つ山の妖は弱体化している。

 帰路もこの九つ山を通るだろうし、異端村までは容易に帰ることができるだろう。


「名付けは何人でもできるんですよね」

「……そうだが、推奨はせぬ」

「大丈夫ですよ。私、どうせこの世界からいなくなりますから。あっ! 私がいなくなると弱体化するなんてありませんよね!?」

「案ずることはない。主亡くしても異形の力は健在だ」

「ならよかった!」


 懸念点が払拭されたので、さっそく名前を考えておく。

 漢字を宛がうか、名前を付けるか。

 力量差に関わってきそうなので、検証のために一体くらいは名前を付けてみたい。

 名前を付けると異術が使えるようになるのかどうか……。

 今から少し楽しみになってきた。


 積極的に名付けをしようと決めた旅籠の背中を見ていた落水は、不安そうに眉を潜めた。

 彼の中にいるシュコンは大層嬉しそうに手を叩いたのだった。

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