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和風異世界いかがですか  作者: 真打
第四章 九つ山
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4.11.Side-猫又-蹂躙


 九つ山の中でも八山は深い森に覆われており、大きな動物や妖は思うように身動きが取れないことが特徴だ。

 だがここに拠点を構える猫又は体が小さい個体が多い。

 四足歩行になれば誰でも簡単に身動きがとれる。

 深い森で足場が多くあり、跳躍力に長ける彼らにとってここはとても動きやすい地形だった。


 だがそれが崩壊していく。

 その発端は……ろくろ首が消息を絶ってからだった。


 人間によってろくろ首が殺された。

 秋の風はろくろ首に対抗できるほどの力を有していなかったはずだが、どうしたことか全滅にまで追いやられてしまったのだ。

 これによって九つ山を拠点にする妖は随分力を削がれた。


 その理由は何か。

 それを探るために猫又の中でも妖術を扱うのに長けた者が、一山に二体派遣された。


 しかし、更なる問題が発生する。

 この四日後……九つ山を束ねる山姥が、何者かによって討たれたのだ。

 そこでようやく気付いた。

 人間が強くなったり、何か奇策を考えてろくろ首を討ったのではない。

 異変が起きたのは人間ではなく、その反対側……。

 二口が拠点としている場所だったということに。


 猫又と二口の関係はそこまで深くない。

 そのため実力は拮抗していても、二口の恐怖が猫又に影響を与えることはなかったのだ。

 だから気付くのに時間がかかった。


 二口を御し、山姥すらも討つ何者かが後ろから迫ってきている。

 明らかに異常な存在。

 それを確認しに向かったのは、猫又を治める長と護衛二名だった。


 山姥の死を持って、九つ山の妖は全員力を削がれた。

 猫又の中で妖術を使えるものは長だけとなり、最も生存して戻って来ることができそうな彼が情報収集をしに向かう。

 だが……彼は終ぞ帰ってこなかった。


 留守を任された一体の猫又が、槍に突き刺さっている頭部を見て戦慄く。

 猫又の長は力がそがれてしまったのにも関わらず、妖術を使い続けることができた実力者。

 過去に人間と戦ったこともあり、当時最強格とも謂われて恐れられていた人間を相手に、勝利こそしなかったが生きて帰ってくることができた猫又だった。


 異形が高々と掲げる槍には、その長の頭が付いていた。


 そう、異形なのだ。

 二口を殺し、山姥さえも仕留め、猫又の長を殺したのはあの異形だった。

 圧倒的な力を持って彼らは猫又を蹂躙する。

 逃げる者は追われて串刺しにされ、戦う者は往なされて仕留められた。


 誰だ、異形が最弱などと言った奴は。

 そんな愚痴を吐き出したかったが、息も絶え絶えの状況で愚痴など零す余裕などない。

 妖術も使えなくなった今、肉弾戦で応戦している猫又のほとんどは、既に爪がなくなっていた。

 残っているのは牙くらいだ。


「ニャグルルルル……!」

「フシャー!」

「……」


 布で腕を八本に増やした異形が、日本刀を八本握ってこちらに近づいて来る。

 ローブの様な布を羽織っているが顔はない。

 布の異形はぶら下げた八本の鞘も使えるようで、実質腕は十六本ある。

 出鱈目な強さを前に、二匹の猫又は既にボロボロになっていた。


 鮮血が視界の中に映る。

 遠くで戦っていた猫又がまた一体仕留められた。

 小枝の様に細くか弱そうな腕であるのにも拘らず、それは肉体を貫通させる硬度を持つ。

 笠の下から覗く白い顔と、黒い口の笑みが悍ましい。


 案山子が飛び、黒いもじゃもじゃが投げ飛ばす。

 継ぎ接ぎが肉体を切り裂き、四足歩行の獣が蹴り飛ばす。

 木の根やツタが絡まって締めあげられ、多種多様な異形が暴れ回った。


(地獄か此処は……!)


 仲間が殺されているのを黙って見ているしかない自分がいる。

 だが、目の前の異形に勝てるビジョンが見えてこない。

 あの八本の日本刀をどのように躱し、懐に潜ればいいのか。

 折れた爪、使えない妖術で、どうすればこの異形に勝てるのだ。


 その瞬間、共に戦っていた猫又の体に継ぎ接ぎが伸びた。


「ニャッ!? お前っ……!」

「……!! すまん……!」


 バヂュッ……。

 縫合糸を無理やり引きちぎったかのようにして体が弾け、大量の血が宙を舞う。

 大地に広がる小さな赤い池が、生き残った猫又に絶望を与える。


 気付けば……異形の視線がすべてこちらに注がれていた。

 生き残りはもう……一匹だけらしい。


 立っているのもあほらしく思えてくる。

 膝をつくと、戦意を完全に失った。

 早く殺してくれ、と言わんばかりに首を下げる。


 ではお望みのままに。

 そんな言葉が聞こえたような気がした。

 ひょう、と空を切る音が聞こえたと思ったら、頭部に衝撃が走る。

 視界がグルグルと動き回って止まった。

 目だけ動かして様子を見てみれば、自分の肉体がゆっくりと倒れている最中だ。

 それに合わせて、猫又の意識もゆっくりと暗転した。


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