4.10.尋問
「なんにゃんだてめぇらあああ!!」
「……ええ……猫又のイメージが……」
木樹に縛り上げられた猫又が目を覚ましたまでは良かった。
だがその瞬間、凄まじい叫び声を上げながら暴れはじめたのだ。
もちろんがっしり縛っているので身動きは取れていないが……もぞもぞと動いている。
開放すればすぐにでもその辺を荒しそうな勢いだ。
それにしても、木樹の木を操る能力は凄まじい。
これは妖術に近いような気がするもで、もしかしたら異術ではないのかも。
でもあんまり気にしなくていいってシュコンは言ってたな……。
まぁ確かにそんなに気にすることではないか。
強ければよし!
感心するのもそこそこに、目の前の現実を向き合う。
これはどう対処するのが良いのだろうか。
「私としては情報を吐かせたいんだけど……。どうするのが良いと思う?」
「一般的なのは拷問でやすね」
「木樹にもっと縛り上げてもらえばよいのでは?」
「武器もあります故、手先足先その他もろもろ切り落とせば宜しいかと思いますじゃ」
「おん……」
それぞれが的確に痛めつけられる案を出していく。
君たちが妖怪嫌いなのすっかり忘れていたよ。
まぁ、そうなるよね。
とはいえ戦場を生きる妖怪……。
そんな程度では口は割らないだろう。
「カタカタ」
「……おん」
めっちゃ怖がっとるやんけ。
この感じなら脅しだけでも十分かもしれないな。
「てことで今から質問するぞ~。答えなかった場合異形たちの好きにさせるからなぁ」
「……」
「よーし」
震えながら頷いた猫又を確認し、適当に質問をしていくことにする。
「ここに来たのはどうしてだ?」
「やっ……山姥様が何者かに討たれたからにゃ! それが……まさか異形だとは……!」
「旅籠様、手を出す許可を」
「あっしも」
「お待ちなさい」
月芽がつま先を上げて足をすぐにでも鳴らす態勢を取り、黒細が鋭い細腕をピンと伸ばす。
近くにいる木樹や蛇髪も若干怒気を含んでいる。
少し刺激しただけでこれなのだ。
今後は猫又の丁寧な口の利き方を期待しよう。
もちろん、忠告はしないけど。
とりあえず、まだ一個しか質問できていないので異形たちを宥め、引き下がらせる。
渋々といった様子で下がった異形たちにほっとしつつ、再び猫又を見た。
「猫又って弱体化したの?」
「山姥様が何かに恐怖されたにゃ! 九つ山の妖は皆力を削がれたのにゃ!!」
「へぇ~」
「ろくろ首は人間に殺されるし! 山姥様もいなくなるし! 散々にゃ!」
「ちょっと待て、ろくろ首が人間に……?」
ぱっと後ろを見てみれば、異形たちが驚いた顔をしていた。
蛇髪は真剣な様子で考えこんでいる。
ろくろ首衆の話は少しだが落水から聞いた記憶がある。
確か九つ山の一山を拠点としている妖ではなかったか。
この辺の話は落水が詳しい。
月芽に彼を呼んできてもらうように頼んだ。
「ていうかお前らはなんにゃんだ!!」
「何ってなんだよ」
「お前! それにお前も! お前もお前も! おかしい奴ばっかニャ! 僕が知ってる異形じゃにゃいにゃ!!」
猫又は目線で旅籠や黒細、蛇髪といった異形たちを睨んだ。
今目の前にいる意味の分からない存在を見て、恐怖を越えて怒りが込み上げているらしい。
そのまま怒気を含んだまま叫び散らす。
「人間がにゃんで異形の味方をしているにゃ! 敵のはずにゃ! さっきの異形人も! お前ら異形も変にゃ!! にゃんで下等種族がこの猫又衆の力を意に介していないのにゃああああああ!!」
「おお! 皆喜べ! 妖がついに私たちの力を認めたぞ!」
「にゃああああん!?」
異形たちがどっと笑い出す。
心の底から楽しげに笑っているのではなく、猫又をあざけ笑っているような笑い声だ。
旅籠もそれに合わせて指を指しながら笑う。
猫又は悔しそうに歯を食いしばった。
だが猫又自身が異形の実力を認めるような発言をしてしまったのだ。
少なくとも今の異形は、猫又よりは格上である。
ひとしきり笑ったところで、落水が苦笑いしながらこちらにやって来た。
「む? ……フッ」
「……!!? ぎょっ!? え、にゃ……!? にゃぜ……!?」
縛り上げられている猫又を見ると、彼は鼻で笑った。
逆に猫又は怪物でも見たかのように真っ青な顔になり、言葉すらまともに発することができなくなっている。
「……? 落水さん、知り合い?」
「知らんな。おい猫又。人間がろくろ首を討ったそうだな。誠か?」
「……ほ、ほん、本当……にゃ……」
「冬か? 秋か?」
「秋……」
「ほう、秋の風か。巫女も居らぬによくぞまぁ。ふむ、となると二口を殺したのが効いたか」
落水の呟きに猫又が目を見開いた。
「二口……!? お前ら、二口を殺したのかにゃ!?」
「よほど恐怖を感じたらしいな。人間に、ろくろ首衆が殺されるとは」
「お、お前らぁ……!! 天邪鬼様が黙っていないにゃ! 絶対に異形共全員潰してくれる──にゃがっ!?」
木樹が操った木の根が猫又の頭を殴る。
流石に我慢の限界だったのだろう。
ギチギチという聞いたこともない音が木樹から鳴っている。
「木樹、暫し待て」
「ギュチチ……」
「猫又。他の妖も力が削がれたか」
「……猫又の……中でも……妖術を使えるのは……もう……僕だけしかいない……」
「僥倖」
ニッと笑った落水は、異形たちに手で合図する。
「木樹、縛ったままにしておけ。異形共。好きにしていいぞ」
その瞬間、全員が武器を抜いた。
多種多様な異形が武器を持ってゆっくりとこちらに歩み寄ってくる。
全員、恐怖させることができれば妖を弱体化できると知っているのだ。
だからこそあえてゆっくり、静かに、着実に近づいていく。
「!? は、話したにゃ! 全部話したにゃ!!」
「だからどうした」
「ぇ……」
「問いに答えたから逃がしてもらえる、とでも思うたか?」
猫又に絶望の表情が広がっていく。
カチカチと歯を打ち鳴らし、迫りくる異形に恐怖していた。
「考えが甘い。故に、死ぬのだ」
「……ら……らぁ……!! 落水ぃいいいいいい!!!! ──あぎゃああああああああああ────!!!!」
異形たちが四方八方を囲んでしまった為に、凄惨な現場を見ずに済んだ旅籠だったが、それでも目を反らした。
異形たちが好きに猫又を弄っているところで、落水が近づいてくる。
「これには慣れておけよ」
「……やっぱり知り合いだったんですね。あの猫又と」
「過去に一度対峙したことがあるだけだ。知り合いではない」
今一度関係性を否定した後、一つ息をつく。
腰に携えた日本刀の位置を整えた。
「九つ山にいる妖はほぼ同等の力を持ち、仲間の生死に敏感ですぐに力を失う。しかし格上の妖はそうではない」
「猫又が言っていた天邪鬼ですね?」
「上から数えた方が早いほどの力を持つ妖だ。格下の恐怖だけでは奴らの力は削げぬ」
同格同士でなければ、弱体化はしない。
では天邪鬼と同等の力を持つ妖は一体どんな妖なのか。
そこから倒しやすそうな存在を選抜して倒せば、天邪鬼は弱体化する。
「八大天狗、前鬼、後鬼」
「終わった」
「海坊主、大鯰、牛鬼、大百足」
「無理やん」
遠回りしても勝てるような相手ではなさそうだった。
こうなってくると戦うことすら避けたい。
これには落水も同意するように頷いた。
九つ山を制覇する実力を異形たちは有しているが、さすがに大物を相手取る実力は有していない。
今戦っている妖は比較的弱い存在なのだ。
これで調子に乗っていてはいけない。
それを再確認し、旅籠は頷く。
今は勝ち続きで自信も実力も付けている異形たちではあるが、何処かで必ず躓くはずだ。
まだ、その時ではない。
「では八山に向かうとするか」
「やっとですか。月芽の能力を使いますか?」
「……」
「はい、歩きましょう」
すっごい睨まれた。
戦闘時と緊急時だけにします。




