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和風異世界いかがですか  作者: 真打
第四章 九つ山
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4.9.八山からの偵察


 シュコンと夢の中で出会ってから三日が経った。

 私たちは相変わらず山姥が拠点にしていた小屋で休んでいる。


 異形の地、異端村を出発して一週間……。

 二口の城を制圧して九山までが三日。

 そしてここで過ごした時間が三日なので、移動を開始して十三日が経過していた。

 九つ山を横断するのには一ヶ月かかるとの事だったが、全ての山にいる妖を倒しながら行くことになったため、時間はもう少しかかってしまうかもしれない。

 それに九山で暫く滞在していたので、到着は確実に遅れてしまうだろう。


 さて、次の相手は八山にいる妖、猫又。

 よく聞いたことのある妖なのでどんな姿なのかは想像がつく。

 だが九つ山にいる妖の中で唯一妖術を使うことができるため、戦うにあたって相当注意が必要だ。


 シュコンに手伝ってもらったらすぐに倒せてしまうのだろうか……?

 そういえばどうやって入れ替わればいいのだろう。

 大事なことばかり聞いていない気がする。


「人間が異形の力を欲していたっての、めっちゃ気になるな……。今度会ったら聞いておこう」

「旅籠様~!」

「おっ」


 月芽の声が聞こえてきたので、小屋から出る。

 外に出てみれば、訓練中の異形たちが武器を手にして振り回していた。

 この三日間、異形たちがどれだけ強くなったのか検証していたのだ。

 私が起きた時には既に行われていたので驚いた。


 結論から言うと、全体的に能力が向上していた。

 基本的には身体能力だが、木樹やワタマリは能力が向上していたように思う。


 木樹は木工加工技術の向上。

 ワタマリは音と気配を食べられる量が増えていた。

 量が増えたことによって分裂の回数が大幅に減ったのだ。

 今までは数が増えて大変だったが、これで少しは楽になりそうだ。


 ……今までに増えた分は、どうにもならないが……。

 遠い目をしながら増殖してしまったワタマリから目を反らした。


「旅籠様! カシカモクが凄いんです!」

「あの鹿みたいな異形?」

「見てください!」


 興奮気味に指をさす方を見てみれば、カシカモクが落水を乗せている。

 鞍もなしによく乗れるな、と思いながら見ていると数十メートル跳躍した。


「ふぉあっ!?」


 驚いている間に重力に従って落下し、一体の異形目がけて落水が木の棒を振り下ろす。

 そこにいたのはカカシヤだ。

 案山子の異形で一本足。

 腕にだけは関節があり槍を持っている。


 ヴォンッと音を鳴らして振り抜く。

 落下してきたカシカモクと落水の攻撃を槍一本で捌き、自身の脚と槍を使ってテンテンッと後退した。

 脚が一本しかないので攻撃、防御は不利かに思われるが、それを槍でカバーしているらしい。

 なかなか考えたものだ。


 肩に巻かれている襟巻がはためき、細い枝の指を痛そうに振るう。

 先ほどの落水の攻撃で手が痺れたようだ。


「良いだろう」

「カラコロ……」


 槍を杖にして肩を落とす。

 酷く疲れたようでへたっと地面に座ってしまった。


 よく見れば他にも数名地面に転がっている異形がいる。

 ツタの異形ツタマキ、粘液質の異形タマエキ、何かよく分からん細長い毛むくじゃらのケムジャロ、あと黒細も倒れている。

 蛇髪に選抜されて強化合宿的なことを強制されている異形たちだ。

 唯一カシカモクだけは元気に跳ねまわっていた。

 動物の姿に近い異形だからか、体力は他の異形たちよりも多い様だ。


 いつ敵が来るかもわからないこの状況で修行しなければならないというのは……仕方がないことだがなんとも申し訳ない気分になる。

 だが最後は異端村に帰ってもらわなければならないのだ。

 そのために力は付けておいてもらいたい。


「どうですか旅籠様。カシカモク凄くないですか?」

「あんなに跳躍できるとはなぁ……。びっくりしたよ」

「何か成果を上げたら、名前を付けてあげてくださいね!」

「……う、うん。検討しておくね」


 確約を得た、と言わんばかりに喜んだ月芽は、軽い足取りで落水の所へと向かっていった。

 シュコンから正確な代償を聞いた後だと、なんだか名付けをしにくい。

 この代償は繋がりが切れた時に襲い掛かってくるのだから、戦いに身を投じている彼らに名付けすることこそが危険だ。

 しかし程度は変わるらしいので、それに自分が耐えられるかどうか、である。


「ん?」


 月芽が何かに反応した。

 タンッと足を鳴らして継ぎ接ぎを地面に伸ばし、偵察を行う。

 すると何かを発見したらしく、すぐに大きな声を出す。


「黒細! 猫又です!」

「あや!? 数は!」

「三!」

「合点!」


 月芽の言葉を聞いて、伸びていた黒細は飛び跳ねる様にして起き上がった。

 彼の足元に向かって伸びた継ぎ接ぎがぐばっと開く。

 躊躇なくそれに飛び込みむと、黒細の姿は地面の中に消えた。


 山姥が討たれて弱体化した猫又がここを偵察しに来た感じかな?

 三日間動きがなかったのは意外だったが、猫又の本拠地はここから結構離れているのかも。

 ていうか黒細だけに任せて大丈夫なのかな?


「猫又が来たんだよね? 黒細だけに任せて大丈夫?」

「強いですから大丈夫ですよ。見てみます?」

「……え、見られるの?」


 地面に伸びた継ぎ接ぎがグバリと開く。

 覗いてみれば黒細と猫又が戦っているところだった。

 どうやら空間を繋げることができるらしい……。


 やっぱこれ異術やんけ……。

 ワープ系の能力だね……。


 猫又というのは初めて見たが、姿は意外と大きい。

 着物を一着身に纏っており、二足歩行になったり四足歩行になったりと忙しなかった。

 よく見てみると、既に二体の猫又が肉体を両断されている。

 えっ怖……。


 三毛猫の猫又が二本ある尻尾を動かすと、背後に火の玉が出現する。

 指をさして移動先を指定するらしいが、移動速度が意外と遅い。

 黒細はそれを避けるまでもなく素手ではたき落した。

 硬質化した肉体は、簡単な炎では火傷すら負わないらしい。


 異形に勝てないと悟った猫又は、酷く驚いた顔の中に焦燥感も感じられた。

 今まで猫又は異形に接したことはあまりないが、最弱として君臨しているはずの存在に自分のもてるすべての技が往なされる。

 すると納得できない、という顔に変わった。

 眉間にしわを寄せ、牙をむき出して唸る。


 鋭い爪を出し、そこに火の玉を宿す。

 猫らしい動きで急激に接近したが、黒細も浮遊しているため移動速度が速い。

 まるで早送りしているかのようだ。


 鋭い爪が黒細に襲い掛かる。

 彼はそれを片手で受け止め、もう片方の細腕で猫又の首を思い切り叩きつけた。

 完全なカウンター攻撃。

 見事に決まったそれは、猫又の意識を刈り取った。


 首根っこを掴んで持ち上げると、こちらに向かって黒細が手を振る。

 どうやら私たちが見ていたのが分かったようだ。

 すぐに継ぎ接ぎが開き、こちらに戻ってくる。


「いやはや、弱かったでさねぇ!」

「妖ってそんなに強くないのかもしれないですね」


 私から見ても、確かに全然苦戦していなかった。

 山姥が倒されて弱体化しているかも、という話ではあったが……ここまで変わるものなのか?

 まぁ異形たちが強いことは良いことだが。


 黒細が回収してきた猫又を木樹が手早く縛り上げる。

 火の玉を出されるかもしれないが……これだけの敵を前にすれば抵抗の意思もなくなるだろう。

 とりあえず適当に監視を付けておくことにする。


 だが、ちょっと待ってほしい。


「あのー。月芽?」

「はい?」

「その、継ぎ接ぎって……本人以外も移動できるの?」

「できますよ」

「それ使って今度から移動しようか!?」

「……! そうですね!」


 これが使えるなら、もう急ぐ必要はないかもな!

 ワープみたいなことができるわけだし、これからめっちゃ重宝するかも。

 月芽の異術は強いし便利だ。

 なにか一つくらいデメリットがあってもいいくらいの代物だが……なさそうなのも凄い。

 またシュコンに会ったら月芽の異術に関して聞いておくことにする。


 とはいえ今後のために九つ山の妖怪は倒さなければならない。

 どこでエンカウントするかもわからないので、やはり徒歩での登山は避けられなさそうだ。

 ……辛い……。


 さて……この猫又が目を覚ますまで少し待つかな。


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