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和風異世界いかがですか  作者: 真打
第四章 九つ山
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4.7.仮拠点


 それから私たちは黒細の案内に従って、山姥が住んでいたであろう拠点へと向かった。

 九山は大きく、そこに辿り着く頃には日が暮れてしまい、私は既にヘロヘロである……。

 なんで皆そんな元気なの……。


 山頂より少し手前。

 木々を伐採して敷地を確保した土地に、少し大きめの小屋が建っていた。

 妖は建造物を構築する術を持たないはずなので、これも過去にこの場所を拠点としていた人間が使用していた小屋なのだろう。


 茅葺の屋根には苔や植物が生えており、年季を感じさせる。

 柱なども意外としっかりしていて、あと数十年は倒壊しないだろう。

 腐りや朽ちなどもなく、よく手入れされているということが分かった。


 中に入ってみれば意外と普通な部屋だ。

 畳ではなく板で床が作られており寒そうではあるが、その代わり布団や座布団などが敷かれていた。

 この辺はずいぶん汚れてしまっている。

 使うのを躊躇するほどだ。


 調理道具なども長い間使われていない。

 包丁は錆びており、鍋にも土が入ったりと散々な有様だ。

 この道具を再び使えるようにするのは骨が折れるので、揃え直した方が早そうだった。

 いや使う予定はないのだけども。


 異形たちが小屋の周りに腰を下ろし、その辺の苔を食べる。

 一時の休息を楽しむらしく、各々が好きに動いていた。


「はぁー……。寝られる場所はあるけど……布団がないなぁ……」

「キュキュ」

「ワタマリがいたなぁ~」


 増えたワタマリは早速小屋の屋根裏に上がって行ってしまった。

 どうやら彼らは暗い場所を好む様だ。

 夜になればまた下りてきてくれるだろう。


 すると小屋の中に月芽が入って来た。

 見つけるや否や近づいて報告をする。


「旅籠様、周囲を見てきました」

「あれ、月芽が?」

「えへへ、私の力であれば簡単ですよ」


 おもむろに手を広げると、そこには継ぎ接ぎがあった。

 だがすぐに目が開き、きょろきょろと注意を見渡す。

 どうやらツギメの時の能力は未だ健在のようだ。


「あ、そっか。継ぎ接ぎを地面に広げられるから、目だけ移動させられるのか」

「はい!」

「肉体の一部も移動させられるんだなぁ」

「私は目を三つ持っているんです。前は一つでしたけど」

「へぇ~! 継ぎ接ぎ専用で一つあるのか!」


 これが、月芽が短い時間で周囲を確認してきたカラクリである。

 なるほど、それであれば納得だ。


 月芽が確認してみたところ、この場所が山頂に近いということもあって、敵は山を登ってこなければならない。

 鳴り子の設置場所も把握した為、鳴るとどこから敵が来たのかもわかるとのこと。

 森はあまり手が入っていないので視界は悪い。

 山頂から敵の姿を目視するのは難しいとのことだった。


「まぁあんな道中だったからなぁ……」

「見張りを用意しておく必要があります。空蜘蛛と黒細はこういったことを得意としていますが、どうされますか?」

「得意な奴に任せるのが一番だよね。二人に説明して、他に仲間が必要だったら連れてっていいよって伝えてくれる?」

「承知しました」


 ぺこりと頭を下げて小屋を後にする。

 とりあえずあとは異形たちに任せよう。


 私は……慣れない山登りで疲れてしまった……。

 草履と羽織を脱いで床間にゴロンと転がると、一気に睡魔が襲い掛かる。

 ワタマリがいつの間にか集まってきており、一匹を抱き寄せると寝落ちてしまった。


 ひょこっと顔を覗かせた蛇髪が、旅籠が寝ていることに気付いて静かに扉を閉める。

 近場にいた異形たちに『静かにするよう』に指で伝えたあと、落水に近づく。


「落水様、猫又はどうされますかの? 妖術を使うとの事でしたが」

「山姥は仕留めた。奴ら、妖術を使えぬやもしれぬ」

「それ程までに山姥は強い力を?」

「それでも下級ではあるがな。次の敵は下級の下級。ならば問題なかろう」


 山姥を下級の妖と口にした落水に、蛇髪はクスリと笑った。

 そんなことが言えるのは人間でもそうそう居ない。


 しかし山姥が仕留められたことで他の妖の力は削がれているはず。

 妖を討つことのできる落水や布房であれば、猫又にも圧勝できるかもしれない。


「今、旅籠は寝ているのだったな」

「ですじゃ」

「したらば、他の異形の力を確かめるか」

「よいですな。では集めてきましょうぞ」


 市女笠をつまんで会釈した後、武器を使うことができそうな異形たちを重点的に集めていく。

 異形独特の異能も把握したいが、本人ですら分かっていないことが多いのでこれは後回しにした。

 そして集められたのは異形たち五体。

 三体は比較的人の姿に近く、一体はスライムのような姿をしており、動物の姿に近い異形がもう一匹。


「これだけか?」

「ワシが見る限り……この者共が最も良い変化をもたらしてくれるかと」

「先見の明、か」


 蛇髪が見た限り、他の異形はある程度強化されているようではあったが、布房ほどではない。

 名付けされれば変わるだろうが、そうでなくとも強い力を秘めていそうだと感じたのはこの五体である。


 一体目はカカシヤ。

 案山子の異形であり一本の木でできた脚だけで飛びながら移動する。

 頭はなく腕だけにはなぜか関節があり、彼は槍を手に持っていた。


 ツタマキ。

 蔦の異形で、木樹の姿に似ているが色と太さが違う。

 最も違うところは数十本のツタの脚を使って移動することだろうか。

 木樹とは違い二足歩行ではない。


 タマエキ。

 液状の異形で、姿を自在に変えることができる。

 体内には多くの武器を隠し持っているようではあるが、青い半透明の色をしているので何を所持しているかよく分かった。


 ケムジャロ。

 こげ茶の毛に覆われた細長い棒の姿をしている異形。

 アイスバーの形によく似ているが、細い腕にごつい手がぶら下がっており、脚はなく黒い靄が広がっていた。

 スライドする様に移動する。

 

 カシカモク。

 四つ足の鹿の姿に近い異形で、口は狼の様にグバリと開く。

 皮膚は薄い木材か何かでできているようだが、柔軟性は高い。

 関節の隙間や割れ目から蠢く内臓が見え隠れしている。


 計五体の異形が横に並んでいる。

 落水しばらくそれぞれの姿を見ていたが、すぐに踵を返して丁度良く落ちていた木の枝を拾った。

 それを異形たちに向ける。


「一人ずつかかってこい」


 至極簡単な実力を測る方法を持ってして、落水は様子を見ることにしたのだった。


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