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和風異世界いかがですか  作者: 真打
第三章 友達を追いかけて
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3.6.巫女


「み、巫女……?」

「妖に対抗しうる術を持った者のことだ。その力が雪野殿にはある。説明しよう」


 急に力が入り始めた萩野は、居住まいを正し直して茶をすする。

 空になってしまったそれを机の端に寄せた。


「人間は鬼、獄門の勢力と同盟を結んでいる。敵対しているのは妖と異形。この世で最も強い力を持つのは妖で、奴らは妖術を使う」

「妖術……」

「その妖術に対抗する術を持つのは人間の巫女のみ。妖の妖術を巫女の力で無力化し、武を得意とする者が討つ。最も理想的な形がそれであり、妖を討つに巫女の力は必須。だが力のある巫女はここにはいない」


 最後だけは肩を竦めながら不甲斐なさそうに呟いた。

 彼らにも何かしらの事情があるようだ。


 だが二人は今し方、巫女の有用性を教えてもらった。

 萩間が動揺するほどに驚いたのであれば、雪野の巫女としての力は普通のそれを逸脱したものになる。

 それゆえに……。


「雪野殿の今の立場は、危ない」

「え……」

「旅籠殿を救うためにこの場に居たいのであれば、早急に立場を決めねばならん。もしそれを怠り、雪野殿の巫女としての力が大いにあると知られれば、狙ってくる者は数知れん」

「そ、それって立場だけでどうこうなるんですか……!?」

「私であれば何とかなる。だが雪野殿の承諾が必要だ」


 一度咳払いをする。

 萩間としては彼らのやりたいことをさせてやりたい。

 だが、それが難しくなる可能性が出てきた。


「ちょ、ちょっと待ってください! 雪野が狙われる理由って……力のある巫女が少ない事になにか関係が……?」

「……話しておくか」


 本来巫女とは、修行を積んでようやく力の使い方を覚えるもの。

 しかし巫女の力を判別するときに使用される特別な木、四季松(しきまつ)の枝が金色に見えたのであれば話が変わる。

 力の使い方も、教えればすぐに扱えるほどの才を持っている表れなのだ。

 これを知ってみすみす逃す御門や城主ではない。


 皆そうではあるが、我が身が可愛いのだ。

 御門や城主は力のある巫女を側に置き、妖からの脅威を完膚なきまでに封殺している。

 力が比較的低い巫女は、前線や村の守りに付けられることが多い。

 だが強大な力を持つ妖の妖術にはあまり効力を発揮しない。

 これを補うため、武を学びし者が強くなっているのが現状だ。


 悪い事ではないが、このせいで戦局は大きく動いていない。

 現状維持が続いたままなのだ。


「戦いには巫女が必要なのに……派遣が制限されてる……」


 早瀬の言葉に萩間は肩を竦めた。

 彼も同じ事を思っている様だ。


「恥ずかしい話ではあるがな。妖は脅威なのだ。臆病になるのも分からんではない」

「……それで、萩間さん。解決策ってなんですか? 萩間さんであれば何とかなるんですよね?」

「雪野殿。お主には二つ道がある」


 萩間は一つ指を立てた。


「戦場に赴くことなく旅籠殿を調べるため、代果の城主に近づき条件を突き付ける。巫女の力を貸すので旅籠殿を探すのを協力させることだ」


 最も安全であり、兵士を動かすこともできる方法。

 だがこの条件を飲むか否かは不確定だし、条件を飲んだとしても実行してくれるか分からない。

 雪野の身の安全を最大限確保するのであれば、これが最も良い案であることは間違いない。


 だが雪野は首を横に振った。


「旅籠さんを探すのって、萩間さんでも難しいって思ってましたよね。代果の城主さんが形だけの捜査を取る可能性もありますので、それは嫌です。それに一緒に帰れなくなりそうなので、それも込みで嫌です」

「……雪野……」


 萩間は何も言わずにコクリと頷いた。

 彼女の言っていることは間違っていない。

 確かに雪野を手中に入れるために条件を飲んだとしても、こんな難しい調査を真面目に行うとは思えなかった。


 であれば、もう道は一つのみ。

 萩間は一つ指を立てた。


「……では、私の専属巫女となり前線に赴くか、だな」

「それでお願いします」


 迷いのない言葉に、止めようとしていた早瀬も口を閉じる。

 彼女の目はまっすぐで美しい。

 友人を救いたい一心でここに居る雪野の判断を、萩間は尊重した。


「では私も久しぶりに重い腰を上げるとするか……。はは、隠居生活が二年で終わりとはなぁ」

「そ、そういえば……。萩間さんって何者なんですか?」

「俺も気になってました。権力を持っていそうっていうのはこの家を見てもなんとなく分かりますけど……」

「ふむ、そうだな」


 湯呑に手を伸ばしたが空だということを思い出して手を引っ込める。


「この城の兵力は多く、それぞれに武将が付く。己の季節に合う時期に前線へ赴くのだ」

「己の季節?」

「この世の人間は季節によって調子が変わる。強くなる者も多いな。春に調子が変わる者は春の風と呼ばれ、夏であれば夏の風、秋ならば秋の風、冬であれば冬の風と言ったようにな。今は秋。故に秋の風の者共が前線を張っている」


 人間の戦力は大きく分けて四つあるということらしい。

 自分の季節になると力が増したり、足が速くなったりとそこまで大きな変化はないが身体能力が多少上昇する。

 身体能力が上昇する季節になった者たちが、妖と戦っている最前線に赴くとのこと。


「風共を束ねその筆頭を務める者は“颪”と呼ばれる」


 萩間は立ち上がり、置いていた日本刀を腰に差し直す。


「私は秋の風を束ねてきた筆頭。元秋の颪、萩間古緑だ」


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