表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
和風異世界いかがですか  作者: 真打
第三章 友達を追いかけて
38/179

3.3.鳥居前


 冷たい風が露出している肌を撫でた。

 思わず身震いをして布団を手繰り寄せようとするが、それはどこにもない。

 何故だ、と思いつつ薄く目を開けて確認してみれば……そこは外だった。


 ぼんやりとした頭で状況を把握する。

 ここは綺麗に整えられた石畳であり、落ち葉や小枝などが散らばっていた。

 手入れはされているようだが、今日は清掃が行われていないようだ。


「……!」


 早瀬は跳ねるようにして飛び起きた。

 一気に覚醒した頭で今一度周囲の状況を確かめる。


 ここは神社だ。

 長く続く階段は軽く見積もっても百段はありそうなほどで、階段の左右には一定間隔で石灯篭が並んでいる。

 空を見上げれば昼時らしく、真上に太陽が昇っていた。


 後ろを振り返ってみれば巨大な神社がある。

 唐破風がその厳格さと格式の高さを示し、太いしめ縄が拝殿の前に飾られていた。

 目の前にある鳥居には『富表神社』と書かれた札が飾られていた。


「富表……? 富ノ裏神社と何か関係があるのか……? ……雪野……。雪野!? おいどこだ!?」


 あの時、二人は一緒に穴の中へと落ちていった。

 雪野を守るためにしっかりと抱えていたはずだが、今この場に彼女の姿がない。

 焦りながらも周囲を見渡して探してみれば、神社に続く長い階段の踊り場に倒れている雪野を発見する。

 大急ぎで駆け寄り、安否を確認した。


「おい、起きろ! 大丈夫か!?」

「……ううん……」

「っし……! よかったぁ……」


 目をこすりながら起きてくれたことに心底安堵しながら、手を貸して立たせてやる。

 雪野も周囲の状況を見て少し困惑しているらしく、まだ手が震えていた。

 あの恐ろしい存在を見た後なのだ。

 彼女の性格からして、こうなってしまうのも無理はない。


「こ、ここは……」

「あの化け物が言っていた和風異世界ってところだろうな……。あとあの神社、富表神社っていうらしい」

「富表……? えと、じゃあここって……裏世界なの?」

「ううん、そこは分からないな……」


 表と裏。

 確かに関係性がありそうではあるが、詳細はさすがに分からない。

 だが元居た世界と違う場所に来たことは確かだろう。


 しかし幸いなことに、元居た日本の形式とほぼ同じ造りの神社だ。

 文化はそこまで変わらない可能性が高い。

 これであれば馴染むことは容易だろう。


 だが目的だけは果たさなければならない。

 元の世界に帰る方法は恐らくあるだろう。

 あの化け物がそれとなく口にしていたことを、早瀬は思い出す。


『君たち、すぐに帰る?』


 これだけで元の世界に戻る方法があるということは確定している。

 詳しい話は現地の人に聞かなければならないだろうが……。

 ここは神社だ。

 鳥居をくぐって中にいる人に話を聞けばいい。


 そう思って階段を登ろうとしたところで、足音が聞こえてきた。

 カタンカタンと鳴る下駄の音。

 見やれば一人の男が階段を上がって来ていた。


 深い茶色の色合いをした羽織、藍色の袴。

 よく時代劇で見るような渋い色合いだが、良く似合っている。

 腰には一振りの日本刀と、一振りの小太刀が帯刀されており。二人はそれを見てぎょっとする。


 年齢は六十か七十くらいだろうか。

 年齢の割には長い髪の毛を掻き上げており、少しぼさいている。

 皺が刻み込まれた細い顔は威厳があるが、朗らかさも携えていた。


 老人がジロとこちらを見る。

 一瞬だけ目を見張るが、すぐに目を細めた。


「……渡り者か?」


 ガラの混じった硬い声。

 少し喉を悪くしているようだ。

 彼は足を速めてこちらに近づいて来た。


「……すこしいいか」

「え、と……」

「こんにちは」


 老人は優しく声をかけてきてくれた。

 これに早瀬が受け答えをする。


「あのすいません、聞きたいことがあるんですけど……」

「お主ら、別の世から来たな?」


 心配する様にそう聞いて来た。

 どうやら彼らからすれば、こうした異世界人が来るのは珍しい事ではないらしい。

 この問いにはコクリと頷く。


 すると老人は、富表神社の鳥居を指さした。


「帰れ」

「……えっ」

「鳥居をくぐれば元の世に戻ることができる。早々に立ち去るといい」


 早瀬は首を横に振った。

 雪野も同じように首を横に振る。


 ここまでやって来て、旅籠を見つけずに帰るなどありえないことだ。

 なにも見つけられずに、何もできずに帰りたくない。

 戻ったらまた忘れてしまう。

 それだけは絶対に嫌だった。


 老人は言うことを聞かない子供を困ったように見る。

 一つ嘆息して口を開いた。


「この世は、お主らが思う程よい地ではない。この地に降りて来る渡り者は、何の自信があるのか知らぬが、何でもかんでもやっていけると勘違いをする。この地で楽しくやっていけるとは思わぬことだ。そのような理想は捨てて……」

「そんなものの為に俺たちはここに来たんじゃない!!」


 長ったらしい説教なんて御免だった。

 少し言葉が強かったことを後悔したが、これが良かったらしく老人がこちらに向ける目つきが変わる。

 数拍を置いて、老人が口を開いた。


「……何か、事情があるようだな」


 老人はゆっくりとした動作で腰から日本刀を鞘ごと抜き、階段に腰かけた。

 どうやら話を聞いてくれるらしい。

 二人にも座る様にと促した。


 やはり階段は冷たい。

 冷たい感触が伝わってくる。


「お主らは何ゆえここに来た」

「「友達を探すために」」

「……そういうことか……」


 間髪入れずに、二人は口を揃えて答えた。

 見つけるまでは帰らないという意志がありありと伝わってくる。


 覚悟の籠った目を見せられてしまえば、老人としても無理に帰すことはしたくないらしい。

 とはいえ難しい顔のままだ。

 どうしたものか、と悩んでいるようである。


「本来であれば帰すべきなのだが……。ふむ、では私の話を聞け。それから今一度考えよ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ