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和風異世界いかがですか  作者: 真打
第二章 二口の城攻略
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2.10.名付け


 他の異形たちには武器の収集と、今後使えそうになりそうな物を集めに行ってもらっている最中、私はツギメとクロボソ、ジャハツを呼び出した。

 落水が見届け人の様に横に立っている。


 彼から伝えられた提案を三人に説明した。

 するとジャハツは心底驚いていたが、ツギメとクロボソは小首を傾げる。

 あまりこの名付けの意味が理解できていないようだ。


「おお……! 人間様から直々に……!」

「これにはどのような意味が?」

「あっしもよく知らんでさ」

「ふむ、では説明しておこうかのぉ」


 トントンと腰を叩きながら体を二人に向ける。

 ジャハツは口にする言葉を頭の中で整理したのち、口を開く。


「古い言い伝えがある。ワシが生まれた更に昔の婆様から聞いた話じゃ」

「よく覚えてますね……」

「昔の栄光……。婆様はよくそう口にし、嘆いておった。話を聞くに古くからワシら異形は人間との主従関係にあったと」

「「へぇ!」」


 へぇ、そうなんだ。

 どうやら落水が言っていたことは間違っていないようだ。


「その儀式が名付けだとか」

「「へぇーーーー!」」

「ええええええ!?」


 おい待て知らねぇって!!

 おいこら落水こっち向けこの野郎!!

 知らなかったんだな!?

 お前も知らなかったんだな!!?

 裏くらい取って置けよ文献なんてそこまで正確じゃないことが多いんだからよぉ!!

 だーれが現実の話を事細かく記すんだ!?


 胸の内で苛立ちを言葉にしていると、隣から期待の眼差しでこちらを見て来る三人がいる。

 もう逃げられそうにない……。

 だがやるということは決めていたので、少し納得はしていないが名付けを決行する。


 落水に呆れながらため息を吐く。

 とりあえず一つだけ確認する。


「漢字を宛がうだけでいい、って聞いたんだけど……」

「そうですな。それだけでも構いませぬぞ」

「じゃあジャハツから。漢字はこれかなぁ」


 地面にがりがりと漢字を書いてやる。


 『蛇髪』

 そのまんまだが、漢字を宛がうだけならこれになる。

 髪の生えた蛇人間。


「これで、蛇髪(じゃはつ)と読むのですかな?」

「うん、そうだよ。色々貢献してくれたからね」

「ありがたく……」


 蛇髪は大切そうに地面に書かれた漢字を見つめ続け、脳裏に焼き付けている。

 しばらくはそのままにしておいてあげよう。

 私は次にクロボソを見る。


「次はクロボソね」

「待ってやした!!」

「クロボソはこれ」


 地面に書いたのは『黒細』という文字。

 これも結構そのままではあるが、私は呼び名が変わらないので気に入っている。

 それに、黒細はこの文字に似合った姿もしているし。


 そう思って黒細を見た。

 なんか白くなってる。


「……?」

「え……?」

「どうしたでやすか?」


 私とツギメは硬直していた。

 落水も目を見開いて驚いている。


 黒細の体が、真っ黒から真っ白へと変わり、口の色が白から黒に反転していた。

 体格も少し大きくなっているような気がする。

 本人にはその自覚がないらしく、頭にかぶっている傘を針のように細い手で持って首を傾げた。


「「ええええええ!?」」

「ええっ!? やや、なんでやすか!? なんなんでさ!?」

「か、体! 体だよ体! なんか白くなってるけど!?」

「白? あっしの色はく……白い!!!?」


 何がどうなっているのか分からない。

 落水を見てみるが、彼の表情からしてこの現象も知ってはいなさそうだ。


 急に変色してしまった黒細を心配して、私とツギメは側に寄る。

 ぺたぺたと触ってみるが、彼自身に異常はなさそうだった。


「え、本当に大丈夫!? 大丈夫なの!?」

「どこも痛くないですか!?」

「あ、あ、あっしゃなんもありゃんせんけど……!? と、いうより……むしろ調子がいいような……」


 変色した腕を空にかざしながら見つめる。

 指がパキパキと音を立てた。

 時々硬い音も混じっているようだ。


「硬くなってる……」

「不安そうじゃの」

「蛇髪様。そりゃこんなことが急に起ればあっしも驚きや──」

「──え」


 知らない蛇がいる。

 背はまっすぐに伸び、髪の毛もサラサラで、鱗のひび割れもまったくない美しい白い蛇人間がクスクスと笑っていた。

 声も若干若くなっているようだ。


 だがあの喋り方はよく知っている。

 そしてここに居た、しわがれた蛇人間がいない。

 と、いうことは……。


「「蛇髪さまぁ!!?」」

「五百年は若返った気分じゃのぉ。いやはや、旅籠様には感謝が尽きませぬ」

「やべぇ理解が追い付かねぇ」


 思わず頭を抱えてしまう。

 何がどうなっているのかさっぱりだ。

 漢字を宛がっただけでここまで変貌する異形とは一体何なのだろう。


 このままいくと、ツギメにも名前を与えることになるのだが……。

 なんだか不安になって来た。


 助けを求める様に落水を見るが、必死で平静を装っているということが分かった。

 体から零れる水の量が増えている。

 意外と分かりやすい。


 いや面白がっている場合じゃない。


「ちょ、ごめん蛇髪、ちょっと教えて?」

「知らないのも無理はありませぬな。名を与えられた異形は、人間様の力の影響を大きく受け継ぐのです」

「私にそんな力ないけど!?」

「内に秘める力ですな。知らぬ力だとしてもおかしい話ではございませぬ」


 落水が従属に秀でているって言ってたのはこれかぁ……!

 確かにこれだったら真価を発揮する……。

 というより、進化を促すようなものか。

 ようやく合点がいった。


 強くなるのであればそれに越したことはないが……進化したばかりでは分からないことも多そうだ。

 事実、私もよく理解していない。


 とはいえ、確かに名付けをしただけでは私に変化はない。

 異形たちには大きな変化が訪れたが、どれも良い方向のものだ。

 私は最後に残っているツギメに体を向ける。


「ツギメには名前を付けてあげよう」

「え、本当ですか!?」

「なんだかんだ一番世話になってたからなぁ……」


 すると、後方から鋭い視線が突き刺さる。

 そこには落水がいるはずだが……なぜ怒っているのだろうか?

 私は極力気にしない素振りをして、名前を付けてやった。


「ツギメは、月芽(つきめ)


 地面に漢字を書く。

 後ろからの鋭い視線が霧散した。


 振り向いてみると、また驚いた顔をしている。

 今度は他の人に一瞬で動揺を悟られてしまう程のものだ。

 彼があそこまで驚きを表に出すのは初めて見た。


 次に月芽を見てみると……やはり姿が変わっていた。

 大きな変化は目元だけ。

 今までは継ぎ接ぎしかなく、瞳は何処かに行ってしまっていたが、今は可愛らしいくりくりとした瞳があるべき場所にあった。

 瞳は大きく、その中には黄色い三日月が浮かんでいる。


 心なしか体につやが出たような気がした。

 触れれば柔らかそうな頬がある。

 肌の色も少し白っぽくなり、年相応の可愛らしい女の子といった容姿に変貌した。

 残念ながら継ぎ接ぎだけは多く残ってしまっているが、それでも十分可愛らしい。


「わ、わぁ……! 目! 目があります! も、もしかしてもっと人間様に近づけました!?」

「ありゃぁ~! 可愛らしくなりやしたねぇ! 人間様となんも変わらんじゃないですか!」

「す、すごい……! もう人と見分けつかないよ!」

「本当ですか!? うわーい!」


 月芽は両手を上げて喜んだ。

 ここまで人間らしくなるとは思っていなかったが……。

 喜んでもらえてなによりだ。


 女の子に濁音は入れたくなかったので、それを取り除いて漢字を宛がった。

 自分でもいい名前になったと思っている。


 すると月芽は落水に振り向いた。


「兄様! どうですか!?」

「「「兄様?」」」

「……? あれ?」


 ふいに出た言葉に、月芽はもちろん私を含む全員が首を傾げる。

 一体誰のことを言っているのだろう、と思っていたが、月芽の視線の先には落水がいた。

 彼から滴り落ちる水の量が増える。


 ……え?


「……月芽、思い出すな」

「え……なにをですか……?」

「……」


 心底安堵した様子で、落水は息を吐く。

 彼はこちらに視線を向ける。


「教えておこう。月芽は、俺の妹だ」

「……てことは……月芽は……異形人ってことでやすか?」

「そうだ」


 一拍遅れて、落水以外の全員が驚きを言葉にして叫ぶ。

 遠くで作業していた異形が、首を傾げて山頂を見上げた。


これにて第二章は完結となります。

この話数が公開されている時、私は11章をガリガリ書いておりますが未だ完結が見えません。

ワロチです()

転小龍と同じく年単位で時間がかかると思いますんで、マジで気長にお楽しみください。

二日に一回投稿は、忘れなければ続けられるんで……よしなに。

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