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和風異世界いかがですか  作者: 真打
第二章 二口の城攻略
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2.3.Side-二口-許さない


 木材を木っ端みじんにする炸裂音が響き渡る。

 大地が唸る程の踏み込みの強さから繰り出された拳は、ほっ建て小屋を粉砕するには十分すぎる力を有していた。


 がらがらと崩れていく瓦。

 傾いた家屋を支えることができなくなった支柱が折れて大きな音が鳴る。

 土煙を撒きながら倒壊した小屋は、基礎に使用されていた石材だけを残して見るも無残な姿に成り果てた。


「くそったれがぁ!!」


 未だに収まり切らない怒りを、言葉にして発散する。

 だがその程度では到底収まらない。

 今すぐにでも奴らの目の前に赴き、その肉体を仲間の前で引き裂き、次はお前だと言って握りつぶしながら歩き回らなければ気が済まなかった。


 二口の仲間が死んだ。

 部下が死んだ。

 あの最弱の異形共に殺されてしまったのだ。


 これが他の妖に知られてしまえばどうなる?

 異形よりも弱い存在として淘汰されるのは目に見えている。

 今までぎりぎりの水面下で生き永らえてきた二口にとって、この事件は大きすぎるものであった。


 今まで苦労して築き上げてきた地位が、失墜する。

 異形に敗北する二口の力などあってもなくても同じだ、と人間と戦うための戦力として投入される。

 そうなれば、彼らが待つのは破滅のみ。


「大口様……! なにとぞ出陣の号令を……!」


 若い兵が怨みの籠った顔で許可を取る。


「ならぁん!!!!」

「ヒッ……!」


 ズドンと大きな音を地響きを鳴らして足踏みをする。

 巨大な体躯から繰り出されるすべての動きは大地を揺るがす。


 二口の総大将、大口。

 髪の毛は足元まで伸びており、ずんぐりとした体躯はそのほとんどが脂肪ではなく筋肉だ。

 一見鬼に近い無骨な顔をしている。

 薄汚れた服は肩から千切れており、腰にはしめ縄が巻かれていた。

 ぎりぎりと悔しそうに歯ぎしりをする後頭部にある口は体躯通り大きく、歯並びが悪い。

 歯茎の間は隙間だらけで、歯は少し丸みを帯びていた。


 大口はありったけの叫び声で部下に怒鳴った後、再び足踏みをして怒りを露わにする。


 攻め込み、蹂躙したいのは同じだ。

 だが今まで虐げて来た存在からの反旗を喰らい、ましてや全滅にまで陥った。

 同じ様に攻め込んだとしても結果は変わらない。

 それに人数もまだ集結していないのだ。

 今何の考えもなしに異形へ攻撃するのは、愚策である。


 異形が勝てるはずがないのだ。

 だがその要因を作った何かが向こうに入るはずである。

 それが分からなければ、下手に動くことはできない。

 まだ籠城をし、散らばっている仲間を集結させて戦力を温存させた方が利口である。


 こちらは情報が少ない……。

 最後に届いた大声も『助けてくれ』というものだけだ。

 その前に届いた大声は『異形が遠距離武器を使ってこちらが深手を負った』という嫌な報告のみ。


「連絡はぁ!!? 何故誰も返事をしない!! 我が兵はどこに行った!? どこに行ったあああ!!!!」

「……討ち死に……されたかと……!!」

「ぐぅぬぅう……!!」


 二口の重鎮らしき老兵が、苦々しく本音を口にする。

 分かってはいることだが、どうしても認めたくない。

 しかし二口の『大声』は生きていればどこにでも届くものだ。

 声が帰ってこないということは……そういうことである。


 四十二名の戦士が異形によって殺された。

 最弱と名高いあの異形共にだ。


「許さぬ……! 許さぬぞ異形どもぉ……!!」

「ワシも同じにございます。しかしまずは……敵を知らねばなりますまい」

「そうだ、その通りだ。何が奴らを変えたのか知らねばならん! 爺、今の戦力は」

「二口、総勢百二十八名。されど……今この城にいるのは半数以下にございます」

「数は」

「四十八」


 大口は苦い顔をした。

 先日、二口が押さえている異形の村に渡り者が出現したのだ。

 これは今回の事件とは違う村だ。

 そのため渡り者を献上するために兵をそちらの村へ送ってしまった。


 他の妖に手柄を取られないようにするためだ。

 過去に何度かそういうことがあったので、二度とないように考慮している。


 彼等は今頃帰路についている最中の筈だ。

 もちろん今の現状のことも耳に入っている。

 帰って来るのは時間の問題だが、最低でも一週間はかかる。


 もし異形共が今この瞬間から攻めに来るというのであれば、間に合うかどうか……といったところだ。

 この間に、どれだけ敵の情報を集められるか。


「爺、斥候を放て」

「言われずともしておりますよ。こちらもこちらで準備しましょうぞ」

「そうだな」


 ようやく冷静になってきた頭で、周囲を見渡す。

 山城は天然の要塞だ。

 地形をうまく使うことができれば、攻め手は不利を強いられ続ける。

 長年この地で暮らしてきた二口たちだ。

 もうこの辺りは庭みたいなものだし、連携も問題なく行うことができるだろう。


 武器と防衛設備を点検しなければ。

 大口はそう呟いてからずんずんと確認しに行ってしまった。

 取り残されそうになった若い二口が慌てながらついていく。


 老兵も立ち上がってついていこうとしたが、ふと後ろを振り向いた。


「……この時を狙っていたか……? そうであれば、何故情報が漏れたのか……。完全にまぐれというわけではあるまい。だとすると……」


 厄介な敵。

 そう思えて仕方がなかった。

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