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和風異世界いかがですか  作者: 真打
第一章 異形の地
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1.24.勝利の掛け声


「いよっしゃあああああああ! 勝ったぁ!!!!」


 押さえきれない喜びをようやく表に出し、力強くガッツポーズを取る。

 これを喜ばずしてどうするのか。

 全員でその喜びを共有しようと思ったが、異形たちは仕留めた二口を見て、呆然としていた。


 一人だけ喜んでなんか恥ずかしい。

 だが、どうしたのだろう?


「か、勝った……」

「私でも戦えた……知らなかった……」

「できた、やれた……!」


 そんな声が聞こえてきた。

 今まで自分たちには到底成すことができないことだと思っていたのだ。

 信じられないのも無理はないかもしれない。


 だが、結果は変わらない。

 こちらは無傷で、敵は全滅。

 壊滅でも、半壊でもなく、全滅したのである。


「快勝だぞ皆! ほら喜んで! 私たちは勝てないと思っていた敵に勝てたんだ! そして皆は、弱くない!」

「……そうだ。旅籠様の言う通りだ……。勝ったんだ。勝てたんだ」

「あいつらに勝ったんだ……!」

「勝ったんだ!」


 そんな言葉を掛けると、また自信を取り戻してきたらしい。

 全員がゆっくりではあるが喜びを体で表現しはじめ、最後には声をあげて喜んだ。


 その喜びはしばらく収まりそうにない。

 落ち着くまではそっとしておこうと思っていると、落水がこちらにやって来た。

 ツギメも一緒だが……なんだか落水が微妙な顔をしている。


「旅籠様! 勝ちましたね!」

「いやぁ、やっぱり木樹に弩の予備を作ってもらって正解だったよ! あれがなかったら何体か逃がしてたかも」

「そうだな。それにしてもよい策だった。ワタマリで全員の気配を隠すとは……。俺も異形について学び直さねばならん」


 そう、今回最も活躍したのはワタマリである。

 気配を消してもらい、射手を全員隠すことに成功したのだ。

 相手にもぬけの殻だと思わせ、架け橋を渡らせる。

 その橋には粘液質の異形に体液をまんべんなく塗り込んでもらい、滑りやすくさせた。

 結果として動きが鈍り、二口を集結させることに成功。

 警戒を怠った末路だ。

 気の毒だ、とは思わない。


 まとまったところで一斉掃射をさせる。

 やはりトリガーを引き抜くタイプの弩だと若干精度が劣るが、問題なかったのでほっとした。

 矢を改良したのが良かったようだ。


 加工した矢尻を木樹の所に持って行くと、すぐに矢を量産してくれた。

 木樹の木工加工技術は目を瞠るものがある。

 様々な形の矢尻を少しだけ裂いた木に挟み込み、ツタのように細い木の根っこでグルグル巻きにして固定した。

 弄ってみても一切動くことはなく、がっしりとした造りになっていた。


 木工加工においては、右に出る者はいなさそうだ。

 今後、彼らは異形たちにとって重要な存在になるだろう。


 そして……小川を越えて来ようとした二口は、落水がすべて始末してくれた。

 水を操ることができるようで、そこに武器でもあれば、水の中で自在に武器を操って攻撃する事ができる。


 凄まじい力だと思う。

 そんな異能力に加えて、剣術もすさまじい腕前だと聞いている。

 これはツギメから聞いていたのだが……。


『どこかで見たことがあるの?』

『いいえ。……あれ? どうして知ってるんでしょう?』

『いや、私に言われてもな……』


 なんか知らないけど知っている、という感じで要領を得なかった。

 だが今はそれが事実であれば問題はない。

 強い異形がいるということは、悪い事ではないのだから。

 今回はその技量を拝むことができなかったが、いずれ見せてくれるだろう。


 兎にも角にも、今回は快勝。

 見事に防衛したし、皆の自信も大いについたように思える。


 しかし、今後のことも考えておかなければ。


「旅籠様や」

「ん? うわ、ジャハツ」

「ひょひょ、すみませんなぁ。ところで一つ提案があるのじゃが」

「提案?」


 今この場で、何を提案するのだろうか。

 今後のことに関係のあることであれば、ありがたい。

 だが少し違う様だ。


「なにか異形共の掛け声を頂戴したく」

「か、掛け声……? なんで? 普通じゃダメなの?」

「旅籠。掛け声はあった方が良い。特に“異形”にとってはな」


 ジャハツの提案に、落水が以外にも力強く賛同する。

 掛け声に種類などないとは思うのだが、彼が言うのだから少しばかり考えてみることにする。


 掛け声と言えば、ヤー! とかハー! が一般的ではないのだろうか。

 えい、えい、おーなどもそうだ。

 これは勝鬨を上げる時によく使われるイメージがある。


 それの、異形たちが専用で使う掛け声……。

 何かないだろうか、と考えてみるがなかなか思いつかない。

 自分があまりそういったことに興味がないのも原因かもしれないが……。


「あ」


 ふと、思いついた。

 意外と思いつくものだな、と思っていると、ツギメとジャハツが期待の眼差しでこちらを見ている。

 そんなに深い意味はないのだが……。

 他に考えても普通なものしか出てこないので、これで行くことにする。


「ロー、とか……どう?」

「ろー、でございますか?」

「そう。”ロー”はLowで、シューティングゲームを好む人たちが使う用語なんだけど……。敵の体力が少ない時とか、敵が瀕死状態の時に使う言葉。三回唱えると、なんかいい感じに聞こえるんだよね。ロウ、ロウ、ロウ。ほらね?」


 あと少しで勝てるぞ。

 そんな意味があるのかないのか分からない掛け声ではあるが、これ以外に思いつかない。

 微妙だなぁ、と思っていたのだが、意外にも落水とジャハツは感心した様子で頷いていた。


「良いな」

「え」

「掛け声から油断せぬ心構えを……。勝利ではなく、勝利の手前の言葉を選ぶとは。いやはや、これは素晴らしい」

「えっ」


 そんな深い意味はない。

 ないんです。

 ちょっと三回唱えたら語呂が良かったから……。

 そ、そんな理由なんです! やめて深い意味にしないで!


「皆さまぁー! 旅籠様が我々の掛け声を考えてくださいましたよー!」

「ちょ、まっ……」


 ツギメが元気よく、決まってしまった掛け声を伝えて回っていった。

 止めようとしたのだが、一瞬出遅れる。

 その間に、落水に肩を掴まれた。


 もう、あの掛け声の決定は止められそうにない。

 なんということだ。


「えっと、なんですか……?」

「話がある」

「……お説教……?」

「否。これからの事と、俺のことだ」


 いや、怖いんですけど……。

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