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和風異世界いかがですか  作者: 真打
第十一章 不落城冬の陣
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11.26.褒美譲渡


 作業を開始してもらってから数時間。

 ようやく城や城下町から武器を回収し終わり、鑑定も怒涛の勢いで進んで終わりを迎えた。

 目の前には綺麗に仕分けられた武器の山が鎮座しており、隣に防具も見てとれる。

 とはいえ、防具に関しては使用できる異形は多くないので一旦保留しておく。


 さて、これらを異形たちに褒美として取らせなければならない。

 全員をこの場に集め、隊長格を前にして後列にはその部隊が並んでいた。


 今回の城攻めで最も貢献したには誰か。

 月芽から聞いた話と、本人から聞いた話を鑑みれば……やはりこいつだ。


「壱成!」

「はっ!」


 異傀儡衆筆頭、壱成。

 城攻めに必要な戦力の増強、戦況を判断して部隊を指揮し、軍としての動きが完璧だった。

 壱成がいなければ、人間を追い出すことはできなかっただろう。

 とはいえ被害も大きい。

 不利な戦場にも多くの兵を派遣した粉骨精神に、私はある種の覚悟を感じた。


「……兵力増強、城下町での戦場指揮。見事! てことで、壱成には十文字槍をあげよう」

「有り難く……!」


 両手で丁寧にこれを受け取ると、小さな変化が起きる。

 壱成の身体が少しだけ大きくなった。

 これにより、十分に十文字槍を振り回せるようになったらしい。

 地面すれすれだった陣羽織も、今では余裕がある。


 なかなかかっこいい。

 いや、壱成はもともと結構格好良かったしな。

 これからも軍の増強やらで活躍してもらいたい。


「次、五昇! それと五昇に続いた雪傀儡衆!」


 呼べばすぐに歩いてきて、目の前で跪く。

 五昇は城下町の外で雪傀儡たちと駆け回っていたのだが、この際、天守閣に潜む弓兵を幾らか仕留めたことを月芽から教えてもらっていた。

 いや何キロ離れてるんだよ……。

 全く、凄まじい技量と異術だ。


 そして雪傀儡衆。

 五昇と共に走り回った雪傀儡たちは、見事な連携で広大な範囲を制圧した。

 多少の犠牲は出たようだが城下町ほどではない。


 恐らくこの連携には五昇の広域索敵と、素早く移動できる雪傀儡の相性が非常によかったのだろう。

 五昇とその部隊には、それ相応の褒美が必要だ。


「雪傀儡には薙刀を。それと君たち雪傀儡は雪道(せつどう)十八人衆の呼称をあげよう」

「!? ま、誠ですか!?」

「うん。十八人衆の将はもちろん氷進ね」


 十八体に薙刀を手渡す。

 壱成と同じように薙刀を操るに十分な背丈となり、全員が一斉に一例をした。


「雪傀儡、雪道十八人衆。火急の際はいつでもお呼び下され!」

「期待してるよ!」


 うう~ん、いいね十八人衆!

 一番隊とかでもよかったんだろうけど、そうなると他の部隊にも名称付けないといけなくなるからなぁ~。

 その十八人だけが特別って扱いにしておいた方がやりやすい。

 今後もこういうことがあれば、この手法で乗り切ろう。


 さて、次は五昇だ。

 用意していた大きな和弓を手に取り、それを手渡す。


「五昇には和弓を。それと……名前を改めてもらう」

「え!?」

「これからは由海(ゆみ)と名乗ってね」

「……わ、わあ……!」


 これは前々から考えていたことだ。

 漢字を宛がってから今まで、ずっと彼女の索敵能力には助けられてきた。

 彼女の異術があったからこそ、安全に、なおかつ敵の襲撃にいち早く気付くことができたのだ。

 今までの感謝を込めて、女の子らしい名前を付けてやる。


 すると、早速変化が起きた。

 骨格が変わり、合わなくなった仮面がポロリと落ちる。

 慌ててそれを取ろうとしたが、異変に気付いて手を止めた。

 腕も鱗が幾らか剥がれ落ちて綺麗な肌が露わになったようだ。


「……え?」

「……ええ!?」


 目の前で変化を見ていた私と月芽は驚愕する。

 白く長い美しい髪の毛が風に揺れ、顔がこちらを覗く。

 美しい肌は艶があり、喉から右頬にかけてだけ小さな鱗が残っている。

 ギザギザの歯と魚の尻尾だけは未だに残っているが、それ以外は人のそれと何ら変わりがない。

 どこからどう見ても人間だ。


 しかし瞳だけは少し変わっていて、瞳孔が縮小したり拡大したりと忙しない。

 これは自分も動揺しているからだろう。


 えっちょ……えっ!?

 五昇……じゃなくて由海って異形人だったの!?

 ちょっと待ってどういう事!?


「こ、これは……」

「わぁー! 由海! とても可愛らしいお声になりましたね!」

「わ、私の声ですか? こ、これ私の声なんですか!?」

「そうですよー! お姉さんみたいです!」


 月芽が由海を褒め称えると、他のものたちも拍手を送っている。

 隣にいた雪道十八人衆は近づいて変化を見ながら誉めているようだった。


 確かに凄くきれいな声になったけどぉ……。

 いやさっぱり何が起こったか分からん。

 今まで名前をつけてあげたのは、月芽、木夢、無形、布伝、角、楽、壱成。

 月芽は異形人だから人の姿になるのはわかる……。

 だが他の皆は……異形の色合いが強い。


 じゃあなんで由海だけ……?

 人の名前らしい名前をつけると変わるのか……?

 う、ううん……分からん。

 とりあえず喜んでくれてるから……いっか!


 では、そろそろ本命。

 シュコンに言われた通り、黒細に褒美をあげよう。


「黒細!」

「……え? あ、あっしでやすか? でも今回はなんも……」

「受け取れないの?」

「あいやややや! 喜んでいただきやす!」


 ちょっと卑怯な言葉だったかもしれないが、私自身どうなるか気になる。

 これは期待を込めた褒美だ。

 一体どうなるのか、めっちゃ楽しみ。


「じゃあ、黒細には……この城を任せる」

「……え?」


 すっとんきょうな声を出し、聞き間違いなのではないかと耳を疑った。

 頭を振ってから今一度聞き直す。


「あ、すいやせん。もう一回言って貰っても……」

「だから、このお城を黒細に任せる」

「どぅえええええええええ!? いややややなんででやすかぁ!? あっしなんもできやせんでしたんに! 今回は功績どころか皆の足引っ張る形で……」


 その後もうだうだとこの報酬は自分に相応しくないことを遠回しに喋っていたが……。

 ええい、めんどうくさいな。


「だからあっしにこの城は……」

「素直に受け取れ! 黒細には期待してんの! 期待してるからここを任せようと思ったんだよ! どうせ次は鬼が来る! そこが挽回の時! だったらこの城を守ってみせんかい!」

「……ぉ、なんと……」


 とりあえず言いたいことは伝えた。

 今後、黒細には城を守り続けるという重要な任務を与えることになるのだ。

 期待していなければしろなんて任せない。


 今回の戦いで自分の慢心を悟った。

 何が悪かったか理解しているのであれば、立派な武将になることだろう。

 私はそれを期待している。


 暫く固まっていた黒細だったが、ようやく意を決したようで顔を上げた。

 彼に目玉はないが、視線をあわせて応えを待つ。

 細腕で胸をドンと叩くと、笠をつまんで持ち上げる。


「わっかりやした……! この黒細、必ずや旅籠様のご期待に応えてみせやす! 強いては、城の名を頂戴したく!」

「欲張りだな! まぁいいか! んじゃ、黒霊城かな」

「しかと、頂戴いたしやす!」

『『『『守りの要、お任せくだされ!』』』』

「「え?」」


 突然、高い声が聞こえた。

 周囲にいた異形も声の主を探しているあたり、今いる異形たちが発した言葉ではないらしい。

 なんだ今のは、と疑問符を浮かべていると、月芽と由海が驚いた声をあげる。


「「わっ!?」」

「ど、どうした!?」

「……ち、ちいさな黒細が……」

「は?」


 これが皮切りとなった。

 突如として地面から大量の幽霊が飛び出したのだ。

 それは笠を被っていない黒細のような異形で、色は真っ黒。

 背丈は百センチ程度だろうか?

 黒細の色違いの幽霊が、城中にわんさか湧き出した。


 これを見て理解した。

 シュコンが黒細に城を渡せと言ったのは、ヤガニ衆のような数を増やせる異術の素質があったからだと。


「す、すげぇ! 戦力増強だ!」

「お、おおおおおお!? なな、なんと……! す、すごいでさね!?」

「いや凄いのは黒細な! これなら鬼も撃退できるんじゃね!?」

「撃退? いやや、全部殲滅してみせやすよ!」

「おっしゃ! それでこそ黒細だー!」


 いつもの調子に戻ったことに安堵しつつ、素晴らしい異術の発現に喜んだ。

 これであれば、ちょっとやそっとのことでは城は落ちない。


 よし、では私が直接褒美を渡すのは次が最後。

 これは意外にも落水が推薦してくれた。


「最後! マガリネ!」

「はっ……」


 のそりのそりと歩いてきたマガリネはひどい猫背で、顔にヴェールが掛かったようにして霧が落ち続けている。

 そのため足元は白い靄が広がっていた。

 無形とは正反対だ。

 体は非常に細く、骨と皮だけしかないのではないだろうか。

 その代わり、体は大きかった。


 落水から漢字と武器をやってくれ、と言われているのでそれに従う。

 先程見つけた四尺刀と共に、漢字を与える。


「曲音。これが君の漢字ね」

「……私なぞが、頂いてもよろしいのでしょうか」

「うん。落水さんが期待してるんだから、自信もって」

「では、有り難く……!」


 四尺刀は曲音にとって丁度いい長さの武器であるようだった。

 少しだけ刀身を確認したあと、静かに納める。


 どんな異術が発現するか楽しみだ。

 よし、とりあえずこれでいいかな。

 あとは……。


「壱成~。これを十山城に運びたいから、運搬の準備をお願い。特にこっちの武器はいいやつだから慎重に」

「承知!」

「衣服なんかも持っていこう。残りの量産型の武器や道具は……各々好きに取っていっていいよー!」


 私がそういえば、大きな歓声が上がって各々が好きに物色し始めた。

 衣服や装飾品はまだ鑑定が終わっていないので、それには手を付けないでもらう。


 衣服であれば布伝が鑑定できるらしいので、既に向かわせて選別を行わせている。

 装飾品も国岩が鑑定できるとのことだったので、これも任せた。

 品質のいい物は十山城に持っていこう。


「いよっし、こっから少し忙しくなるぞ! 月芽は十山城に繋げて! 蛇髪は会議の場所を整えて! 由海はいったん十山城に戻って周囲の確認! 黒細と案山子夜は会議に来てね! 落水さーん! あの異形鬼に話があるんですけどー! てか将門お前どこ行ったでてこーーーーい!」


 忙しなく指示を飛ばして走って行く後ろ姿を見送ると、月芽はくすりと笑った。


「フフ、生き生きしておられますね」

「でも本来戦場に身を置くお方ではなかったはずです。しかし、そうせざるを得なくなった。私たちは旅籠様を支え続けましょう」

「無論、そのつもりですぞ。ああして楽し気に振舞えるよう、わてらは尽力すべきですな。黒細、次は鬼との決戦。先の戦のように失態があれば……」

「もうしねぇでさ!! これで何かあれば名を返すつもりでさよ」

「その意気やよしじゃ。黒霊城、任せたぞ。黒細や」


 それぞれが再び決意を新たにし、与えられた役目を全うすべく動き始める。

 十山城と黒霊城。

 この二つの城を今いる異形たちだけで管理しなければならない。


 背後には妖怪、前方には人間。

 既に挟まれている危険な状態ではあるが、それを跳ねのけるだけの力を異形たちは得た。


 異形たちの目的はただ一つ。

 己の主である旅篭に、最後まで付き従う事である。

 この意思が崩れぬ限り……彼らは幾度も立ち上がる最強の兵となるだろう。


 不落城が落ちたこの戦は、小さな歩兵(ふひょう)の一手が、世界の力関係を大きく変えた瞬間だった。


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