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転生令嬢、もふもふと前世の社畜スキルで領地改革〜没落領地の立て直しなんてホワイトすぎて余裕です!〜  作者: こうと
第一章 異世界転生 そして残業開始

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8/12

第8話 幼女令嬢のブラック交渉術

 ガタゴトと揺れる馬車の中、私は膝の上のクロをブラッシングしながら、脳内の「事業計画書」を更新していた。


「……おい、お前。さっきから街の連中がこっちを指差してヒソヒソ言ってるぞ。俺の放つ『覇気』に怯えてるんだな。ふん、賢明な判断だ」


「違うわよクロ。八歳の幼女が、禍々しい漆黒の仔犬を侍らせて、しかもその仔犬が『喋りながら』ブラッシングされてる光景がシュールなだけ」


「……あ。喋っちゃダメだったか?」


「いいわよ、もう。今さら隠すのもコスト(手間)の無駄だし。私の『護衛』なんだから、少しは威圧感があった方が交渉(商談)がスムーズにいくわ」


 やってきたのは、隣領の商業都市ベリング。 活気あふれる市場、行き交う商人たち。ルベリット領の静けさとは正反対の「金の匂い」がする場所だ。 私の目的は一つ。この街の経済を牛耳る『ベリング商会』から、最高級の種を仕入れること。


「(技術(魔法)はある。農地プラットフォームもある。足りないのは、市場で高く売れる『コンテンツ(種)』よ)」

 






異世界に転生して一ヶ月。私はただ闇雲に荒野を耕していたわけではない。 深夜一時に起き、夜明けまでの五時間を魔法のデバッグに充てる日々の中で、私はある「バグ」の利用価値に気づいていた。

 それは、庭の隅に自生していた、枯れかけの『雑草』に魔力を流した時のことだ。 (魔力をそのまま流すと、植物は過負荷で燃え尽きる。……でも、周波数を細胞の分割速度に同調シンクロさせたらどうなるのかしら?)

 前世でシステムの処理速度を上げるため、クロック周波数を調整オーバークロックしていた時の知識。それを魔法に応用し、私は一ヶ月かけて数百回もの失敗を繰り返した。

 植物を破裂させ、あるいは萎びさせ、ようやく見つけた黄金比の魔力振動。 それが、私の開発した独自魔法――【ハイ・アクセラレート(高効率細胞加速)】だ。

 だが、ただの麦を増やしても借金完済には遠い。狙うは、王都の貴族が金に糸目をつけない「銀糸麦ぎんしむぎ」だ。









 街の中央広場。そこにはこの地域最大の『ベリング商会』の本店があった。 豪奢な石造りの建物。入り口には屈強な門衛が立ち、裕福そうな商人たちが出入りしている。


「ハンスさん、ここで待ってて。ちょっと『新規取引の打診』をしてくるから」


「リ、リリア様! せめて私がご一緒に……! 相手はこの領地を狙う子爵と癒着した商人です。子供一人では門前払いどころか、どんな嫌がらせを……!」


「大丈夫。私、前世では『アポなし飛び込み営業』で成約率トップだったこともあるの。それに、最高に頼れるセキュリティ(クロ)もいるしね」


 私はクロを肩に乗せ、堂々と商会の扉をくぐった。 案の定、受付の男は私のボロボロの(でも洗濯はしてある)服を見て、鼻で笑った。


「おや、お嬢ちゃん。迷子か? ここはルベリット男爵家のような『斜陽の家』が来る場所じゃないんだ。お遊びならよそで――」


「失礼。ルベリット男爵家当主代行、リリアです。本日はベリング会頭に『緊急の利益供与に関する提案(事業提携)』に参りました。五分でいいので枠を空けていただけますか?」


「はあ? 当主代行ぉ? 利益……なん……?」


 専門用語で煙に巻く。営業の基本だ。 男が呆気に取られている間に、私はさらに畳み掛ける。


「現在、我が領地では王国有数の作物の高速試験栽培に成功しました。これの独占販売権の優先交渉権を提示しに来たのですが……。お忙しければ結構です。隣の街の商会へ回りますので」


 くるりと背を向ける。 交渉の定番「ブラフ」だが、これに説得力を持たせるのが、肩に乗ったクロだ。


「…………(ギロリ)」


 クロが金色の瞳で受付の男を睨む。 一瞬、受付の男の顔が引き攣った。本能が「この生き物はヤバい」と告げたのだ。そして、そのヤバい生き物を従える幼女もまた、ただ者ではないと。


「ま、待て! 会頭に確認してくる! そこで待ってろ!」


 勝った。 数分後、私は豪華な応接室に通された。 目の前には、丸々と太った、狡猾そうな眼をした中年男――ベリング会頭が座っている。


「ほう。ルベリットの『死に体』の令嬢が、何の用かな? 我が商会は慈善事業はやっていない。借金の返済なら、子爵様に直接言うんだな」


「ご挨拶ですね、会頭。私は借金の話をしに来たのではありません。あなたの商会の『機会損失』を防ぎに来たのです」


 目の前に座るのは、恰幅のいい中年男性、ベリング会頭。彼は私を、鼻で笑うことすら忘れたような「ゴミを見る目」で眺めていた。


「……ルベリットの『死に体』の令嬢が、何の用かな? 我が商会は慈善事業はやっていない。隣領の子爵様からは、お前の家はもうすぐ潰れると聞いているが」


「ご挨拶ですが会頭。その子爵様との付き合いは、御社にとって本当に『最高のリターン』を生んでいますか?」


「何……?」


「子爵様は我が家を安く買い叩こうとしている。ですが、それは短期的な利益に過ぎない。もし私と組めば、御社は『時間の概念を書き換える』ことになります」


 私は、懐から一粒の「雑草の種」を取り出し、テーブルに置いた。 会頭は馬鹿にしたように眉をひそめる。


「雑草? それを売りに来たのか?」


「いいえ。デモンストレーションです」


 私は指先を種に向けた。 一ヶ月間、深夜一時に起きてから夜明けまで、一万回以上繰り返した魔力操作。 回路を流れる魔力の熱を、社畜の意地でねじ伏せ、独自の周波数を種に叩き込む。

実行命令ラン:ハイ・アクセラレート。対象、座標……エンター)

 パッ、という淡い光。 会頭の目の前で、雑草の種が一瞬で芽吹き、花を咲かせ、種を実らせた。 その間、わずか五秒。


「なっ……な……ッ!? 無詠唱だと!? しかも、この速度……! 馬鹿な、植物魔法の常識を超えている!」


「これが私の『技術資産ノウハウ』です。会頭、私にあなたの商会が秘蔵している『銀糸麦』の種を貸し出しなさい。私がそれを三日で収穫まで持っていきます」


私は営業スマイルのまま、冷徹な条件を突きつけた。


「現在、我が家が抱えている負債の『債権譲渡』および『金利の再設定』。そして、ベリング子爵による不当な買収工作への『拒否権の発動』。これに協力していただけますか?」


「……っ。子爵様を裏切れと言うのか?」


「裏切るのではなく、『より利益の出る方を選ぶ』。それが一流の商人ではありませんか? 私は、あなたの商会を王国一にするパートナーとしてここに立っています」


 沈黙。 会頭は汗を拭い、目の前の「麦」と「幼女」と「不気味な魔獣」を交互に見た。  やがて、彼は重々しく口を開いた。


「…………わかった。その条件で、仮契約を結ぼう。ただし、一週間以内に『製品版』の麦を千キロ、納品してみせろ。できなければ、契約は破棄。あんたの身柄もろとも、子爵様に売り払う」


「千キロ……!? 会頭、いくらなんでも一週間でそれは……!」


 控えていた商会の店員が驚愕の声を上げるが、私は即答した。


「一週間? ――三日(七十二時間)で十分です。納品書を用意しておいてください」


「さ、三日だと……!?」


「はい。現在、私のモチベーションは最高ですので。……クロ、行くわよ。今日はこれから、三日間の『超特急プロジェクト(デスマーチ)』の始まりよ!」

「おい、また寝ないつもりか!? 俺のブラッシングの時間は確保しろよな!」


 驚愕する商人たちを背に、私は颯爽と応接室を後にした。 背後でハンスさんが「三日で千キロ!? またリリア様が命を削られるぅぅ!」と叫んでいるのが聞こえたが、今の私の耳には心地よいBGMだ。

 さあ、納期(締め切り)が決まった。 社畜にとって、これほど血が沸き立つシチュエーションはない。


「(三日間、フルで『深夜残業』を回せば、千キロなんて余裕よ……!)」


 異世界初の「大規模魔法農業デスマーチ」。 不眠不休の令嬢による、本当の無双はここから始まるのだった。

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