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ANIMA  作者: パンナコッタ
穢れなき楽園へと誘う者
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光の翼

それからどれくらいの時間が過ぎただろう。

突然の力の解放による時空の超越。

そして無意識に過去へと介入してしまった。


「メアリー……俺どうすれば……」


草すらも生えていなかった野山だった場所は いつのまにか木々が生い茂っていた。

この山に籠り出してから相当の年月が立っている。


「少しだけ……山を降りよう」


エースは下山を決心した。

過去への介入は確かに危険なことだ。

でも、それでも人肌が恋しい。

山を降りると、石造りの巨大な街が広がっていた。そこには人が大勢いて、市場が広がっていた。


大勢の人の賑わいに揉まれながら、エースは市場を進む。商店の男がエースに気さくに話しかけた。男と目が合い、思わず涙を浮かべる。

すると、男は果実を一つエースに差し出した。エースはそれを貰い、少し会釈をして小走りに人混みを駆け抜けた。

涙を拭いながら走っていると、前から来る少女に気付けなかった。

激突してしまい、果実をどこかに落としてしまう。


「あっ、ごめんなさい!」


少女は頭を抑えながら謝ってくる。

エースは少女の顔を見た瞬間、言葉を失う。

その少女は、メアリーだった。


「メアリー……」


思わず声が漏れる。


「私を知ってるの? どこかで会ったっけ」


メアリーは首を傾げてそう聞く。

何か返答をしようとしたが、あることに気づく。ここでメアリーと出会うなんて重大な過去改変だ。それこそ未来がどう変わるか分からない。


「くっ……!」


エースはふらつく足で路地裏まで逃げる。

しかし、何年も動いてなかった所為で、足を挫いて倒れてしまう。


「ちょっと! 君!」


メアリーはそんなエースを心配して追いかけてきた。逃げないと、それはわかってる。

しかし体が思うように動かない。


「急にどうしたのよ?って、身体中怪我まみれ、山にでもいたの?」


そう言い、メアリーは腰の鞄から包帯を取り出す。


「今手当てするからね」


そんなメアリーの優しさに、涙が止まらなかった。その時、エースの中で何かが壊れた。

メアリーを思う気持ち、それが何かを壊した。エースの願いはメアリーを幸せにすることだった。

その思いもどこかへ消え、メアリーとの幸せという意思がエースを呑み込んだ。


「ごめん……ありがとう」


エースは逃げることなく、メアリーの手当てを受けた。名前を聞かれ、エース・レッカと答える。

どこからきたのか聞かれたが、咄嗟に山に住んでると答えてしまう。


「ほんとに山に住んでるんだ」


メアリーは少し驚いたが、それ以上に何も聞かなかった。


「じゃあここの事もあんまり知らないでしょ」


それから、メアリーに街を案内してもらった。この世界《地天》の東の大陸にある街《クラリア国》の《エスア》それがこの街の名前らしい。


その時、空で翼を広げて飛ぶ者を見つけた。

エースは指を指し、あれは何かと聞くと「天使」とメアリーは答える。


(そうか、この世界にはまだタナトスのかけた呪いがないから人界も天界も同じ次元に存在するのか……)


「私も天使なんだけどね、人界で一度死亡した人間は天界に行って天使と言われる存在になるの」


それからの長い年月をメアリー共に過ごした。教会にて、大昔から東の大陸に伝わるという教えを受けた。


『創造こそが幸せへの道』


その教えをどこかで聞いたことがある気がしたが、辛い過去は思い出さないようにした。

エースの幸せはここにある。

辛いあの世界とはもう別れを告げたのだ。


そして、メアリーの仕事についても色々と聞いた。この世に散らばる《13の力》を集める事だそうだ。なんでも、それこそが教えによれば神への道であり、平和への道でもあるそうだ。


俺はそのメアリーの仕事を手伝う事にした。

メアリーと共に世界中を回り、力を集めていった。

その中で多くの物に触れ、多くの事と出会った。メアリーとエースは互いを愛し合い、体を重ねることもあった。


「エース、近隣国のイザベル王国って知ってる?」


空を飛ぶ最中にメアリーがそう問いかける。

聞いたことはあった。

なんでも、先の《東西大陸戦争》にて大量の物資の供給により巨万の富手に入れたとか。


「それがどうしたんだ?」


「うん……その国の王女様が力の一つを持ってるかもしれないの……」


「王女がか?でもそれを手に入れるって大変じゃないか?これまでは話し合いで力を貰ってきたけど……」


一国の王女となれば今までとは話が変わってくる。今までは、《東洋の血筋》の道によって力を継承してきた。

おそらく王女からもその方法で力を貰えるはずだが、それを国が許すだろうか。


「それがね、その王女様が戦争に出兵するらしいの」


「え?!」


思わず大声を出す。時期国王ともなる王女が 出兵とは、なぜ故だろうか。


「その王家は天使の一族らしいからもしそこで王女が死亡すれば力が失われる……」


「なっ……王女を止めに行こう! 今王女はどこにいるんだ?」


「うーん……もう戦地に向かってるかもしれない……早いうちに行こう」


そのメアリーの声に応え、翼を広げて目的地へと向かう。目的地までは丸一日かかった。

広大な森が目に入った。


「これがイザベル王国と敵対国の領地の境界線……情報によればここから攻撃が開始されるはず……」


直後、ものすごい爆音と共に森の最果てからの砲撃が始まった。

まさか、もう森の中にいるのだろうか。

2人は森の中に降り立ち、王女を探した。

そこら中に岩に潰された死体が転がっている。

それから何時間も、砲撃が降り注ぐ中王女を探し続けた。


「……あれ!」


エースが1つの岩を指指した。

その岩を退けると、人が2人下敷きになっていた。2人とも既に死んでいた。


「手を……繋いで潰されている」


2人は恋人だったのだろうか。

そんな2人がこんな戦地に……。

2人のうちの1人の胸の上に光の玉が残留していた。メアリーはそれを、魂と答えた。


「きっとこの子が王女様……でもなんで魂が残っているの……」


メアリーは込み上げる涙を抑えながら王女の魂に触れる。どうか安らかに眠ってくださいと、そう願いながら。

エースはもう1人の子供の胸に触れる。

すると、記憶が流れてくる。


「なに……してるの?」


メアリーは不思議そうにそう聞く。

その問いに記憶を見ていると、エースは答える。


「この少年の名前はルイス……そしてそっちの子は王女で、名前はアナスタシア」


エースはそっと立ち上がり、メアリを抱きしめた。こんなことが許されるのだろうか。

二人の幼い子供が戦地に駆り出されるなんて。


「メアリー……俺達は、お腹の中の2人を幸せにしよう……」


メアリーはそっと頷く。

その後、2人は森から飛び立った。

メアリーは未だに2人のことを悲しんでおり、涙が抑えられないようだ。


(アナスタシアとルイス……どこかで聞いたことがある……)


エースは本気でそう思っていた。

もう過去の記憶がほぼ無いのだ。


それから約8ヶ月後、天界の病院にてメアリーが双子を出産した。


「あぁ……なんて可愛いんだ」


エースは双子を抱きかかえて目に涙を浮べる。


「名前、決めてくれた?」


メアリーがエースにそう聞く。


「あぁ、この2人は……アナスタシアとルイスだ」


そう言った時、エースは巨大な違和感を覚えたが、すぐにその気持ちは消えていった。


「気持ち悪い」


何処からかそんな声が聞こえた。

エースはその声を笑顔でかき消し、メアリーに二人の子供を返した。

それから2人はすくすくと育っていった。


「もう2人も3歳になるな」


「早いものね、仕事も順調だし」


メアリーは既に複数の力を身に宿していた。

あと少し、あと少しで仕事が終わる。


「大変だ! 西の大陸で悪魔が!」


外から叫び声が聞こえた。

号外の新聞が町中を舞っている。

悪魔……?西の大陸に……


その時、エースの中で何かが繋がった。


「あぁ、そうか……これも運命か」


「運命に抗うことも運命だったのか……」


「えっエース……?」


メアリーは心配そうにエースの顔を覗き込む。エースの目からは涙が溢れていた。


「行こうメアリー、西の大陸に」


「そうね、悪魔というくらいならなにか力を持ってるかも! でも2人を……」


メアリーはアナスタシアとルイスをどうするか悩んでいた。


「連れていくんだメアリー」


「えっ……」


危険すぎる。メアリーはそう言った。

しかし、エースは連れていけ一点張り。

タナトスの記憶によれば、あの場には銀髪の女が2人子供を背中に抱えていた。


「そうだ……あの時から決まっていたんだ……」


メアリーは心配しながらもアナスタシアとルイスを背中に抱え、エースと共に空へと飛び立った。


(エースの様子がおかしい……)


エースはずっと何かを見ていた。

その蒼い眼で、《東洋の血筋》である証の眼で、ずっと遠くの景色を……それは時をも超える遠くを……


しばらくすると、西の大陸が見えてきた。


「分かってる……ここでワールドエンドオーダーを起こすんだ……」


「未来は変わらない……」


エースはずっと何かを呟いている。

記憶を漁りながら、救いの道を探すが、そこに答えはなかった。


「あ……」


その景色はまさに地獄だった。

赤い血に染められた大地、その中心で咆哮を上げる悪魔。

全てが本当に繋がった。


「行くぞ……メアリー」


エースは深くフードを被る。

タナトスに顔を見られてはダメだ。

2人は加速し、タナトスに迫る。


(今だ……!)


エースはタナトスに右手を向け、道の力を発動させる。


3人は砂浜の上にいた。

エースは深く息を吸い、タナトスに近づく。


「ここで決着をつけよう」


「あぁ、いいだろう」


(タナトスは悪魔じゃない。

俺と同じで、一人の少女の為に戦ったんだ。

タナトスが悪魔なら俺も悪魔だ)


メアリーがタナトスに突っ込む。

タナトスも拳を大きく振る。

2人の拳が激突する寸前、世界が大きく揺れた。水の上に浮かぶ柱が全て発光する。


「これで、良かったのかな……」


直後、意識が現実に戻る。

現実に戻った瞬間、タナトスはこちらに襲ってくる。


『タナトス! 逃げろ!』


エースは道の力を“解放”させてそう叫ぶ。

タナトスは命令に従い、何処かへと飛んで行った。


「メアリー!」


「エース!」


エースとメアリーは空へと逃げる。

既に大爆発が始まっている。


「エース! 捕まって!」


メアリーはエースの手を握ると、体を包むような概念を創り、大気圏を突破した。

爆発の範囲から抜け、2人は顔を合わせる。


「なんなの!これ……一体何が起きてるの!」


メアリーは激しく困惑している。


「ごめん……メアリー、これしか無かったんだ……」


メアリーは泣き崩れる。

エースは爆発の方を見る。

その中心には、真っ赤に染った魂……《地球の魂》があった。


「……!」


あれに触れて、イブの力を掌握さえすれば全てが……しかし、エースはこの世界では道の力以外を持っていない。

たとえイブに出会えても、融合は不可能…… ましてやまた拒絶されるかもしれない……。


「それでも……行かなくちゃ……!」


エースはメアリーの制止を振り切って概念の外に出る。


「待って! エース! どこに行くの!」


息が詰まるような感覚がする。

呼吸ができない。


「ごめん……メアリー」


エースはメアリーに右手を向ける。


「君には幸せになって欲しい」


エースは魂の終着点に存在するメアリーの魂に触れ、エースの存在を記憶から消し去った。


「俺を……俺自身を道にすれば……擬似的に神になれる……!」


エースは力いっぱいに道の力を解放した。

自身を管として、道として、無限にも等しい魂のエネルギーを体に流し込む。

エースの体は発光し、力がみなぎり、呼吸を必要としなくなった。

背中からは光の翼が生え、宇宙空間での飛行を可能とした。


エースは凄まじい速度で地球の魂に迫る。

あと少しで接触できるという所で、蒼い水晶体に行く手を阻まれる。


「クソ……! イブ!!」


エースは蒼い水晶体から放たれる蒼い稲妻を 魂のエネルギーを使って創り出した防御壁で防ぐ。

そして光の鎖を蒼い水晶体に巻き付ける。

水晶体は色を失い、動きを止める。

逆に、エースの手から蒼い稲妻が放たれ、無数に存在する蒼い水晶体に向かって放つ。


「イブ! 俺に応えろ!」


その瞬間、エースの背中を稲妻が貫いたと同時に意識が現実に戻る。

現実でも同刻に、エースは何者かに背中を裂かれた。

それは紛うことなき正義の光を眼に灯したヘラクレスだった。

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