終焉への渇望
小鳥のさえずりが聞こえる。
野原の上で、タナトスは眠っていた。
太陽は、タナトスの心を浄化するかのように、体を照らしてくる。
タナトスの肩が少女に揺すられた。
タナトスはゆっくりと目を開き、その少女と目を合わせる。
「ニーナか、どうしたんだ?」
幼い少年の姿のタナトスは、体に付いた草をはらいながらそう聞く。
ニーナ、という少女はどことなくルイスと見た目が似ていた。
「もうすぐお昼よ、行きましょう」
ニーナはそう言い、手を差し出す。
タナトスはその手を握り引っ張られるように立ち上がる。
2人は、森をぬけた先のあるハウスへと戻っていく。
「あっ、タナトス! ニーナ!」
小さな子供たちが大はしゃぎで2人の元へと走ってきた。2人は子供たちと戯れながらハウスの中へと入っていく。
ハウスというのは、孤児院のことだ。
東西大陸戦争による捕虜たちの子供を集めた場所だ。
こじんまりとしたその孤児院は東の大陸にある。敵国の捕虜を守る行為は、禁忌とされていた。
そんな中、このハウスのママ、正確に言えばニーナの実母が国に内密でここを運営している。
ニーナとママはこの中で唯一の東洋人だ。
「みんな、ご飯の時間よ」
ハウスの前の広場に集まる子供たちに、ママが声をかける。
その日は、先日ニーナとママが釣ってきたという魚が焼かれて出された。
味が濃く、歯ごたえのあるその魚はとっても美味しかった。
「美味しい? タナトス」
「うん!」
ママの言葉にタナトスは元気よく答えた。
その後、みんなでの勉強の時間となった。
ママは、【破壊こそが真の創造】という聖書と呼ばれる本に書かれていることをタナトスたちに説明していた。
ニーナとタナトスは勉強の時間の後、書斎にいた。
「これ見てよ! 怪獣の絵本! 」
ニーナが嬉々として絵本を取ってくる。
その本には、羽の生えた虎、長い牙を持つ巨大蛇、無限に毒を吐く巨大蜘蛛などが美しい絵で描かれてた。
「すごいな〜ホントにいるのかな」
「きっといるよ! 世界は広いんだ! この本に載ってるのぜーんぶ、この世界のどこかに居るんだ」
2人は夕飯の時間までその本を読んでいた。
そんな生活が何年続いただろうか。
少年だったタナトスは青年となっていた。
「それじゃ、行ってくるよ」
そう言い、タナトスは仕事へと向かった。
今ではタナトスは身分を隠して街で工事の仕事をしてお金を稼いでいる。
「今日は、あいつらにお土産でも買って帰るか」
タナトスは意気揚々と街へと出た。
夜になり工事の仕事を終え、ハウスに帰ると、ニーナが出迎えていた。
「おかえり、タナトス」
「待っててくれたのかニーナ」
ニーナは少し照れて「うん」と言う。
タナトスはニーナにお土産と言い、街で買ったアクセサリーを渡した。
そのアクセサリーは兎の可愛らしいものだった。
「みんなにもお土産があるんだ、きっと喜ぶぞ」
その翌日、タナトスとニーナは書斎にいた。
「なぁ、ニーナ。俺たちへの差別ってのは一体いつ終わるんだ……」
「……分からない、少なくともすぐにはなくならないと思う。今も東の大陸の国々の連合国は西の大陸の植民地化を進めている」
「……はぁ、こんな世界狂ってるよな。俺たちはただ、西に生まれただけなのに……」
「このハウスについて、黒い噂を聞いた。隣国のイザベル王国の長女アナスタシアが出兵し、死亡したそうだ」
「その戦争には多くの少年兵が投入された。このハウスから去った数人も、連絡が途絶えている」
その言葉にニーナは動揺する。
「そんな……ママはそんな事しないよ」
「俺もそう信じてる……いや、そう信じたい」
それから数日が経った。
ニーナとタナトスは街に買い物に出ていた。
街は多くの人で賑わっていた。
「あっ……」
タナトスが白い髪をした少女とぶつかってしまう。
「ごめんなさい……」
少女はそう言い、付けていたフードを深く被り、走り去っていった。
2人は、街のレストランに来ていた。
そこでランチを食べていると、何やら後ろの席から不穏な話が聞こえくる。
「これだ……巷じゃハウスって呼ばれている」
「ここか……」
「あぁ、噂じゃ隣国のイザベル王国に少年兵を斡旋してるって話だ」
根も葉もない噂か……そう思っていた。
しかし、男の放った言葉にタナトスの背筋が凍る。
「これだったら、捕縛ができるな。このハウスにいるのは西の大陸の捕虜の子供たちだろ。直ぐに本部に話そう」
タナトスは勢いよく立ち上がり、ニーナの腕を掴んで店から走り出す。
「おっお客さま……!」
お代を乱暴に置き去り、ハウスへと走る。
「どうしたのよ……タナトス」
「……はぁはぁ、あれは……当局の男たちだ」
「帰り際にチラッと胸のバッジを見た。ここが……ハウスの皆が捕まっちまう……!」




