3話
何度も起きては眠りにつくを繰り返していた気がする。
時折窓らしきとこのカーテンから日が入っていないことを確認できた記憶がある。
私は昼を終えた頃に、自分の形を取り戻してここにきたから、その日の夜だったのだろうか…時間がどれだけすぎて眠っては起きてを繰り返していたのかは聞かないとわからない。
「……」
優しく撫でられる感覚で意識が戻ってきた。
何回目の覚醒だろう。
「目、覚めた?」
「……」
声を出そうとしたら息が出るだけだった。
彼は困った顔をして、熱があるから休んでてと言う。
熱に浮されてるからこんなにも頭がぼんやりするのだろうか?
「水飲む?」
ゆっくり起こしてもらう。
体の痛みは少しやわらいできていて、あと少し休めば動けそうだ。
ただ意識がまどろんでいて眩暈がやまない。
彼の手助けで水を飲み再びベッドの中へ。
天蓋つきだわ、このベッドと一人どうでもいいことを考えた。
本当は何が起きてるか聞きたいところだし、はじからはじまでわからなくて困ってる。今私は御伽草子の世界にいるんじゃないだろうか。
彼が優しく撫でる。
あぁ、やっぱり私は彼を知ってる気がする。
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ひどくぼんやりしている。
眠い。
今まで寝てたことに気づいて、今いる場所が家でないことも気づいた。
和室、窓からは美しい自然の風景に太陽の光が差し込む…だいぶ森深いな。
私、旅行にでも来てたっけ?
土日でも休み取った日でもなかった気がする。なんでこんなとこにいるんだろう。
眠気が消えず、また畳の上に寝転がる。かけるものはどこから出したんだっけ?
包まると肌触りがよくてゆるゆる眠りについて行く。
しばらく時間が経った後なのか、すぐなのかわからない。
襖の開く音がした。誰かが入ってくる。
うっすら瞳を開けるけど眠気が勝ってほとんど覚醒できてない。
私の傍に座ったのか近くに感じる。
「起きた?」
「……」
聞き心地のいい低い声、男性だった。けどこの声には記憶がない。
眠い。
彼の手が私の髪を撫でる。頬を撫でる。
優しい手つき。懐かしく感じるのは気のせいだろうか。
「起きてないか」
ひどく困った顔がぼんやり見えた。
貴方は誰、ときく間もなく強い眠気がまたきて、私はまた眠りについた。
「……」
今度は今までの中できちんと起きた方だろうか。
夢現、あの人が傍にいたことだけは確かに覚えてる。
優しく私を撫でる手と、時折垣間見た困ったような顔。
ここにきて私は理解した。
彼のことは全く知らない。けど彼によってここに連れた来られたことはわかる。
端的にいえば誘拐と監禁だろう。
けど、この人には嫌悪感や恐怖感を抱いていない。それどころかこの人を知っている気がしてきた。好意的な気持ちすらもあるんじゃないかと思えてる。これはこの人が何かしたのか?
わからない。けど、目の前のこの人は笑顔でいるのにやっぱり困っている。困っているというより、悲しんでる?無理をしてる気がした。
「お腹減った?ご飯きてるけど」
「……」
部屋には豪華な食事が並んでいた。
確かに寝続けてたけどお腹は減っている。不思議なものだな。
「食べる?」
「…うん」
彼と向かいあってごはんを食べる。私はまだ眠気が残っててうつらうつら食べてる。
そんな、私を見ながらやっぱり困った顔で笑っている。
なにか大事なことを忘れている気がする。
食事中は終始会話はなかった。当たり障りないことにイエスノーで回答してたような気もするけど、それも定かではない。
食べ終わって彼にお風呂に入る?といわれ、部屋着きの露天風呂に湯浴みをきてはいった。
そこで私はようやっと目が覚めた。
澄み渡る夜空に輝く満点の星空。広すぎる露天のはじまで行けば、より空を感じられる。
こんな夜空、今まで見たことない。
「はぁ…」
溜息しかでない。言葉もでなかった。
程なくして、空に花火が上がる。近くでお祭りでもやっていたのだろうか?
星空に負けない大輪の花火。なぜ彼は私をこんなところへ連れてきたのだろう?
折角だ、彼を呼びに部屋に戻る。誘拐犯へそんな気遣い必要なのか?と思いつつ戻ると彼は窓際まできていた。
「…花火!」
まだ寝ぼけてるのが残っているのか、単語だけしかでない私の語彙力。
それでも…私の言葉と大輪の夜空を見て、そこで彼はやっと、本当にやっと、混じりけなしに微笑んだ。
その顔になにか引っ掛かりを感じる。
彼について何かを見落としてる気がする。
見上げる彼に私も合わせて見上げる。
大輪の花火と満点の星空。旅行できてたらパーフェクトだ。
花火が終わり私は露天風呂からあがって彼に見合った。
もう困った顔に戻っていた。
「ねえ」
「なに?」
「しないの?」
何故この言葉がでたのかわからない。
本当はもっと違う言葉、私を誘拐してどうしたいとか、そういうことをききたかった。出た言葉は端的だ。
けど、誘拐には目的が絞られる。
特にこの国では、お金、暴力及び殺害、性交渉、監禁が主軸だろう。
身代金をもらえるほどの家に住んでないし、監禁の可能性もあるが宿は足がつきやすい。転々とすることで攪乱できるけど、それならわざわざ露天風呂付の豪華な部屋にすることもないし、人が大勢集まるとわかっていながら、花火があがるような場所も選ばないはずだ。殴る蹴るの力による支配や、強い言葉による支配とかそういう暴力はない。終始彼は優しく私を撫でるだけ、恋人のように。
そうなると彼が求めるのはニュースでよくある猥褻目的かという考えに行き着く。本当はそんなことしないんだろうと思ってはいるのだけど。
そもそも彼自体に嫌悪感を抱いていない。もしかしたらとっくに私は彼の支配下にあるのか。何かされた後なのかもしれない。
「……」
彼は答えなかった。けど、表情は明白だった。
泣きそうになって何かに耐えるように私を見詰めている。あぁ、この人はいい人だなとそんなこと思って、両手を広げた。
まるで抱きしめてと言わんばかりに。
彼は私を抱きしめた。濡れるのをおかまいなしに。きつく。
「…しない…できない」
搾り出すように苦しんだ回答だった。
「…うん」
「会ってはいけないとずっと耐えてきた…でも無理だったんだ…最後だけでもって…」
彼は私を知っている。
なんだろう、この違和感は。
「……愛してる」
優しく髪を頬を撫でる。困った顔で、彼は私を見つめ、唇をよせた。
触れるだけのキスだった。
初めてのはずなのに懐かしい。あたたかい感情で満たされていく。
あぁ、やっぱり、
私、彼のこと知ってるんじゃない。
「ありがとう、僕は行くよ」
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目が覚めた時、私は新幹線の座席に座っていた。
東京行きだ。
あれ、私出張でもあった?旅行にいってたっけ?
随分体が軽い。
ぼんやりしてるのに満たされている。
やっぱり旅行?けどどこに行ってたか記憶がない。どういうことだろう。
端末を確認する。
平日…わざわざ休みをとったのか?よくわからないまま、私は窓の外を眺める。
星空を見た気がした。




