性善説の人
すっかり秋の空気が漂うようになった涼しい季節。
そんな中理津子は街でちょっとした人助けをした様子。
その帰りに人助けで関わった人と少し話す機会があったようだ。
関わった人というのは分かりやすい不良っぽい人だったようで。
「はい、アイス、奢りだから気にしなくていいよ」
「ああ、にしてもあんた人がいいな」
「そういうお兄さんもなんだかんだでいい人だと思うけどなぁ」
そんな人助けの際に関わった分かりやすいヤンキーっぽい青年。
ヤンキーっぽさはあるが性根はそこまでのワルでもないようす。
「お兄さんって不良なの?」
「ストレートに聞いてくるな…まあそうなるんじゃないかな」
「ふーん、なんかワルに憧れてるとかあるの?」
「そんな事はないな、でも家庭環境は複雑でよ、なんというか真面目だと疲れるんだ」
「そっか、でもそんな態度でも人助けしてるだけでもいい人だよね」
そのヤンキーみたいな人は見た目に反してそこまでのワルではない様子。
とはいえ家庭事情は複雑なようで、俗に言う反抗期なのかもしれない。
真面目にやってると疲れる、それはヤンキー君の本音なのかもしれない。
「…ねえ、ヤンキー君は性善説とか人間の悪意ってどう思う?」
「難しい事を聞くな、でも困ってる人を助けるのは何も悪い事じゃないと思うぜ」
「そっか、それが言えるならワルになっても悪にはならなさそうかも」
「姉ちゃん、なんで俺なんかに奢ってくれたんだ?」
「それはお兄さんが人助けをしてたから、あたしも手伝ったから共同作業の報酬だよ」
そういうところは理津子らしいとも言えるかもしれない。
とはいえヤンキー君は家庭の事情もあり、複雑な心境ではある様子。
その家庭事情については聞かないとしても、今にしては珍しい性善説なヤンキーのようだ。
「でも人はいいよね、そういう人はあたしは好きだよ」
「なんつぅかさ、亡くなった婆ちゃんが言ってたんだ、いい事をすればいい事が返ってくるって」
「いいお婆ちゃんだったんだね、ヤンキー君がいい人になったのも分かるかも」
「でも世の中真面目な奴やいい奴ばっが損をするのが納得いかねぇんだ、俺もそんな奴だよ」
「ヤンキー君は昔は真面目な人だったっていう事かな?」
そのヤンキーも口ぶりからして昔はいい人で真面目だったのかもしれない。
だが真面目にやってると疲れる、その言葉が彼の人生を表しているのかもしれない。
ヤンキーのように振る舞っていても、性根にある善性までは隠しきれないという事なのか。
「でもさ、それでそんなツッパリみたいな格好しても、性根は隠せてないよね」
「そうなんだよな、見た目だけでもワルって思われたい、そんな気持ちがあるのかもな」
「ヤンキー君って育ちがいいのだけは分かるかも、見た目はヤンキーでも中身はいい人だし」
「姉ちゃんは買い物帰りなのに、時間取らせて悪かったな」
「別にいいよ、普段から買い物帰りに寄り道してるし」
そんな理津子も性善説な性格なのは嘘ではない。
こんな見た目ヤンキーでも性善説で生きている人がいるのは驚きだった様子。
異世界でも性善説を持つ人はいるという事に不思議と安心したようだ。
「でもヤンキー君って人の悪口とか言わないタイプでしょ」
「悪口っていうか、罵倒ぐらいはするさ、でも陰口だけは言わないって決めてるからな」
「いい人だねぇ、そんないい人だけど真面目に生きてると疲れるって感じるのか」
「真面目な奴やいい奴ばっかが損をする、そんな世の中をどうにかしたいのさ」
「なんというか精神的に成熟してるなぁ」
ヤンキー君の心の成熟も嘘ではない様子。
家庭環境が複雑だからこそ、どこか達観してような性格になったのか。
ヤンキーなのに達観した性格というのも不思議なものだ。
「あたしはヤンキー君みたいな人は偉いと思うよ、世の中捨てたもんじゃないよね」
「やめてくれ、照れちまうじゃねぇか」
「とはいえ真面目な奴やいい奴ばかりが損をする世の中か」
「なんでそんな世の中なんだろうな、昔は真面目だったからなおさら身に沁みてるんだ」
「やっぱり昔はいい人だったのか」
ヤンキー君の過去に何があったのか。
それは過去の経験がこの性格や人格を形成したという事なのか。
人は分からないものである。
「ヤンキー君はそんな格好してても精神的には凄く大人に見えるな」
「大人ねぇ、大人ってなんなんだろうな、俺には分かんねぇよ」
「そういう言葉が出てくる辺りがすでに大人の風格を感じさせるんだけど」
「そんなもんかね、でも少し吐き出せてちっとは楽になったよ」
「そっか、ならこういうのも悪くないのかもね」
ヤンキー君は年頃の青年にしてはどこか達観している。
家庭環境が影響しているのかは分からないが、複雑な何かがあるのだろう。
理津子も少しは見直したのかもしれない。
「さて、そろそろ帰らなきゃ、ヤンキー君もその気持ちは忘れちゃだめだよ」
「ああ、アイスありがとな、俺ももうちっとワルになってやるさ」
「あははっ、いいね、それじゃ機会があったらまたね」
そうしてヤンキー君と別れて家に帰った理津子。
そのヤンキー君も見た目の割に性善説の人であり、どこか達観していた。
人は育った環境や思春期に影響を受けたものが人格に大きく影響する。
真面目にやってると疲れる、それはヤンキー君がある種の悟りを感じていたのかもしれない。




