試作品と花見
先日約束したように帝の神社で花見をする事に。
そんな花見に際して弁当を持ち寄るのもいいが、今回はあえてそれはしない。
なお理津子が少し試作品のお菓子を作るというので、それをいただく事に。
花見は花を見るものではなく美味しいものを食べるもの、花より団子である。
「お待たせー」
「お待ちしていマシタよ」
「エミールは変わってないようで何よりだな」
神社に着いたらエミールが出迎えてくれた。
シートを敷くという事もせず、神社の縁側で花を眺めつつそれを出す。
「それはなんデスか?」
「いろんなパイを焼いてみたんだけど」
「これパイなんですか?見た感じはなんか不思議な感じです」
「右から桜もちパイ、信玄餅パイ、ずんだ餅パイ、八ツ橋パイ、みたらしパイだね」
「リツコが朝から気合い入れて作ってたんだよ」
作ってきたのは和のテイストのパイ。
形状は円形のそれではなく某ドナルドのような縦長の形状になっている。
こっちの世界でも名前が違うだけで食材が揃ったから出来たもののようだ。
「とりあえずいただいてみマスか」
「自信作なんだけど、味はどうかな」
「美味しい…この手のものは基本的に温かくして食べないので、新鮮です」
「ならよかった、それにしても相変わらずの満開だねぇ」
「ここの桜って咲いてる期間長くない?普通満開から数週間で散るよね?」
帝が言うにはここの桜は咲く時期が場所によってズレているらしい。
今いる場所の桜は今ぐらいに満開になるそうだ。
その一方で正面の石段のところにある桜は今はもう散ってしまったとか。
「桜は真正面のものは4月の頭には散りマスが、縁側にあるこの桜は今がシーズンなのデス」
「そういえばあたしの世界にも遅咲きの桜とかあったっけ、そんな感じなんだね」
「はい、なので今回はここでという事なんです」
「咲く時期が場所によって違うからお花見もある程度長く出来るのか」
「花は魔法の触媒として優秀なんだよな、桜でも試してみたいものだけど」
ロザリオ曰く魔法に使う触媒として花は優れているらしい。
魔法という技術は人界で発展した技術でもある。
異世界では魔法ではなく別の呼び方で似たような技術があると帝は言う。
「それにしてもパイをこんな感じに作るなんて面白いデスね」
「サクサクじゃなくてパリパリのパイに仕上げたからね」
「確かに普通のパイはサクサクですけど、これはパリパリですね」
「まさかこっちで信玄餅とか八ツ橋が作れるとは思わなかったけど」
「リツコの世界にある和菓子なんだよね」
どのパイも好評なようで、最初になくなったのは桜もちパイだった。
その一方で帝はずんだ餅パイを気に入った様子。
こういう和のテイストのパイは桜あんやずんだの今川焼的な食べ物なのだろう。
「それにしてもリツコサン、いろいろ考えマスね」
「あたしの世界のファーストフードとかを参考にして作ってるんだけど」
「ファーストフードでデザートまで扱ってるんですか」
「そういうのを参考にしていろいろ試す事は昔からやってるからね」
「りっちん、あたしが教えてからあっという間に上達したし、目分量のクセが悪いだけよね」
普段の料理でやる目分量のクセ。
それは塩などは料理のレシピ本にあるように適量やひとつまみといった表現のせいだ。
お菓子作りは分量を守らないといけない事からその逆でもあったからこそだ。
「それにしてもお花見をしながらパイもいいものデスね」
「お弁当だけがお花見でもないしね」
「そうですね、それにこのずんだ餅パイも美味しいですし」
「帝はずんだ餅パイが気に入ったんだね」
「まあこんな風に花見が出来るのも国が安定してる証拠だよな」
国が平和だからこそ花見が出来る。
ここは港町なので国の中では端の方にある地だ。
交通手段はあるものの首都からは遠い場所にある港町である。
「ふぅ、美味しかったデスね」
「そう言ってもらえると嬉しいよ」
「また来年も出来たら一緒にお花見してくれますか」
「そうだね、こっちの世界で働いてたらその時はまたしようか」
「僕がそう簡単には解雇しないから安心しておけ」
そんな花見も花より団子ではある。
とはいえ花を眺めるというのもまたいいものだ。
帝の神社の桜は時期に応じて少しずつ咲いていくのだから。
「しかし帝様も人付き合いをするようになって嬉しいデスよ」
「昔からは考えられないですよね」
「りっちんの不思議な魅力なのかねぇ」
「帝も胃袋を掴まれたのかもね」
花見を終えてからはまた屋敷に戻り夕食の準備などに戻る。
とはいえエミールが言うには帝も変わったのだと言っている。
理津子はあくまでも料理が好きなギャルでしかない。
料理で胃袋をガッチリ掴む力は本物なのかもしれない。




