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ミソサザイの歌  作者: 和泉ユタカ
第三章 〜 Songs of Wren
76/123

蝌蚪(前編)

 逢ふことも今はなきねの夢ならで いつかは君を又は見るべき(藤原彰子)


     1


 晩春の田んぼに行儀良く並んだ苗はまだまだ小さく水から頭を突き出しているだけで、無数の四角い水鏡は頭上に広がる青い空と白い雲を映している。穏やかなそよ風が水鏡に縮緬皺をつくり、鏡の中の雲を優しく揺らす。そんな長閑な風景の中、田んぼの隅にしゃがみ込んだ明人(アキト)は陽だまりに群れるオタマジャクシを観察していた。

「オタマジャクシってどれも似てるようだけど、よく見ると大きさや色とかそれぞれ微妙に違うんだな。面白そうなのがいたら連れて帰ろうっと」

 のんびりしているようで、いざ捕まえようとするとオタマジャクシは意外に素早い。ちょろちょろと稲の隙間を逃げ惑う黒い音符達を追い回しているうちに、群れの中に一匹、微妙に動きのずれたオタマジャクシをみつけた。

「なんかこいつ動きが変……怪我か病気かな?」

 浅い田んぼの水の中をふわふわと上がったり下がったりしているオタマジャクシをしげしげと観察する。

「あれ? なんか顔も微妙に違うような」

 もっとよく見ようと水面に顔を近づける。と、他の個体よりも二回り程大きな眼がきょろりと明人を見上げ、慌てたように稲の陰に隠れた。

「あ、あれ? 今なんか、オタマジャクシと目が合った気が――」

「カトだよ」

 不意に頭上から降ってきた声に驚いて顔を上げると、畠の横に生い繁る柿の枝がガサリと動き、一人の少年が飛び降りた。明人の前に立った少年の肩には猫か狐に似た不思議な動物が座っていて、金色の瞳を細めるようにして明人を見下ろしている。

「君、コウイチの息子だろ?」

「え? 光一って、僕の父さんだけど……」

 変な子だな、と明人が首を傾げた。僕と同い年くらいなのに、大人を呼び捨てとかって、どうなんだろう。不審気に口籠った明人を少年が目を細めるようにしてじっと見つめる。

「ふ〜ん、やっぱ似てるね。気付くべきでないモノに気付いちゃうとこも」

「え?」

「カトだよ。さっき見てたでしょ?」

「カト?」

 明人が再び首を傾げると、少年がふっと溜息を吐き、目にかかる艶やかな黒髪を邪魔臭そうに掻きあげた。女の子が羨ましがりそうな濃く長い睫毛に縁取られた、しかしやけに利かん気そうな大きな眼に睨まれて、なんだか少しどきりとした。

「君さ、コウイチの離れに色々と溜め込んでるでしょ」

「え? な、なんでそんなこと知ってるの?」

「……世界を知りたいと思うことは大切だけど、でも世の中には触れるべきでないモノもあるからね。あんまり変なモノには手出ししない方がいい。これは忠告だよ」

 それだけ言うと、少年は呆気に取られている明人を残して土手を下り、あっという間に何処かへ行ってしまった。残された明人が三度首を傾げる。

「なんだあれ、変な子だな。父さんのこと知ってたみたいだけど、村の子かな?」


     ❀


 陽がとっぷりと暮れてから家に帰った。都会で子供が遅くまで独りで遊んでいたりしたらご近所さんのヒンシュクを買いそうだが、田舎では余程危ない真似をしない限り、そんなにうるさい事は言われない。この近辺が特におおらかなだけかも知れないが、しかし街灯もない田んぼの真ん中では、陽が暮れれば子供達は自然と家路につくものだ。

「まぁ遅かったやないの。どこ行きよったんかと思うたで?」

 縁側に座って雑巾で足を拭いていると、通りかかった祖母に声をかけられた。やっぱり流石に帰ってくるのが少し遅過ぎたか。怒られるかと思ったが、「川にはまったりせんときよ?」と微笑む祖母の声は穏やかで、ほっと胸をなでおろす。

 祖父母と三人で囲む食卓はテレビもなく静かだが、居心地は悪くない。まぁあの(・・)家よりは、なんだってマシだろう。

「おう、明人。今日も遅うまで精出しとったやないか。なんぞええもん捕まえたんか?」

 祖父に聞かれて不意に黒髪の少年のことを思い出し、明人が肉じゃがに向かって伸ばしていた箸を止めた。

「おじいちゃん、カトって何?」

「カト? なんや、そんなもん知らんで」と祖父が首を傾げる。

「なんかね、オタマジャクシの一種みたいなんだけど」

「生き物やったら、あんたのお父さんの離れにようさん図鑑があるで、調べたら出とるんと違う?」と祖母が横から口を出す。

「うん、そうだね」

 祖母の言葉に明人が素直に頷いた。本当はネットで検索した方が速いけど、ここじゃ無理だし。

「そう言えばな、明人、さっきお母さんに電話したんやけどな、お母さん、夏休みまでには一度来るって言っとったで」

 何気ない調子を装った祖父の言葉に、明人が一瞬咀嚼を止めた。

「ふ〜ん、そう」

 一度来る(・・・・)んだ、迎えに来るんじゃなくって。興味なさげに煮物を箸で突つく明人の表情を祖母がそっと気遣うように窺う。

「明人も寂しいかもしれんけど、夏休みなんてすぐやで、堪忍して待っててあげえよ」

「寂しくなんかないよ。僕にはおじいちゃんとおばあちゃんがいるからね。それにここにいると色んな生き物が見れて楽しいし。お母さんも忙しいだろうから、別に無理して来ることないのにね」

 明るい口調を装ったが、己の言葉の端から洩れる毒は舌に苦い。祖父母が僅かに息を飲み、食卓の空気が不自然にちりちりと揺らいだ。その揺らぎに己の内側にある何かが共鳴しそうになり、明人が慌てて箸を置いた。

「ご馳走さま。離れで図鑑調べてくるね」

 祖父母に何か言われる前に、逃げるように母屋から駆け出す。

 母屋の裏には小さな竹藪がある。そこにひっそりと隠れるようにして立つ離れは明人の城だ。こぢんまりとした離れの中には大小様々な水槽や虫籠、幾つもの古い段ボール箱が所狭しと並べられている。そして天井近くまである大きな本棚を埋め尽くし、床にまで溢れ出る図鑑、辞書、外国語の本。全ては生物学者である父の光一が若い頃に集めたものだ。

 早速一冊の古い辞書を手に取り、『カト』を調べてみる。


 《 蝌蚪(カト)――オタマジャクシの別名。春の季語 》


「オタマジャクシに手出しするなって、どーゆー意味? 毒でもあるのかな?」

 不思議に思い、更に図鑑でオタマジャクシについて調べる。しかし成長したヒキガエルならいざ知らず、オタマジャクシにそんな記述は見当たらない。ヒキガエルのオタマジャクシには毒があるのだろうか。手元の古い図鑑ではそこまでは解らなかった。

「変な子……」

 自分とあまり変わらない年頃の、しかし妙に冷めて大人びた少年の眼を思い浮かべる。春から通っている村の小学校で見かけた覚えはない。一度見たら忘れようのない、独特な雰囲気の子だった。

「まぁいいか。よし、明日はあのオタマジャクシを捕まえてやろう」

 一旦そう決めるとなんだか急にワクワクと気持ちが浮き立った。太古の昔から少年の中に流れる狩人の血が沸き立つのだろうか。

 明日が待ち遠しい。久し振りにそう思いつつ、祖母が干してくれた温かな布団に潜り込んだ。



     2


 オタマジャクシの身体は柔らかく傷つきやすい。上手に捕まえるには結構コツがいる。網目の細かい滑らかなプラスチックのザルで下からそっと数匹ずつすくい、丁寧にバケツに移す。何回かそれを繰返し、バケツの中を確認する。青いプラスチックの異世界に囚われ、おろおろと泳ぎまわる十匹程の群れの中にあのオタマジャクシを見つけた途端に胸が高鳴った。バケツを揺らし過ぎないように気を付けつつ急いで離れへ帰り、バケツの水と共にオタマジャクシ達を水槽に移す。そして浮草、餌になりそうな落葉、少量の鰹節などを入れてやる。明人にとっては手慣れた作業だ。

 初めは落ち着き無くうろうろしていたオタマジャクシ達は、数分もしないうちに餌を食べ始めたり、浮き草の陰に隠れたりと中々の順応力をみせた。ただ一匹、あのオタマジャクシだけが相変らずふわふわと無目的に水の中を漂っている。

「なんだか『お玉杓子』っていうより、人魂みたいだな、こいつ」

 大きな頭とゆらゆらと揺れる尻尾に、明人がふと首を傾げた。


     ❀


 オタマジャクシを捕まえてから数日が経った。

「こいつ、餌食べてるとこ見たことないな。大きさも変わらないし」

 餌を食べるわけでもなく、水草の影に隠れるわけでもなく、一風変わったオタマジャクシはのんびりと水槽の陽だまりを漂っている。その妙に幸せそうな顔を見ているうちに、以前通っていた学校のクラスメイトの加藤君を思い出した。加藤君のおっとりと幸せそうで人の良さげな顔は、なんとなくこのオタマジャクシに似ている。

「よし、今日からお前の名前は蝌蚪(かと)のカトー君だ」

 割り箸の先につけたご飯粒をオタマジャクシの前にそっと差し出してやる。

「カトー君、お腹空いてない?」

 オタマジャクシが驚いたように、大きな眼できょろんと明人を見上げた。


     ❀


「おっかしいなぁ」

 水槽の前で明人が頭を捻った。

「もう一ヶ月以上経ってるのに、カトー君だけ全然変わらない。他の子はみんな大きくなったり足が生えてきたりしてるのになぁ。ウシガエルでもなさそうなのに、なんでコイツはこんなに成長が遅いんだろう?」

 水槽を覗き込み、のんびりと漂うオタマジャクシの尻尾を指先でつついてみる。

「カトー君、君は自分が他の子と違ってるの、わかる? 君だけ足が無いんだよ?」

 ふわふわと漂っていたオタマジャクシが大きな眼できょろりと明人を見上げると、驚いたように周囲のオタマジャクシに目を向けた。そして、何やらまるで焦っているかのようにクルクルと忙しく円を描き始めた。

「お、カトー君がこんなに動くなんて、珍しい――」

 突如動きを止めたオタマジャクシが、むーんと踏ん張ったような顔をする。数秒後、ぽきゅん、と後脚が一本飛び出した。

「……え?」

 さらにオタマジャクシがぷるぷると身体を震わせ踏ん張ると、もう一方の足もぽきゅんと飛び出す。

 驚きの余り声も無い明人の前で、オタマジャクシがつくづくと自分の足を眺め、続いて周囲を見回すと、安心したような表情で再びふわふわと漂い始めた。



     3


 オタマジャクシを飼い始めてから二ヶ月以上が過ぎようとしていた。大半のオタマジャクシは既に蛙となり、田んぼに放してやった。残る数匹も一週間以内には蛙へと変態しそうだ。そう、カトー君以外は。

 他のオタマジャクシ達に前脚が生え始めた頃、明人は試しにカトー君に声をかけてみた。すると、やはり少し考えた後、カトー君はぽきゅん、ぽきゅんと前脚を出して見せた。しかしカトー君の前脚は蛙のそれとは少し違っている。明人には、なんだかそれがヒトの腕に似ているような気がして仕方がない。

 多くの場合、オタマジャクシは前脚が生えると直ぐに尻尾が短くなり、完全に尻尾が消える前に水から上がり、オトナの蛙への一歩を踏み出す。しかし前脚の生えたカトー君の尻尾は無くならず、相変らずのんびりした顔でふわふわと水の中を漂っている。

「カトー君、君は水から上がらないの? 早くしないと、みんないなくなっちゃうよ?」

 明人が水槽を覗き込むと、カトー君は何やら嬉しげにいそいそと泳ぎ寄ってきて、水に入れた明人の指先をつんつんと突つく。金魚や鯉なども人に懐くがカトー君はそれ以上だ。放って置くと明人の指にしがみついて離れなくなる。

「うーん、可愛いんだけどねぇ」

 明人の心境は複雑だ。出来る事なら自分に懐いているカトー君をずっと飼っていたいが、しかしカトー君はどう考えてもどこか不自然だ。餌を食べないカトー君がある日ぽっくり死んでしまうのではないか、という不安もある。カトー君を見つけた日、自分に声をかけてきた少年をふと思い出した。

「あの子なら何か知っているかも。でもあれ以来見かけないし、名前も知らないし……」

 如何に人の少ない田舎といえども、名前も知らない人間を探すのは難しい。

「そうだ、父さんの観察記録になんか書いてないかな?」

 明人が部屋の隅に積まれた段ボール箱を開けて、何十冊ものキャンパスノートを取り出し、一冊ずつ調べ始めた。黄ばんだ手書きのノートには、様々な動植物の丁寧な覚え書きや絵がぎっしりと詰まっている。好きこそ物の上手なれと言うが、父は子供の頃からずっとこうして動植物の観察を続け、そしてそのまま生物学者になったのだろう。

 一時間近くかけてダンボール箱の一番下から『両生類』と表紙に書かれたノートを発掘した。その中にオタマジャクシの他に蝌蚪というページを見つけてどきりとする。


 《 雲うつすあおき湖沼に蝌蚪ありて 空におよぐと思いざらまし 》


「……え? なにこれ? これだけ?」

 父が創ったのだろうか。たった一行書きつけられた短歌に明人が首を捻った。

 そのまま夕方まで父のノートや本を調べたが、結局それ以上は何も見つけることは出来なかった。諦めて母屋に帰ると、何やら賑やかな笑い声がする。台所を覗くと、父の弟の光司が椅子に座ってビールを飲んでいた。

「おう、明人。どないや、田舎暮しは?」

 光司が大きな手でバンバンと明人の肩を叩く。いかにも学者風にすらりとした父に比べ、父の弟はがっしりと肩幅も広く、明人を叩く手はまるで野球のグローブだ。

「中々快適だよ。ここだと自由研究もすすむし」

 肩にぎゅうぎゅうと巻きついてくるグローブをさりげなく外しつつ、つまみの枝豆に手を伸ばす。

「研究ってなんや?」

「虫とか、色んな生き物を集めて観察してるんだ」

 祖母が煮物の入った器を食卓に並べながら、「ほんに明人は光一の子やで。光一が昔しよったように、離れにようけ虫やら集めとるで」と懐かしげに眼を細めた。しかし祖母の言葉を聞いた途端に光司がビールに噎せた。

「は、離れやと?!」

 激しく咳き込んだ光司が不意に声をひそめると、内緒話でもするようにテーブル越しに身を乗り出してきた。

「……気いつけえや、明人。離れには座敷童子が出よるで」

「は?」

「いや、あれは座敷童子っちゅうか、なんや、もうちいと怖いもんやな。俺はアイツが苦手やったけどな、兄貴はガキの頃からアイツとよう遊んどった」

「……」

 何というか、返事のしようがない。明人がしらけた顔で光司を見た。父さんも変わったところがあったけど、その弟もかなりの変わり者かもしれない。祖母も呆れたように頭を振る。

「光司は昔っから怖がりぃや。いい歳してアホなことゆうとらんと、ご飯やで。はよ、おじいさん呼んできたり」

 光司の朗らかな笑い声とお喋りで、久し振りに明人の箸も進んだ。夕食もあらかた終わった頃、祖父が軽く咳払いすると何気ない口調で明人に話しかけた。

「明人、明日やけどな、光司も休みやし、丁度ええからお前のお母さんを迎えに行ったろうと思うとるんや。お母さんも電車で一人で来るより楽やろうし」

「ふ〜ん」

 ……そうか、なるほどね。それで光司叔父さんが来てるのか。もう七月だもんな。

「明人も一緒に行くか?」と光司が尋ねられ、小さく首を横に振る。

「ううん、やめておくよ。どうせすぐ会えるし、三人じゃあ叔父さんのトラック、狭いしね」

 ごちそうさま、と箸を置き、自分を見つめる大人達の視線から逃れるように食卓を立つ。背中に痛いほど視線を感じ、背筋が火傷したようにチリチリした。

 そんな目で見ないで欲しいと密かに唇を噛む。そんな、痛ましげな目で見られなければならないほど、僕は可哀想ではない。そんな筈はない。己の胸の内で何かが軋んだ音を立てる。

 逃げ帰るように離れに戻り、薄暗い蛍光灯に照らされるオタマジャクシの水槽に手を浸す。生温かい水が意思を持つ生き物のようにぬるりと指先に纏わりついた。カトー君がいそいそと指先に寄ってくるのを眺めながら、自分の生まれ育った都会の家を想う。

 母と二人だけの食卓。二人分にしては多過ぎる料理。やけに白々と明るい電球が照らし出す、テーブルクロスについた小さな染み。何かをポタリと落としたような薄い色のそれは何度洗濯しても決して消えることはなく、じっと見つめているとアメーバーのようにもぞもぞと動き出しそうで気味が悪く、明人はいつも慌てて目を逸らす。居間で付けっ放しになっているテレビから流れる笑い声が唯ひたすらに遠い。チラチラと光るスクリーンの中で見ず知らずの人間が立てる虚ろな笑い声に堪えられず、思わずテレビを消せば、後に残るのは耳が痛くなるような静けさだけだった。

 その虚ろな空間を埋めようと、明人は話し続ける。けれども幾ら懸命に話そうと、明人の話に小さく相槌を打つ母は明人の話など聞いてはおらず、それどころかその耳には何の音も届かず、その眼はいつも明人を通り越してどこか遠くを見つめていた。

 そう、どこか遠く、白く吹雪く空を。切れたザイルを。父の消えた雪山を。

 父を待つ母の影に、独りぼっちという言葉の意味を知った。母は独りぼっちだった。明人も独りぼっちだった。独りぼっちがふたり、ふたりぼっち。

 生温い水槽の水を弄ぶ明人の頬を歪んだ笑みが翳めた。

『誰も独りで生きてゆくことはできない』とよく父は言った。ならば教えて欲しい。父が帰ってこない家で、ふたりぼっちの僕と母は、一体どうやって生きていけばよいのか。ふたりぼっちは独りぼっちよりも孤独だった。だから祖父母の家に預けられることが決まった時、僕は母を気遣う振りをしながら、誰にも知られることのない心の奥底で、本当は密かにほっとしたんだ――

「イタッ!」

 不意に指先に走った痛みに驚いて水槽から手を引いた。指先に針で突いたほどの小さな傷がある。みるみるうちに赤い雫が膨らみ、ぽたりと滴った。畳に付いた小さな赤い染みは、ぞっとするほどテーブルクロスの染みに似ている。水槽のガラス越しにカトー君がじっと自分を見つめているような気がして、なんだか少しカトー君が怖くなった。

 ――明日。

 指先に滲んだ血を吸いながら考える。

 明日、あの男の子を探しに行こう。



(To be continued)

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