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ミソサザイの歌  作者: 和泉ユタカ
第三章 〜 Songs of Wren
25/123

紅桜(前編)

願はくは 花の下にて春死なむ その如月の望月のころ (西行)


挿絵(By みてみん)


   プロローグ


 僕を産んだ母は、僕が赤ん坊の時に死んでしまった。だから、僕が母と聞いて思い浮かべるのは、僕が三つの時に家に来た新しい母の顔だ。そのひとは、若く、美しく、甘い匂いがして、そして僕を見つめる目は優しく、僕は一目でそのひとに夢中になった。

 母が来た日、祖父が満足気に僕の頭を撫でると呟いた。お前にも弟妹が必要だから、これで一安心だ、と。


 その夜、僕は夢をみた。我が家の広い敷地には大きな塚があり、そこに花をつけぬ桜の大木がある。しかし僕の夢の中で、決して咲かないはずの桜は満開だった。そしてその音も無く散る無数の花弁の下に、紅桜の襲を着た綺麗な女の人が座っていた。その人は僕を見ると幽かに微笑み、何事か囁いた。その時僕は不意に桜の花が真っ赤であることに気付き、何故かとても恐ろしくて目が覚めた。


「どうしたの?」

 隣で寝ていた春樹叔父さんが起き上がると僕の顔を覗き込んだ。

「怖い夢でもみたの?」

 春樹叔父さんは僕の父さんの弟で、でも父さんとはすごく歳が離れていて、僕の兄さんと言った方がいいくらいだった。厳しくて近寄り難い父さんと違って、春樹叔父さんは女の人のように綺麗で、優しく、そして身体が弱かった。春樹叔父さんに僕はたどたどしく夢の話をした。

「桜がね、咲いてたの。着物の女の人がいたの。それでね、桜がね、真っ赤で……」

 叔父さんは震える僕をそっと抱き締めると、優しく囁いた。

「……大丈夫だよ、勇人。すべて夢だから。醒めればすべて忘れられる……」



 しかし、あの夜、目の裏に焼きついたあの桜の紅さを、俺は忘れたことはない。


 ……俺は桜がコワイ。



     1


「脱出成功」

 壊れかけた裏木戸を抜け、実家の広い敷地の周りにめぐらされた塀の外に出ると、美春(みはる)が悪戯っぽく笑ってぺろりと舌を出した。勇人(ゆうと)がそんな妹の服装をもう一度チェックする。ブラウスに厚手のカーディガン、ハーフパンツ、ハイソックス、日除けのためのツバの広い帽子。勇人には立ってるだけで汗ばむような春の陽気だが、妹のために一応薄手のジャケットも持ってきた。美春は身体が弱い。風邪を引かしたりしたら、もう二度と人目を盗んで家を抜け出すことなんて出来ないだろう。

 妹と手を繋ぎ、家から歩いて二十分程の小さな児童公園へ向かう。

「ブランコ空いてるといいね~」と美春が歌うように言う。

「大丈夫だと思うよ」と勇人が優しく妹に答える。

 美春には言っていないが、近くに大きなアスレチック公園が出来た。殆んどの子供達はそこへ行くので、日曜日の午前中でも古く小さな児童公園はガラ空きだろう。

「みぃ、あんま、はしゃぐなよ。公園に着く前に熱出るぞ」

 楽しげにスキップする妹に勇人が注意した。勇人は春から六年生、五つ年下の美春は一年生になる。しかし美春が勇人の小学校に入学することはないだろう。たとえ席だけ貰ったとしても、勇人と一緒に学校に通うことは恐らくない。良くて大学病院付きの特殊学校、自宅療養で家庭教師のみって可能性もある。春樹叔父さんがそうだったように。


 朝早いということもあるのだろうが、勇人の予想通り児童公園には誰もいなかった。美春と気兼ねなくゆっくり遊べて丁度いい。はしゃぐ美春のブランコを押してやり、シーソーの相手をしてやる。ジャングルジムは美春には難易度が高くてちょっと無理。

「次、滑り台やる~。お兄ちゃん、下に立って美春のことキャッチして~」

「ちょっとその前に休憩しよう。暑くなったからさ、ジュース買ってくるから、ここで待ってろ。みぃは何がいい?」

「りんご~」

「オッケ、くれぐれも一人で滑り台とかやるなよ」

 妹をベンチに座らせると急いで公園の外の自動販売機まで走った。寒いのも困るが、暑すぎても妹の身体には良くないのだ。

「こまめに水分補給、と」

 果汁100%のアップルジュースと、ついでに水とコーラを買って急いで公園に戻る。

「お待たせ~」

 公園に戻った途端、心臓が何かに鷲掴みにされたようにぎゅっと痛くなった。ベンチに美春の姿がない。慌てて滑り台やブランコを見廻した。と、滑り台の下の砂場で何かが動いた。

「みぃっ?!」

 駆け寄った勇人の眼に、砂場にできた蟻地獄のような穴と、そこから伸びる黒い煙のようなモノに足を引っ張られる美春の姿が映った。

「みぃッ!!!」

 勇人が美春の腕を掴むと、自分の手首につけていた数珠を千切って黒い煙のようなモノに投げつけた。煙が怯んだ隙に美春を砂場から引き上げる。咳込む美春を背後に庇い、勇人が黒い煙に向き合った。もわりと広がり威嚇するように勇人と美春を囲んだ煙にポケットから出した数枚の護符を投げつけたが、煙はふわりと護符を取り込み、動じる様子は無い。

「くそっ、護符じゃ煙鬼は切れないのかっ?!」

 煙が不意にどろりと濃くなり、二人に襲いかかった。


 その瞬間、ごうっという轟音が耳に響き、黒い煙が一瞬にして激しい炎と爆風にかき消された。炎が消えた所には、勇人と同い年くらいの黒髪の少年が立っていた。


「大丈夫? 怪我とかない?」

 少年が砂場に落ちていた帽子を拾うと砂を払って美春に渡した。

「だ、大丈夫……ありがとう」

 驚きに目を見張っていた美春が慌てて礼を言うと、少年が優しく微笑み頷いた。と、木陰から何やら小さな猫のような動物が駆け出してきて少年の肩によじ登った。美春がそれを見て目を丸くする。

「か、かわいい……猫?」

 少年がちょっと笑うと小動物の乗った腕を美春に差し出した。

「狐。(ほむら)って名前なんだ」

「噛まない……?」

「大丈夫。女のコは噛まない」

 美春がそのやけに小さな狐を撫でまわすのを、少年がにこにこと見守る。美春が満足した頃合いを見計らって少年が立ち上がった。

「もう行かないと。じゃあ、気をつけてね」

 少年が美春に手を振ると、その横に呆然として突っ立っている勇人にちらりと眼をやり、そのまま何も言わずに公園の出口に向かって歩き出した。我に返った勇人が慌てて少年を追いかけた。

「ちょ、ちょっと待てよ」

 すたすたと歩み去る少年の腕を勇人が掴んだ。

「ごめん、俺、今すっげー混乱してるんですけど。お前一体何者?」

 美春と話していた時の柔らかな表情とは一転して、少年がやけに硬質な視線を勇人に向けた。無言で勇人を見つめていた少年が、ややしてから口を開いた。

「……君のその力、あんまり使わない方がいいんじゃないかな」

「は? なんでお前にそんな事言われなくっちゃいけないわけ? ってゆーか、まじでお前何モン?」

 無言の少年に、勇人が不意に合点がいったような顔をした。

「あ、もしかしてアレ? お前も家業が退魔師とか? いや~、なんだ、同業者かよ。あ、俺、ツカノモリ・ユウト。塚を護る勇ましい人って書くんだぜ。ベタな名前で嫌なんだけどさ~、塚乃護家って代々三百年くらい続いてるエリート退魔師一家なんだよ。この道ではかなり有名なんだけど、知ってる? って言っても妹とかは見ての通り、全然退魔の力なんか無くってさ。まぁ俺は本家の跡継ぎとして色々と期待されちゃってるんだけどね。現代に生きる正義の味方みたいな? でもさー、生まれた時から将来を決められてるとか、本当嫌になるよなー。お前もわかるだろ? それも鬼退治とかさ、いかにオカルトブームでも、こんな職業リアルじゃぜってーモテないだろ」

「……べらべらとよく喋る奴だ」と少年の肩の狐が舌打ちする。

「え? 今なんか言った?」

 少年が黙って勇人に背を向けて歩きだした。

「あ、何? 同業者に挨拶もなしとかあり得なくない? ってゆーかさ、ケータイのアドレス交換しようぜ。同業者間のネットワーキングってやっぱ大切じゃね? おまけにお前って俺とタメくらいだろ? それって結構珍しくね?」

 しかし少年は勇人を完全に黙殺した。ムッとした勇人が立ち去ろうとする少年の腕を掴んだ。

「……なんだよ、つれねーな。ちょっと待てよ」

 少年が振り返ると、自分を睨む勇人を静かに睨み返した。

「……嫌ならやめればいいだろ」

「は?」

「鬼退治。嫌ならやめればいい。お前みたいな中途半端な奴には向かないよ」

「な、なんだと……?!」

 勇人が思わずカッとして少年の腕を強く掴んだ。と、勇人の手の中の携帯が突如火を吹いた。

「うわっ?! アチッ」

 燃え上がる携帯を放り出して後ろに飛び退いた勇人が、あっという間に灰となった携帯を呆然と眺めた。数秒後、我に返った勇人が火傷した手を握り締め、立ち去る少年の後ろ姿を睨んだ。

「……おい。名前くらい教えてくれたっていいだろ」

 少年が肩越しにちらりと勇人を振り返った。

「……煉」



     2


「……ったく、なんなんだよアイツ……」

 灰と化した携帯を足で踏みにじり、少年が立ち去った方角を勇人が睨みつけていると、突然美春が甲高い声で叫んだ。

「か、カッコいい~~♡」

「はぁ?!」

 なんたること。妹がうっとりした目で煉の去った方角を見ているではないか。

「おまっ、ちょ、カッコいいってアイツの事か?! お前、見てなかったのか?! あのヤロー、俺の携帯燃やしやがったんだぞっ」

「そんなの、お兄ちゃんがしつこいからでしょ」

 ツンとそっぽを向いた美春を見て、勇人が溜息をついた。鬼には襲われるし、手の水ぶくれはヒリヒリするし、携帯は完全燃焼の見本状態だし、今日はどうも厄日らしい。

「ったく、ドイツもコイツも、なんなんだよ一体……」


「は~、レン君、カッコ良かったな~♡ ホムラちゃんも可愛かったし」

 家に帰る道すがら、美春が空を見上げ溜息をつきつつ、何度もうっとりと呟く。

「みぃ、お前、男の趣味悪すぎるぞ。小動物を使って女子供の人気を得ようとするなんて、アイツは男の風上にもおけないヤローだ」

「なにそれ。ヤキモチ?」

「な、違うぞっ、みぃは知らないかもしれないけど、俺は学校では結構モテるんだぞっ! と、とにかく、俺は兄として絶対にあんな奴認めないからな」

 美春が不満気に頬を膨らませる。

「いいもーん、家族に認められない恋なんて、ロミオとジュリエットみたいでかっこいいもーん」こいつ、家で本ばかり読んでるから、ガキの癖に妙にマセテいやがる。

 裏木戸をくぐり抜け、家の裏の大きな塚 (というより丘)の前を通りかかった時、美春がふと塚の頂きの “咲カズノ桜” を指差した。

「あのね、あそこ、春樹おじさんがいるんだよ」

「……春樹叔父さんがあんなとこにいるわけないだろ。そもそもなんでみぃが叔父さんのこと知ってるんだよ。叔父さんはみぃが赤ん坊の頃に亡くなってんのに」

「だって、あそこにおじさんいるんだもん」

 不意に首すじに視線を感じ、ぞっとして思わず後ろを振り返った。しかし花の咲かない桜の樹には、鳥の影すらない。

「……いねーじゃん」

「今はいないよ。でも時々いるの」

「ハイハイ」

 みぃには殆ど霊力らしきものはない。本ばかり読んでいると、マセるだけじゃなくて変な想像力もつくらしい。勇人はそう自分に言い聞かせると、妹を急かせて足早に塚を離れた。


 急ぎ立ち去る勇人の背後に、ひらり、と一枚の紅い花びらが舞った。



     3


 日曜日の午後はいつも父親の監視の元、陰陽術の修行に費やされる。修行は毎日行っているが、日曜日は父親が家にいるせいで余計に厳しいものとなる。それは勇人が五歳の時、美春が生まれた頃からずっと続いている。


 屋敷の端にはちょっとした大きさの道場がある。結界が張り巡らされた道場の中心に父が香を焚き、魔魅穴、つまり異界から鬼を呼ぶ穴を開ける。そこから這い出てくる鬼を討つのが今日の修行だ。護符に力を込めつつ、ふと今朝公園で出会った少年を思い出した。

(……イケ好かない奴だったな)

 魔魅穴から這い出てきた鬼の爪をひらりと身軽にかわしつつ、黒い煙鬼を一瞬にして燃え尽くした少年の炎の眩しさを思い出す。

(……アイツ、凄い力だった。あいつは火炎術を使ったわけじゃない。あいつの霊気そのものが炎だったんだ。でもそんなおかしな霊気なんて、聞いたこともない)

 勇人が道場に放たれた鬼を次々と祓ってゆく。

(でも俺だって、修行すればあれくらい……!)

 勇人の投げた護符が鋭く鬼を切り裂いた。最後の一匹の断末魔の悲鳴を聴く勇人の眼の端に、ひらり、と紅い桜の花びらが舞った。


 勇人の放った力に父が僅かに頷いた。

「……今日はこの辺にしておこう。残りの時間は昨日教えた陰陽術の術式を復習するように」

「俺、もっとやれるよ」

「……霊力というものは使い続けたからといって強くなるものではない。肉体を休め、霊力を蓄えることも大切だ」

 道場を出て行きかけた父親が何事か思い出したように振り返った。

「……塚の桜の鉄鎖が錆びて腐ってきたから、そろそろ新しい鎖を巻かねばならん」

「ふ~ん」

「ふ~ん、じゃない。これは現当主であるお前の務めだ。塚乃護家始まって以来の大役、心しておけ」

 父の姿が見えなくなると、勇人は思いっきり伸びをした。

「あ~、俺、やっぱ父さんは苦手。なんかヤリ辛いんだよな。第一、俺の親の癖して無口過ぎだろ」

 軽く肩を揉むと道場の片付けに取り掛かる。法陣を消し、窓を開けて空気を入れ換え、飛び散った返り血を拭く。この返り血ってヤツだけはどうも慣れることが出来ない。祓った鬼の躰は殆どの場合綺麗に消滅するのに、なんで血の跡は残るんだろう。勇人は血の赤さが苦手だった。その色は、あの紅桜の夢に似ている。


 紅桜で、ふと優しかった叔父の顔を思い出す。

 父は春樹叔父さんが亡くなってから無口に拍車がかかった気がするし、考え込む事も多くなった。無愛想な父だが、やはり寂しいのだろう。ふと美春の笑顔を思い浮かべた。俺だって、みぃがいなくなったりしたら……。

 縁起でもないと慌てて頭を振り、気を取り直すと自室に戻り勉強に取り掛かった。


 二時間程勉強して、そろそろ辺りが暗くなった頃、廊下を誰かが忍び足で近付いてくる気配がした。そっと障子が開き、美春が顔を覗かせる。素早く後ろに誰もいないことを確認すると、子猫のように障子の隙間から部屋に入って来る。勇人のベッドの上に寝転がった美春が枕を抱えると、うふふ、と笑った。

「お兄ちゃん、今日、とっても楽しかったね~」

「……みぃ、公園でひとりにして、おまけにコワイ思いさせちゃって、本当ごめんな」

「そんなことないよ~。ちょっとびっくりしたけど、でもお兄ちゃんがきっとすぐ来てくれるから大丈夫だってわかってたもん」

「でも……」勇人がきゅっと唇を噛んだ。

「それにレン君にも会えたし」

 屈託なく笑う美春を見ながら、再びあの炎の凄まじい威力を思い返した。そうなのだ。もしあの時、偶然アイツがあの場に居合わせなければ、俺達は一体どうなっていたのだろう。いや、“俺達”じゃない、俺にとって大切なのは美春、美春“だけ”なのだ。

「……みぃ、疲れてない? 大丈夫か?」

「うん、お昼寝したし、大丈夫だよ」本当にそうだろうか。なんだか妹の頬はいつもより更に血の気がないような気がする。

「ねぇ、お兄ちゃん、明日ヒマ?」

「暇だけど、なんで?」

「あのね、美春、あした、本屋さん行きたいの。あとね、本屋さんの隣のペットショップに行きたい」

 本屋とペットショップは美春のお気に入りの散歩コースだ。獣は魔を呼ぶと言われて、家では決して飼っては貰えない。しかし動物好きの美春は放っておけば何時間でも仔犬や仔猫の並んだガラスケースを眺め続ける。

「う~ん」 と唸って勇人が考え込んだ。別に忙しいわけではないが、二日も連続で病弱な妹を連れ出して大丈夫だろうか。

「ねぇ、お兄ちゃん、一生のおねが~い」

 美春が可愛らしく首を傾げ、上目遣いでじっと勇人を見つめた。コイツの一生のお願いは少なく見積もっても七百回位聞いてるような気がする。別にいいけど。

「しょーがないな。じゃあ、明日俺が学校から帰って来たら、隙をみて庭のいつもの場所で待ち合わせしよっか。でも心配するだろうから、母さんには内緒な」

 美春が目を輝かせて頷きかけた時、勇人の部屋の障子が開いた。はっとして振り返った勇人に、母が冷たく厳しい目を向けた。

「……今のは一体何の話なの?」母が低い声で問いただす。「勇人、私に内緒で美春をどこに連れ出すつもりだったの?」

「ち、違うのっ、お兄ちゃんはなんにも悪いことしてないよ、美春が行きたいってお願いして……」

 慌ててベッドから立ち上がった美春を母がさっと抱きしめるようにして捕まえた。

「勇人、美春は身体が弱いのよ。この子を勝手に連れ出すような真似は二度としないで頂戴」


 オマエハ美春ニ近付クナ。 オマエガ近付ク事ダケハ許サナイ。


 口に出して言われなくても、勇人には母の心の声が聞こえる気がする。勇人が机の下でそっと拳を握りしめ、唇を噛んだ。

「……ごめんなさい」

 自分と決して目を合わせようとはしない母に替わり、美春がひどく悲しげに勇人を見つめた。

「……なんで?」と美春が呟いた。

「お兄ちゃんはなにも悪くないのに、どうしていつも謝るの……?」

 バシリと障子が閉められ、二人の足音が廊下を遠ざかってゆく。

 ひとつ溜息をつき、勇人が再び机に向かった。武術も術式も、学ばなければならない事は多い。でも俺は、必ず全てを完璧にモノにして見せる。俺は美春を守るために強くなる。俺は、美春のためだけに……。


 俯いた勇人の耳に、いつまでも美春の呟きが残った。


(To Be Continued)


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