7話 薬屋でポーション作り
ギルドで受けたクエストをすべて終えた俺は、西区にある薬屋で下級ポーション作りのクエストを受けていた。
何故、薬屋でポーションを作っているのかと言うと、配達で道具屋に行った際に、そこの店主から頼まれたからだ。道具屋の店主曰く、薬屋の店主がギックリ腰を発症して、ポーションが作れなくなってしまったらしい。
……ポーション飲むか、患部に振り掛ければ治るんじゃ…?
そう思った俺に、道具屋の店主は笑いながら「あの頑固者は、ギックリ腰じゃポーションを使わないんだよなぁ〜」と教えてくれた。
――――いや、使えよ! 仕事に支障出てんじゃん!
…と言うツッコミは呑み込んだ。人それぞれ、ポリシーってものがあるんだろう。
俺だったら躊躇いなく飲むけどな。ギックリ腰の痛みを経験したことはないけど、2〜3日動けないって聞くし。
まぁ、そんな経緯で、俺は薬屋の店主の下に向かい、正式に依頼を受けて、ポーション作りに励んでいるわけだ。
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ポーションを作るのは簡単だ。
調合道具のすり鉢に薬草を入れてすりこぎ棒で数回擦り潰し、水を加えて掻き混ぜれば完成だ。そのあと、10センチほどの試験管に自動的に詰め替えられる。
この一連の作業をオートモードで行うと、気付いた瞬間にはすべて終わってしまっている。時間にして、大体3秒くらいだろう。ポーションを作ったっていう実感がまったくなかったから、突然メッセージウィンドウが表示された時は、正直少し戸惑った。
クエスト達成に必要な下級ポーションは10個。材料も作業場所も店側が用意してくれるから、オートでポーションを作れば、あっという間に終わる。それを今も続けているのは、このクエストが延々と続けられるクエストだったからだ。
最初の10個を納品した時、メッセージウィンドウが現れて、まだ続けるか否かを尋ねられた。時間潰し……と言うと聞こえは悪いが、暇だったのは事実だから、俺はこれを受託して、それ以降、延々と繰り返している。
このクエストは、拘束時間の割に報酬がよく、1回こなす毎に300Gが貰える。さっきも言ったように、オートでポーション作りを行えば、約30秒ほどでクエストを完了させられるんだから、かなり実入りのいいクエストだろう。その他にも、クエストをこなすことで、調合スキルのレベルを上げることができる。
今の俺の調合スキルはLv.8。《乾燥》という新しいスキルを習得したし、回復薬の他に、状態異常を引き起こす調合薬も作れるようになった。
レベルが上がってからは、ポーション作りをオートからマニュアルモードに変更して行なっている。その方が、スキルのレベルが上がりやすいことに気付いたからだ。
それに、マニュアルはオートと違って、作り方に手を加えることができる。
例えば、薬草を念入りに擦り潰してみたり、逆にほとんど擦り潰さないで次の工程に進んでみたり、加える水の量を適量より多くしてみたり、反対に少なくしてみたり、試験管に詰め替えられる前に、店主から借りた布で濾してみたり――――…などなど。とにかく思い付く限りのことが試せる。……まぁ、材料を提供してもらっている立場で、思い付きを試そうとするのはどうかと思うが。因みに、乾燥させた薬草を使うと、ポーションとは別の回復薬が作れる。さすがにポーション用の薬草を、別の回復薬作りに使うなんてできないから、それは自分で採取した薬草で試すつもりだ。
用意された材料で試すことに多少の罪悪感を抱きつつ、色々やってみた結果、最も回復量が多くなる工程が分かった。
まず、薬草は少量の水を入れてから念入りに擦り潰し、水は先の工程で使用した分を含めた適量を加えて、軽く混ぜた後に布で濾す。
この手順で作った下級ポーションは、回復量が33に上がる。通常は30だから、10%も上がっている。…下級ポーションだと、回復量が上がっても大して増えたようには感じられないけど、中級からは回復量が驚くほど跳ね上がるらしいから、たった10%でもかなりの回復量になるはずだ。
オートからマニュアルに変更しても、完成したポーションを試験管のような瓶に詰め替えるのは自動だった。そもそも、空のポーション瓶は店側も用意してくれなかったから、もしそこが自動じゃなくなってたら、完成したポーションを前に途方に暮れてたかもしれない。…と言っても、俺が使っている調合道具は、簡易用の小さなすり鉢だったから、出来上がるポーションは1個分だけなんだけど。
自作した手順は、オートモードに登録ができるようなっているから、忘れないうちにしっかりと登録しておく。これでオートでも、通常よりも回復量が多いポーションが作れるようになった。…ま、クエスト中は使用しないけどな。
え、何で使用しないのかって?
時間潰しのために延々とクエスト受けてるんだから、オート使ったら意味ないだろ?
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い草っぽい植物でできた丸座布団の上にあぐらを掻き、股の間に卵を置いた状態で、ゴリゴリとすりこぎ棒で薬草を擦り潰す。丸座布団と一緒に、作業テーブルも貸してもらえたのはラッキーだった。おかげで卵を抱えたまま作業ができる。…一応、調合道具一式にも作業台はあったんだけど、それを使うと立った状態でポーションを作らなきゃならないし、店の椅子を借りたとしても、卵を抱えて作業するには不安定過ぎただろうから、本当にありがたかった。
1時間毎に抱える卵を替えながら、ひたすらポーションを作る。薬草を念入りに擦り潰す作業は骨が折れたけど、調合スキルのレベル上げも兼ねてたから、とにかく頑張った。
そしてクエストを100回――――つまり、下級ポーションを1000個納品した時、店主から今までとは違った反応が返ってきた。
「まさかこんなにポーションを作ってくれるとはな。とても助かったよ、ありがとう。これは儂からの感謝の気持ちだ。受け取って欲しい」
親しみを込めた笑みを浮かべて、店主がポーションと小袋を差し出してくる。
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【お知らせ】
薬屋の店主の信頼を得ました。
条件を満たしたので、特別な報酬を得ました。
《特別報酬》
上級ポーション×1
魔力草の種×30
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は? 特別報酬?!
しかも上級ポーションに、魔力草の……種!?
確か魔力草って、MPを回復させるマナポーションの材料だろ? その種ってことは、栽培すれば貴重な魔力草が収穫できるってことか!
AWOでは、動かずにじっとしていれば、戦闘中でもMPだけは自動回復するからか、マナポーションの材料である魔力草がなかなか見付からないらしい。
だからまとめサイトでは、マナポーションは作るものじゃなくて買うものだ、と書かれていた。ただ、マナポーションの値段は下級でも高く、気軽に買えるものじゃない。実際、道具屋の売り物一覧に載っていた下級マナポーションの値段は、回復量は同じなのに下級ポーションの5倍だった。因みに、ポーションの材料である薬草や状態異常を引き起こす薬草は、探せばすぐに見付かるそうだ。
正規版でも、魔力草が見付けにくいのかは分からないけど、定期的に採取できるなら、その方がいいだろう。でもそのためには、農耕のスキルが必要になるけどな…。
「ありがとうございます。この種は大切に使わせてもらいます」
「ああ。ところで、お前さんはハイエルフだろ?」
…エルフ族特有の耳じゃないのに、よく俺がエルフの上位種であるハイエルフだって分かったな。店を営んでると、洞察力とかが磨かれたりするのか?
店主の慧眼に感心しながら、俺は頷いた。……プログラム云々のツッコミは聞こえない。聞こえないったら聞こえない。
「ハイエルフなら、成長すれば《薬草栽培》のスキルを覚えるはずだ。覚えたら、北区で畑を買って植えるといい」
えっ、ハイエルフってレベルが上がると、そんなスキル習得するのか?! じゃあ、わざわざ農耕スキルを取らなくてもいいのか!
「はい! 習得したら、早速植えてみますっ」
思わぬところから有益な情報を得られた俺は、自分でも分かるほどのホクホク顔で、薬屋の店主から特別報酬と通常報酬の300Gを受け取った。
孵化まであと――――15:52:09。




