3話 ゲームのスタートは確認から
パックとのチュートリアルを終えた俺は、始まりの都市・アルビスタに降り立った。
始まりの都市・アルビスタは、公式サイトで公開されていたSSの中にあった、中世ヨーロッパ風の建物が並ぶ美しい都市で、中央区を中心に東西南北の5つに区分けされているらしい。
俺が降り立ったのは、中央区にある広場。どうやらここは、すべてのプレイヤーが最初に降り立つ場所のようだ。
軽く辺りを見渡して、様子を窺う。
広場にはたくさんのプレイヤーがいた。多分、俺と同じようにアルビスタに降り立ったばかりなんだろう。そんなプレイヤーたちの傍らにいるパートナーは、本当に千差万別だった。子猫のような小さな獣系から、コモドドラゴンのような大きな爬虫類系までいる。
「…と、悠長に周りよりを見渡してる場合じゃなかった。まずはステータスの確認だな」
ステータス、と念じると、頭の中に自分のステータスが浮かび上がってきた。
…俺はこの感覚がどうも苦手だ。慣れてしまえばどうってことないんだけど、初めのうちは、やっぱり感覚で確認するより、ちゃんと目で見て確認したい。
すぐにステータスやインベントリー、マップ、クエスト発生などを知られるメッセージを視認化する。視認化といっても、これらが他のプレイヤーに見えることはない。誰かに見せる場合は、可視化しなければならないからだ。
ステータスを視認化したことで、目の前に半透明の画面が現れた。
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名前:カーラエル
レベル:1
種族:ハイエルフ
クラス:付与魔法師
空腹度:0
HP:67/67
MP:102/102
筋力:5(+1)
体力:30(+7)
知力:31(+3)
器用さ:24
素早さ:27
運:50
【スキル】
付与魔法 Lv.1
・属性付与
・耐性付与
杖術 Lv.1
調合 Lv.1
言語学
植物学
採取
鑑定
【装備】
武器:柊の杖
頭:なし
体:木綿のローブ
足:旅人の靴
アクセサリー:なし
アクセサリー:なし
アクセサリー:なし
アクセサリー:なし
アクセサリー:なし
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レベル1でMP100超えか。さすがハイエルフ。HPも思っていたよりずっと高い。体力にポイントを多めに振っておいて正解だったな。
《調合》と《採取》のスキルがあるのも嬉しい誤算だ。きっと種族がハイエルフだからだろう。《言語学》や《植物学》のスキルも、同じ理由で習得したのかもしれないな。
因みに《鑑定》は、全プレイヤーが初めから習得しているスキルだから、種族やクラスは関係ない。
手始めに、《鑑定》で《植物学》を調べてみる。
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植物学
あらゆる植物に精通し、鑑定できるようになる。
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鑑定できるようになる…?
つまりこのスキルがないと、鑑定できない植物があるってことなのか?
確認しようにも、既にこのスキルを習得してしまっているから、検証すらできないが。
ついでに《言語学》も鑑定してみる。
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言語学
あらゆる言語を理解し、話すことができる。
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…うん。まぁ、予想通りの結果だな。
さて、次はインベントリーの確認だ。
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所持金:1000G
下級ポーション×3
携帯食×10
簡易調合道具一式
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お、《調合》スキルを持ってるからか、最初から調合道具が入ってる。性能は最低限のもののようだけど、序盤はこれで十分だろう。
「………ん?」
ふと、誰かに見られてるような気がして、俺は視線を周りに向けた。
軽く見渡してみると、広場にいるプレイヤーが何故かチラチラと俺を見ている。
――――アバターのせいか?
それ以外考えられなかった。
このアバターは、『神が丹精込めて作り上げた芸術品』みたいな文章が当て嵌まってしまうような出来栄えだ。AWOの開発チームは、デフォルトアバターにも手を抜かなかったんだろう。
随分気合入れて作ったな、とか思われてそうだよなぁ……。
実際はほぼデフォルトなんだけど。
渇いた笑いを浮かべつつ、俺はパートナーを確認しようと足元に視線をやって――――…固まった。
――――卵だ。
30センチはある卵が2つ、俺の足元にあった。
「……は?」
え、卵? 何で卵? しかも……2つ?
…え、え? ちょ、ちょっと待って、待ってくれ! まさかとは思うけど、これが俺の……パートナー?
――――パッ!
愕然とする俺の目の前に、クエストの発生を知らせるメッセージが現れた。
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【特殊クエスト】
あなたのパートナーは、特殊な個体になる可能性を秘めています。
卵と共に過ごし、孵化させてください。
あなたの行動によってすべてが決まります。
大切に育てましょう。
《注意》
ログアウト中は、カウントが止まります。
〔23:59:59〕
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「はあっ?!」
特殊クエスト!? しかも孵化するのは24時間後で、ログアウト中はカウントが止まる?!
――――嘘だろッ!?
確かゲームの規定で、日本時間の午前0時を起点に、1日のうち最低8時間はログアウトしてなきゃいけない。例え小まめにログインとログアウトを繰り返していても、1日のログイン時間が16時間に達してしまえば、強制ログアウトだ。そのログアウト中にカウントが止まるってことは、この卵が孵化するのは……32時間、後…?
「……そんな…」
付与魔法師の俺には、パートナーが必須だ。筋力が5しかない俺がフィールドに出ても、モンスターにやられて死に戻るに決まってる。
他のプレイヤーとパーティーを組んでも、スキルレベルが1の付与魔法師じゃ、大した戦力にならないし、寄生になりかねない。
俺のスタートダッシュ計画……完全に詰んだ…。
何だか体の力が抜けてきて、俺はその場に蹲み込んでしまった。
パートナーと一緒にフィールドを散策して、レベル上げする気満々だったのに……。
意気込んでた分、ショックは大きい。思わず脱力してしまうほどにはショックだった。
それにしても……さっきこっちをチラチラ見てたのは、俺じゃなくて卵を見てたんだな。
――――そりゃチラ見するよな!
周りはヘビやらトカゲやら、狼やら熊やら、鷹やら梟やら、色んなパートナーがいるのに、俺の足元にはあったのは、卵だったんだからな!
当事者じゃなかったら、俺だって見る! むしろガン見する!
なのに俺は、アバターを見られてると思ってたんだから、自意識過剰も甚だしいよな。あー、恥ずかし!
はぁ〜、と大きく息を吐いて、俺は気持ちを切り替える。
スタートダッシュが失敗に終わったのは残念だけど、満足に戦えない状態なんだから諦めるしかない。それに、経験値増加のようなイベントが開催されてるわけじゃないし、多少出遅れても、そんなに差は付かないだろう。
それよりも――――…。
周りに視線を向ける。
プレイヤーの傍らには、様々な姿のパートナーがいる。獣系、鳥類系、爬虫類系。まさに千差万別だ。
だけど――――、卵はいない。
卵なのは、俺のパートナーだけだ。
もしかして、パートナーが卵状態なのはレアなんじゃないか?
だから特殊クエストが発生したんじゃ……?
卵に視線を戻す。30センチほどの卵が2つ。
1つは僅かに灰色がかったような色をした卵だ。表面には紫色の蔦のような模様があり、卵の真ん中辺りをぐるりと一周している。
もう1つの卵も、色こそ違うが、大きさも模様も同じだ。薄らと黄色に染まった卵で、赤い蔦の模様がある。
そっと手を伸ばし、卵に触れてみる。普段見慣れてる卵とは違い、表面はつるりとしていた。
「俺のパートナー……」
この卵から生まれてくるパートナーは、特殊な個体になるかもしれない。
勿論、クエストに書かれてたように、可能性を秘めてるってだけの話であって、絶対に生まれてくるわけじゃない。それは分かってる。しかも俺の行動が、すべてパートナーに影響するらしいし。…まぁ、犯罪行為はできないようになっているから、悪影響を与えることはないと思うけど。
それでも、俺は期待したい。高いのか低いのかも分からない、その可能性に。
だって、期待して待ってる方が楽しいだろ?
特殊な個体じゃなかった時のことを考えて、今から悲観的になるなんて馬鹿だ。どうせ32時間後には結果が分かるんだから、気落ちするなら、その時にすればいい。
だから今は、――――期待する。
この卵から生まれてくるのは、どんな子なんだろう?
獣系? 鳥類系? それとも爬虫類系?
系統もタイプも指定しなかったから、どんなパートナーが生まれてくるのか、本当に予想が付かない。
「ははッ、ヤバい…。すげーワクワクする」
思わず笑ってしまい、俺は慌てて口を押さえた。口元がニヤついてしまってるのがよく分かる。
とにかく今は、クエストに書かれてたように、この卵を大切に育ててみよう。
――――何たって卵から生まれてくるのは、俺だけのパートナーなんだから。




